第10話 家族になる魔法


「はぁ……はぁ……見つけた……!!」


 日が落ちていたお陰で、小さなランタンの明かりでも見つけることが出来た。

 真っ暗闇で暮らしていたお陰で、夜目が利くようになったのがこんな所で役立つなんて……。



「レーベン!!」

「ポルテ……? どうして来たんだ!! しかも一人で!!」

「あぁん? なんだ、この小娘は『バァン!!』うおっ、なんだコレぁ!?」


 ふふふん、この“ろけっとはなび”の威力はどんなもんですか!!

 コレは地下室にあったけど、怖くて使いどころが無かったとっておきのアイテムなんだから。


(卑怯、だなんて思わないでよね……!!)


 いくら助けに来たと言っても、『宿借り女』の私に戦う術なんて無い。

 だから私は私の持っているものを使って戦うしかないのよ!!



「クソっ……こいつ、変な武器持ってやがるぞ!?」

「火の道具だ!! お前ら、いったん引くぞ!!」


 得体の知れない道具に恐れをなしたのか、盗賊たちはレーベンを置いて逃げていく。

 川を渡って行ったからそのまま消えるのかと思いきや、自分たちの家を召喚して中へと入っていった。

 もしかしたら、家にある装備を整えてから逆襲しに戻って来るのかもしれない。


 いや、今はそれよりも。



「大丈夫だった、レーベン!?」

「あ、ああ……」


 手を後ろ手で縛られてはいたものの、特に何かされていたわけじゃ無いらしい。

 でもなぜレーベンが盗賊なんかに誘拐されたの!?


「どうしてボクなんかを助けになんて来たんだ!! ボクはキミの為にあの家を出て行ったのに!!」


 私が一生懸命彼の手首に巻かれたロープを剥がそうとしている間も、彼は私に向かってそんなことを言う。


「なんで……ですって?」

「そうだよ! あのまま家も出せない無能なボクが居なければ、キミをこんな危険に巻き込むことも無かったのに!」


 私はその一言で、完全に我慢の限界に達してしまった。

 彼を解放するのも忘れて、衝動的に彼の襟首えりくびを掴み上げる。


「舐めないで!! 私が貴方を家の良し悪しで、一緒に居るかどうか決めるとでも思っていたの!?」

「だって……!!」

「私が欲しかったのは便利な家でも、お菓子の作れる家なんかでもない!! 家族だよ!! 私は! 他の誰でもない、の!!」


 私は言ってやった。

 このニブチンで究極のお馬鹿に、思ってたことを、全部。

 レーベンの居ない家で食べるご飯の不味さや、寂しさとか、一緒に居るだけで心があったかいとか……


「私は……こんなにもアンタのことを「ごめん、分かった。分かったから!!」何よ、卑怯者!! 最後まで全部言わせなさいよ!!」


 恥も外聞もなく、私は泣きじゃくりながら訴えた。

 もうこの手を離すもんか。今度は私が引き摺ってでも家に連れ帰ってやる。


「違うよ。ボクだって男だ。その先はボクが言う。……ポルテ。愛している。ボクと、家族になって欲しい」

「……ぐすっ。ホントに……?」


 脅したから告白されたなんて、イヤだからね?


「ホントだよ。ボクはずっと前から……いや、一目見た時からキミのことが大好きだった。一緒に暮らしていて、記憶も家も無いボクを、いつも同じ目線で見ていてくれた。それが、とっても嬉しくて、心地良かったんだ」

「ううっ……私も、だよぉ……」


 悔し涙が、一瞬で嬉し涙へと変わった。

 だけど泣き続けている場合じゃないみたい。


「おらァ!! 俺たちを舐めんじゃねぇぞ!!」

「そうだ! ソイツを大人しく引き渡せ!!」


 川の向こう岸で、完全武装した盗賊たちが今にも向かって来そうだった。

 たぶん誰かが防具屋や武器屋の家だったのだろう。

 ゴロツキとは思えないほどの豪華な武装をしている。


「ポルテ……」

「うん、たとえ今ここで命を落としたとしても」

「ああ、ボクたちは家族ファミリーだ」


 荒々しい声を上げながら襲って来る盗賊たちを前に、私たちは家族になる誓いを果たす。

 目を閉じ、彼の柔らかい唇が、私のそれと重なる。


 彼の体温と一緒に何かが伝わってくる。

 楽しく、安心するような……それでいて、どこか切ないような感覚。

 共に過ごし、共に育み、共に朽ちる。

 悠久の時の流れがレーベンの記憶と共に、私にも流れ込む。

 現実ではどれだけの時間が経ったか分からない。

 心と心がカチリ、と繋がる感覚がした。

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