生徒の成績で競うデスカードゲーム 後編
「やまもと・・・先生?」
神崎の搾りだしたような声が静寂の中に響く・・・
力なく項垂れた様子の山本の前に合計900mlの血液が飾られていた・・・
致死量ではないがその量は十分に出血性ショックを引き起こす量である。
しかも足首に取り付けられた装置から容器に繋がる管の中にも幾分かの血液が入っている。
確実に900mlを超える血液が山本から抜かれたのは確実であった。
ビクンッ・・・! ビクッビクッ・・・
「うそ・・・そんな・・・」
神崎は涙目になりながらそれを見続ける・・・
目を反らすのは簡単だ、だが自分の選択した結果なのだから・・・
山本からの提案を裏切り、早くゲームを終わらせたいと願った自身の選んだ結末・・・
そして、山本自身も生徒の命ではなく自身の血を選択した結末・・・
失った血が多すぎて痙攣を起こしている山本、徐々にその痙攣も落ち着いてそのまま動かなくなっていった・・・
それが落ち着いた状況なのか、絶命した状況なのかは分からない。
だが、山本が動かなくなったのは間違いなかった・・・
「ふむ・・・」
校長が一言口にして歩いて近寄ってくる・・・
唖然とする神崎を一切気にする事なく、校長のそのてが山本の腕に伸びる・・・
「ふぅ・・・」
手首の脈を計ったのだろう、深いため息を一つ吐いて首を横に振った・・・
それと共に、山本の手からカードが落ちていく・・・
1枚・・・また1枚と床へ舞い落ちるカードは彼の命が散っていくのを表す様に1枚ずつ手から滑り落ちていく・・・
「決着ですね・・・非常に残念な結果になりました」
そう告げた校長の声は一体誰に語っているのか、まるでこの場にいる第三者に宣言するかのように上を見上げて校長は声を発した。
意味が分からず混乱のさなかに居る神崎は意味が分からず涙や鼻水でいっぱいの顔で唖然としていた・・・
そんな神崎に校長は微笑みながら顔を向け・・・
「それでは・・・執行します」
一体なにを?
それを問おうとしたと同時であった。
ガシャン!!!!
「ひっ?!」
神崎はそれを見て絶句した。
想像を超えた光景が目の前に広がりあり得ない現実に目の集点が乱れる・・・
目の前に居る山本先生の後ろ、そこにある檻の中にはさっきまで彼のクラスの生徒達が座っていた。
その首に掛けられたロープが一斉に引き上げられ、30程のてるてる坊主が完成する・・・
そう予想はしていた、だが目の前のそれはあまりにも残酷で酷い光景であった。
「あ・・・あわわ・・・」
「美しいでしょう?素晴らしいですね・・・」
急激に引き上げられたことで生徒の首の骨は確実に折れている事だろう。
だがそれ以上に天井に叩き付けられた頭部から噴き出す血のスプリンクラーが牢の中を赤く染めていた。
床や生徒の座っていた椅子を赤一色に染める光景、非現実的なそれに神崎は目を奪われていた。
自身の最後の裏切りが招いた結果なのだと自問自答が繰り返されているのだろう・・・
「おめでとうございます神崎先生、それでは最後の決済を行いましょう」
「・・・け・・・さい?」
「はい」
そう言って校長が微笑み片手をスッと上げる。
すると神崎と山本の足元の床がゆっくりと回転し、自身の生徒が正面に来る形になった。
そう、そこには神崎のクラスの生徒達が牢の中で椅子に座っている・・・
その中でたった一人、谷口 静香だけが首を吊られたままの状態である・・・
「谷口さん・・・わ、わたしは・・・私は・・・」
山本だけでなくその生徒全員の命を奪った神崎は限界であった・・・
人は心が限界に達した時に心を自ら壊す事がある、自我の崩壊を防ぐ為に先に自身を壊して防ぐのだ。
だがその前に校長の言葉が耳に届いた。
まるでそうさせない為に・・・
「ペナルティの時間です。生徒1名の命に付き、1000mlの血液を支払って貰います!」
「はっ?」
「神崎先生、頑張って・・・」
そう語る校長は愉快に楽しそうに微笑みながら醜悪な顔を神崎に向けて告げた。
それと共に足首の管から神崎ん血液が吸い上げられ目の前の容器の中に入っていく・・・
「いやっ・・・いや・・・い、いやああああああああああああああああああああ!!!!!!」
半狂乱になりながら暴れる神崎、だがその抵抗は何の意味も持たず拘束された体は解放されることは無い。
ただただ目の前に自身の体内から抜かれた血液が移るその光景を見るか見ないか、それしか彼女に選択肢はないのだ。
「ああ”っ?! あ”っ! あがっ・・・ あ”っ・・・ おっ・・・ おげっ・・・」
発狂した声が徐々に掠れ、吐き気が込み上げる呻きへと変化していく・・・
告げられていないペナルティのせいで生き残れた可能性を潰してしまったと校長を最後の力で睨みつける。
歯を食いしばり死に物狂いの視線が校長に向けられる。
眼球内の毛細血管が浮かび上がり目が真っ赤になる程の憎しみの籠もった顔・・・
それが彼女の最後の力を振り絞って見せた表情であった。
「残念です。神崎先生と山本先生、お疲れ様でした」
拘束されたまま痙攣している神崎を置いて校長は踵を返した。
少しして後方でガシャン!!と大きな音が響き、神崎の生徒全員の首のロープが一斉に引き上げられた音が響く・・・
神崎の絶命が確認されたのだろう、悲しそうな表情を浮かべた校長はその何もない空間を見上げ口を開いた。
「如何だったでしょうか?我が神よ」
『・・・ガガ・・・ガガガ・・・』
何処からか響く雑音の様な音。
その音が徐々に周波数を合わせるかのように変化し、静かになってから声が届いた。
『愉快!非常に愉快じゃ!』
「楽しんで頂けたようで大変喜ばしく思います」
『うむ、大儀であった。それでは報酬じゃな・・・死者94名か・・・一クラス生き残ったのも高評価であるぞ』
「ただの全滅では面白みに欠けますから」
『誰が生き残り、誰が死ぬのか分からぬからこそ見る価値があるという訳か・・・非常に堪能したぞ』
「ありがとうございます」
『うむ、それでは此度の報酬じゃ』
そう聞こえ校長の体に小さな光が集まり体の中へと入っていく・・・
何時の間にか校長の体は変化し、ローブを纏った男の姿へと変化していた。
その男は両手を合わせ、その声の主へ命を捧げる。
『940年の寿命を授ける』
「ありがとうございます」
『次回も期待しているぞ』
「ご期待に応えられますよう頑張らせて頂きます」
男の名は『ガイア』神に選ばれたエンターテイナー。
彼は自身の寿命を得る為に神に人間の命を賭けたデスゲームを披露する存在。
これは神の退屈を紛らわす為に人間にデスゲームを仕掛ける神の使途の物語・・・
「しかし、Aクラスの完全勝利はまだいいとして、このゲームの攻略法に気付いた山本・・・非常に興味深いな・・・」
今回行った生徒の成績で争うデスゲーム、これの完全な攻略法は生徒の命を一切奪う事無く教師同士が協力し血液か引き分けでゲームを10戦終える事。
その為にAクラスとBクラス、CクラスとDクラスの勝負だったのである。
もしもこれが成績に差が在るAクラスとDクラスの勝負だったのであればDクラスが生き残るのは絶望的であるのだから・・・
神は一方的な殺戮を好むわけではない、命の尊さを理解しているからこそ足掻き苦しみ生き残りを見出す行動を楽しんでいるのだから・・・
「彼の次の転生先は・・・そうか、では次回も彼には踊って貰うとしようか」
そう言って男は闇の中へとその姿を消した。
『えーこちらが今回謎の猟奇大量殺人があった××学園です・・・』
テレビからニュース報道が流れる。
学園の地下で大量の生徒が首を吊るされ頭部を天井に強打し死亡。
3人の教師もテーブルの前で血液を抜かれて死んでいるという事件が報道される中、行方不明となった校長の捜索が続くと言った内容である。
それをリモコンのボタン一つで消す少女が居た。
「これで良いんだよね?お兄ちゃん?」
誰も居ないそこへ語り掛ける少女はテレビのリモコンをそっと置いて部屋を出て行く・・・
誰にも語られる事の無いこの物語の真実とは・・・
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