『スキルなし』を理由に王都追放されたが、正直どうでもいいので自由に異世界を旅してみる
しんた
第一章 王都追放
第1話 異世界召喚
「ぶははは!
お前! "追放"だってよ!!
そんなのラノベでしか読んだことねぇ!!」
同世代の少年の笑い声が謁見室へ高らかに響き渡る。
どうやら人に指をさすのは良くないことだと教えられずに育ったようだな。
* *
始まりは確か、通学途中のことだったと記憶している。
いつもと同じ日常を、いつもと同じ時間に繰り返す。
そこに一切の特別性などは感じられず、ただ学校と家を往復する毎日。
何かを期待していたわけじゃない。
友達とだべり、将来の役に立ちそうもない勉強をひたすら頭に詰め込み続けるくらいなら心身を鍛えたほうがずっと有意義だとは思うが、だからといって自分が学生であることに不満があるわけでもなかった。
そんな日常が突如として終わりを告げ、見知らぬ世界に放り出されるとは。
空を見上げながら駅へ向かう俺には想像すらしていなかったことだった。
聞きなれた日本語で会話する男たちの言葉に意識が向く。
召喚魔法は成功だの、勇者様を呼び寄せただの、これで王国は救われるだのと。
どれをとっても理解に苦しむ。
いっそ盛大に騙されているか、どこぞで反応をモニターされてると考えたほうがある意味では自然かもしれない。
だが、それを否定するかのような石造りの儀式場。
怪しげな円形の魔法陣が地面に描かれ、それを取り囲むように映画やアニメでしか見たことのないようなローブを身にまとう人物たちが倒れている光景は、どう見ても異質な空間だとしか思えなかった。
そして部屋の隅に陣取っている西洋騎士のような鎧と、腰に差した剣。
思わず注視してしまうが、あれらは間違いなく本物のようだ。
そうでもなければ、あれだけ重々しい金属音を立てないだろうからな。
いたずらにしては手が込み過ぎている。
一般人のガキを相手にするドッキリにしては悪質だ。
現状と周囲の確認をするも、とてもセットとは思えない石造りの建築に寒々しい空気を感じた。
言語が通じているが、見るからに日本人じゃない。
会話している男たちの口元に、思わず眉にしわを寄せた。
口調と口の形が合っていないように見える。
読唇術なんてものは体得していないが、それくらいは分かった。
……だとすると、本当に色々と厄介なことになりかねない。
仮に勇者召喚なるもので異世界に呼ばれたのだとすれば、その先に待つのは面倒で危険な厄介事だけだ。
ちらりと横を見る。
同時に召喚されたと思われる男は、これでもかと瞳を輝かせていた。
その凄まじいまでの順応力に驚きはしたが、さすがに羨ましくは思わなかった。
……にしても、召喚術者と思われるローブの人物が6人も倒れているのに、介助する気はないのか。
それとも、そうするだけの重要な任務と捉えるべきか?
国どころか、世界の存亡がかかっているのなら分からなくはないが、もしかしたらそれ以外の意味も含まれているのかもしれないな。
説明も適当に、俺たちは王との謁見を望まれた。
その対応に思うところも多いが、ここで反論しても意味がない。
豪華な回廊を歩きながら、同世代の少年と軽く挨拶をした。
「
「なんだよ、タメかよ!
俺は
"この世界を救う勇者"だ!」
……その考えがどれだけ危険なものか、こいつは分かっているんだろうかと心配になる。
ともあれまずは情報が必要だ。
もしも人智を超えた存在を相手にさせるつもりなら、こちらもそれなりの覚悟を持たなければならない。
この時の俺は、そう思っていた。
まさか一条の言うように、ラノベでしか読んだことのない展開になるとは。
いや、それも勇者の証拠を確認すると怪しげな水晶を持ち出したことで、その可能性に気づいてはいたが。
ともかく。
目尻に涙を溜めながら爆笑する一条を横目に、俺はため息しかでなかったことだけは確かだな。
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