第16話 理由にはならないぞ
腰へつけた革製の剣帯に剣を差すと、それなりの恰好になった。
胸部の革鎧のせいもあるが、これなら冒険者として見られるようになるはずだ。
……そう、思っていたんだが……。
「……顔立ちが優しいせいか、どう見ても"なりたて冒険者"だな……」
「目立つか?」
「かなり、な」
威厳がないのは日本にいた時から言われてきたが、それでも舐められかねない顔立ちってのは厄介になりそうだな。
だからといって俺にはどうすることもできない以上、諦めるしかないんだが。
「……喧嘩……売られやすそうだな、ハルトは……」
「不吉なことを言うなよ……」
前途多難に思えるが、あまり深くは考えないようにしよう。
せっかくの異世界だし、最低限は楽しみたいからな。
「で、盾は本当にいらないのか?
それなりの種類を用意できるぞ」
「いや、大丈夫だよ。
便利ではあるんだが、俺には使いこなせない」
「使いこなせない?
重いからか?」
「それもあるが、盾ってのは達人が持つからこそ最大限に効果を発揮する"
「……ん?
盾は防具じゃないか?
あれは矢や攻撃を防御するためのモノだろう?」
俺の言葉に首を傾げながら聞き返された。
武芸家でもなければ、あまり考えないことなのかもしれないな。
「いや、あれは立派な"武器"だよ。
盾で防御するだけじゃ、相手の力量次第で腕ごと叩き潰される。
攻撃を逸らし、時には弾き飛ばし、突進で相手の体勢を崩す。
これだけでも使いこなせれば十分すぎるほどの武器になるんだが、正直俺は知識だけで使ったことがないからな。
剣術と格闘術があれば似たようなことはできるから、重い盾を持つ必要もない。
魔法で盾を出せるなら面白そうだが、俺には使えないだろうし諦めるよ。
……折角の異世界で魔法が使えないなんて、それはそれで寂しい気持ちになる。
攻撃だろうが補助だろうが、魔法が使えれば戦術の幅は極端に増えるからな。
どうしても憧れを抱く気持ちをなくせない俺が未だにいるが……」
言葉だけじゃなく本心から諦めないと"迷い"になりそうだ。
魔物や悪党が闊歩するこの世界では致命傷に繋がりかねない。
あまり考えないようにしたほうがいいかもしれないな。
ふと視線をアーロンさんへ向けると、目を丸くしたまま凍り付くように固まっていた。
何か変なことでも言っただろうか。
そう思っていると、氷漬けから解凍された彼は驚いた表情で訊ねた。
「ちょ、ちょっと待て。
……お前、"無能力者"として王都を追放されたんだよな?
今の言い方だと、達人並みの盾捌きを
「あぁ、そのことか。
似たような形で対処できるって意味なんだが、おおむねそうだよ。
でもなければ、法則すら違う異世界に放り込まれた上に王都を追放されて平然としてるのは、頭のおかしいやつとしか言えないだろ?
俺は体術はもちろん、剣術も元いた世界でしっかりと指導を受けて学んでるよ」
驚きから驚愕の表情に変えるアーロンさんに思うところはあるが、恐らくこの世界では他人から技術を習うことは、それほど一般的じゃないんだろうな。
「武術を習うことは、そんなに珍しいのか?」
「……い、いや、そうじゃないけどな。
召喚者が武術を習っていたとは聞いたことがない。
全ての伝承を知っているわけじゃないし、俺が知らないだけかもしれないが、少なくとも"無能力者"として放逐される理由にはならないぞ、それは……」
「それについては妥当な判断だと俺は思ってるよ。
そもそも俺には魔力の欠片すら見られなかったし、特殊技能、こっちでは"スキル"だったか?
そういった類の力も持っていない」
むしろ、俺のいた世界ではないのが当たり前だと話した。
スキルと言えば技能のことだが、ゲームやアニメのように体現させることはできないし、そんなものはそもそも創作物の中だけだからな。
「……改めて聞くと、ハルトのいた世界ってのは随分と信じがたい場所だな……」
「俺からすると魔法やスキルのほうが不思議なものって感覚だぞ」
「お互い様か」
「だな」
思えば異世界人同士で話してるわけだよな。
そういった"違い"を共有できる相手がいることに感謝をするべきだろう。
何も知らずに放り出されていれば、今もこうして落ち着いた気持ちになっていないはずだからな。
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