第47話 不思議な人たちだな
もはや何をどう捉えていいのかも分からなくなった話に思えるが、要するに俺はとんでもないことをしてしまったんだな。
それを自覚できた言葉をハンネスさんから聞けた。
「もちろんこれらはワシらの勝手極まる希望であって、ハルト殿が聞く必要もなければ、従うことなど微塵もないのは間違いないとギルドマスターとして断言するが、熱烈な歓迎の中で日々を過ごすことになるのも覚悟してほしい」
たしかにティーケリは相当強い魔物だし、熟練以上の技術力を持っていたとしても怪我じゃ済まない可能性は拭い去れない。
俺だって油断すれば大きな怪我を負ったかもしれない相手だった。
そんな存在から町を救った"英雄"。
そう呼ばれる可能性は限りなく高いように思えた。
さすがに崇め奉られることはないだろうけど、それでも度が過ぎた歓迎を受け続けて正常な精神を保てるとは、残念ながら言い切れないのが現状だ。
……俺もまだまだ未熟だからな。
だとすれば、俺はこの町にいるべきではない。
ハールスの住民たちのためにも、ここを離れるべきかもしれないな。
しかし、別の問題もある。
俺は町に着いたばかりだからな。
今から出発する乗合馬車を見つけられないと思えた。
「次の乗合馬車はいつ頃出発するか、分りますか?」
「ここは東西南北すべてが町と繋がる街道が引かれておるからの。
半日も待たずに出立する馬車へ乗れるくらいはできるじゃろうて」
「ギルド依頼として急遽町を出る必要がある、という体ではどうでしょう。
それなら個人で馬車を借りることも、すぐに町を目指すこともできます。
さすがに隣町まで噂が極端に広がることもないように思えますが、少なくともこの町で注目を浴びる前に出ることは叶うかと」
「なるほどの、その手があったか。
であれば最速で馬車の手配ができるの。
ギルド依頼の内容は……そうじゃの。
"無事に隣町へ着くこと"、でいいかの?」
「いささか内容が薄いようにも思えますが、ハルト様には秘匿性の高い依頼をお願いしている旨も伝えましょうか」
「それがいいかもしれないの。
あとはハルト殿次第じゃが、どうするかの?」
とんとん拍子の進展に、俺は置き去りになっていた。
だが聞きたくなる気持ちを抑えきれず、考えるよりも先に口が動いた。
「……一介の冒険者に、なぜそこまで良くしてくださるのですか?」
いくら凶悪な魔物を倒したとしても、これほど良くしてもらえるとは思えない。
感謝されることは分からなくはないが、その理由を俺は知りたくなった。
無礼な問いにも思えるものにも頬を緩ませたハンネスさんは、とても柔らかく穏やかな口調で静かに答えてくれた。
「ティーケリを倒した者が一介と呼ばれるとは思えないが……そうじゃの。
しいて言えば、"ハールスを嫌ってほしくないから"、かの。
この町はワシらにとって第2の故郷でもある。
やはり旅人には楽しい時間を過ごしてほしいと思ってしまうのう」
本当ならば多くの特産品を食べ歩いてほしかったと、とても寂しそうに答えた。
これまでの話から少々厄介なものを抱え込んだ住民なのは分かっているが、この町に留まりたいと思える気持ちもかなり強く感じられた。
だが、それを彼らは危惧している。
結果的に俺がこの町の印象を悪く思ってしまうんじゃないかと。
それが彼らにとってどれほど辛く悲しいと思えることなのか。
今の彼らが俺に向ける表情から、はっきりと窺い知れた。
俺は本当に恵まれている。
こんなにも感じのいい人たちと出会えた。
これまでだってそうだ。
この世界に放り出されてから、俺は多くの人たちの助けがあってここまで来た。
……不思議な人たちだな。
俺と年がそれほど離れてないように思える人たちからも、どこか達観したような大人の気配を感じさせた。
いや、俺が"子供"なだけだな。
命と隣り合わせの世界だからこそ思うところも多く、考え方そのものが俺とはまったく違うと感じさせるほどの濃密な時間を過ごしてきたんだろうな。
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