小雨の中で

吉原司

第1話

 7月初旬の湿気と蒸し暑さをマスクの下で感じながら、成瀬陸なるせりくは傘を持たずにここまで来てしまったことを少し後悔した。

 スマートフォンの天気予報では、夜までの降水確率は0%。

 しかし朝から厚い雲が空を覆い、雨の気配が漂う1日だった。

 陸は、どうか雨がこのまま降らないようと祈る面持ちで空を見上げた。

 行きかう人々の顔は皆マスクで覆われていた。

 平時のこの時期には異様とも思われる光景も今ではすっかり生活の一部として定着した感があった。

 陸は歩道脇に逸れて、人気の無いタイミングを伺いマスクを下げてふと息を吐いた。

 湿気の多い梅雨の季節にマスクを着けて歩くということがどれほど身体に堪えるか、身に染みて実感することとなった。

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