第7話 “ぶれぇかぁ”


「……つまり、その“ぶれぇかぁ”というのをオンにしたらこの家が動き出したってことなのね?」


 私は今、煌々こうこうと光り輝くキッチンで地下室にあったブドウジュースとチーズをモグモグと食べながらレーベンを問いただしている。

 あ、こっちの干し肉も絶品だわ。



「そうだよ。何故かは分からないんだけど、あのスイッチを入れればこの家で色々出来るって分かったんだ」

「ふぅん。まぁお陰様で明るくなったし、地下室も開くようになって私はこうして美味しいものを食べられているワケなんだけども」


 理由なんてサッパリ分からないけれど、レーベンが“ぶれぇかぁ”を入れてからこの家は命が宿ったかのように色々なモノが使えるようになった。

 あれだけ何をしてもうんともすんとも言わなかった蛇口からは川のように水が出るようになったし、オーブンの火もスイッチ一つで簡単にくようになった。


 だけど、それだけじゃない。

 レーベンがスイッチを押せば箱の中に人が現れて知らない言葉を喋り出すし、別の箱からは涼しい風や温かい風が吹き出すようになった。

 他にも今まで動かなかった家具たちが息を吹き返し始め、たくさんの事が出来るようになったのだ。



 ちなみにレーベンには、地下室に沢山あったお湯で温める保存食を出してみた。

 銀色の袋に入った怪しい食べ物で、中身は茶色の得体の知れない液体が入っていた。


 作り方は絵で分かったんだけど、心配だからちょっと毒味……じゃなくて試食してもらおうと思って、それを彼に作ってみた。

 食欲をそそるようなスパイシーな匂いだし、彼も美味しそうに食べている。

 ……よし。コレもあとで食べるリストに追加だ。

 お湯を入れるだけで食べられるという“かっぷらぁめん”というのも食べてみよう。



 ともかく、これらの使い方が分かるレーベンは、私にとって救世主だった。

 きっと彼は天に居るお母さんが私に使わせてくれた、天使様なのだろう。


 なにより、家に独りじゃないという安心感が、私の心をこれ以上ないほど満たしていた。



 そうだ。

 この時にはきっともう、私は彼を手放したくないと思い始めていたんだと思う。




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