生徒の成績で競うデスカードゲーム 中編

「うそ・・・だろ・・・」


Dクラスの担任である山本はその光景に目を疑った・・・

縛られている自分の後方は勿論見る事が出来ない、だが向かい合っている相手の後方は嫌でも視界に入ってしまうのだ。

そう、2回目のゲームで敗北したCクラスの担任である神崎、彼女は自身の血液ではなく生徒の命での決済を行った。

その結果、出されたカードの出席番号の生徒、出席番号15番、谷口 静香の首に巻かれたロープが吊り上がったのだ。

生々しい光景が山本の目に写り込み、悲惨な状況に吐き気が込み上げる。


「なに?ど、どう言う事ですか山本先生?」


生徒の命での決済を指定した神崎先生はそれを視認する事が出来ない。

体を固定され、自分のクラスの状況が分からないのだ。

だが正面に居る山本の絶句した表情に嫌でもそれを想像する事は容易かった。

即ち、自らの選択で自分のクラスの生徒が1人・・・


「それでは第3ゲームを開始しましょう」


二人の精神状態がパニックになっているにもお構いなく校長はそう言葉を発した。

生徒が一人、そこで死んだというのに気にした様子もないその言葉に、二人は信じられない様な目を向ける。

だがそれを気にした様子もなく校長は告げる。


「さぁ、カードを1枚取って」


馬鹿げている、こんな事が許される筈が無い、だが校長の本気が証明されたのも事実・・・

自身の命すらもどうなるか分からない現状、縛られた二人に出来る事は他に何もない。

ルールの通りであれば残り8回勝負すれば解放される、だったら・・・


「やりましょう、神崎先生」

「山本先生・・・」


覚悟を決めた山本の言葉に状況が飲み込めきれない神崎、だが世界の時間と言うモノは誰にも平等に流れる。

このまま時間を掛ければ誰かが救助に来てくれるかもしれない可能性はある。

だが、この学園に勤務する自分たちですらこの場所が何処なのかすら分からない状況で都合良く助けが来る事が早々在る訳ではない。

現状校長の言葉を信じ山本はカードに手を伸ばしながら思考を巡らせる。


(このゲームは10回カードで勝負を行えば終了する・・・つまりそこまで生き残れば良いんだ・・・)


山の一番上のカードを手に取りそれを見ながら山本は考え続ける・・・


(目の前の容器に書かれている表記が真実であれば1回の敗北で抜かれる血は300ml)


半泣きになりながら神崎がカードをゆっくり取っているので時間は十分にあった。

そもそも校長はゲームを急がせている訳では無いのだ。

ただ停滞させないように進行しているに過ぎなかった・・・


(校長の話が真実であれば連続で800ml血を抜かれるのは不味い、そして1200ml抜かれれば助からないだろう)


校長の話は体重50キロの人間を基準に考えた場合の話である。

山本の体重が64キロ、そう考えるとギリギリ1200ml抜かれても助かる可能性があるかもしれない。

そしてこの思考がこのゲームの違和感を導き出した。


(まてよ・・・これだと二人とも交互に血液で支払った場合は9回目でどちらかが絶対に死んでしまうんじゃないか?)

「さぁ、カードを出して下さい!」


校長の言葉にとりあえず3回戦を乗り越える為に二人はカードを差し出す。

このゲームは校長の話であれば10回勝負すれば終了出来る。

それ即ち、絶対に生徒の命を犠牲にしなければ教師は助からないという事になる・・・

だが・・・


(そうだ、校長の理念・・・『生徒の事を第一に考えられる教育を』が矛盾してしまうのではないか?)

「セット、オープン!」


それに気付いた山本は差し出したカードの生徒の事を思い出しひっくり返すと共に口を開いた・・・

山本の考えた通りであれば・・・


「神崎先生、試したい事があります。次のゲーム付き合って下さい」

「えっ?えっ?」


表になったカードの番号が山本11、神崎1であるそのカードを見て山本はもう1枚のカードを前に出した。

卓上ではなく指で摘まんだままゆっくりとそれを裏返す。

そのカードは30、Dクラスの岡本と共に不良をしている和井の番号である。


「プラスしますか?」

「神崎先生、この生徒はDクラスの和井、成績は1.8です」

「っ?!」


校長を無視し山本はそう神崎に伝えた。

それに驚く神崎、成績が1点台の生徒であればプラスすれば計算式的に合計が5を超えるのは安易に想像できる。

それもあり山本先生は追加するならこのカードを出すと明言しているのだと勘違いしたのだ。

しかし、ここで神崎も山本とは全く別の思考が生まれる。

それは・・・


(待って、Dクラスの生徒は全部で・・・)


そのまま神崎は山本の後方の生徒の方を見た・・・

そして口を歪め首を横に振った・・・


「私はプラスしません」

「自分も・・・」


山本は伝えたい事が伝わったのだと確信し次のゲームで試す事にしたのだ。

だが・・・


「Dクラス11番!高橋、成績は3.3! Cクラス1番!朝倉、成績は3.7!」


校長の読み上げで結果が決まる。

負けたのは山本である、だがその表情に迷いは無かった。

自ら山本は校長に向かって宣言した。


「血で!」


そう告げると、目の前の2つめの容器に血液が満たされていく・・・

それを見ながら山本は神崎に語り掛ける・・・


「神崎先生、このゲームの必勝法分かりましたよ」

「えっ・・・?」


山本の話に驚く素振りを見せる神崎。

血が抜かれ顔が青白くなり始めた山本は少し呼吸が辛そうになってはいたが、落ち着いて話し始める・・・


「次のゲーム、試したい事があります。成績が3.9か4.0の生徒のカード手元にありますか?」

「・・・」


神崎は山本の言葉にチラリと校長を見る、だがニコニコとそれに関して何も言わない校長を確認し、頷く。


「3.9の生徒であれば・・・」

「分かりました。次はこのカード、出席番号5番、成績は3.9の神山で行きますから合わせて下さい」

「っ?!」


その宣言に再び校長の顔色を確認する神崎。

そして、神崎は口を開いた・・・


「勝敗が引き分けの時はどうなるのですか?」

「・・・その場合は勝者も敗者もありません、そのまま次のゲームに移ります」


山本が聞きたかったのはこれであった。

校長に関しては聞いていいのか分からなかったというのもあり聞こうか戸惑っていたのだ。

だがこれで山本はハッキリと理解した。

このゲームを無事に10戦終える方法を・・・

カードの中身を相手に伝えても罰則はない、つまり残りの勝負を全て引き分けか互いが死なない程度の血液決済で終えれば生徒の命はこれ以上失うことは無いのである。


「それでは続けていきましょう、さぁ、カードを1枚取って・・・」


校長の言葉を聞いて神崎と山本は目を合わせカードを1枚手に取る。

だが二人が次に出すカードを既に決めているのを理解しているのか校長は止まる事無く続ける・・・


「カードを出して下さい!」


その宣言と共に二人はカードを出し合う。

この勝負は引き分けに終われば残り6回を同じ方法で凌げば助かる・・・

そう安堵した山本の表情は穏やかであった。


「セット、オープン!」


裏返されるカード、山本は先程と同じ5、神崎は31であった。

互いに今朝、生徒の成績をチェックして提出書類に記載していたからこそ自身の生徒の成績は把握していた。

それが校長が狙ってそうさせたのかは分からない、だがこれ以上の被害を防げるのだから問題は無いだろう。


「プラスしますか?」


校長の言葉に二人は首を横に振る・・・

それを確認し、校長は手元の一覧表を確認し読み上げる。

今考えれば校長が持っているあの一覧表こそが自分達が記載したその書類だろう・・・

この絶望的な状況に光が差した気がした山本であったが、それは偶像であった・・・


「Dクラス5番!中島、成績は3.9! Cクラス3番!宇野、成績は・・・4.1!」


言い淀んだのは校長も再確認したからであろう。

その宣言に青白くなった山本は更に真っ青になり正面に居る神崎に視線を送る。

だが、そこに居たのはいつもの優しい顔をした神崎ではなかった。


「すみません山本先生・・・」


申し訳なさそうな言い方ではあるが、その目は自分を見ていなかった。

既に600mlの血液を抜かれている山本は絶句する・・・

それはそうであろう、連続で一気に900mlの血液を失えば出血性ショックの可能性が非常に高く、万が一生き残ったとしても死はそこまで迫ってしまうのだ。

言い淀む山本、決して目線を合わせない神崎・・・

焦らす事無く校長は少し待ってから静かに尋ねた・・・


「山本先生・・・・・・・・どうしますか?」


ゆっくりと時間を掛けているのは少しでも血液を連続で抜かないように時間を掛けてくれているのだ。

直ぐに答えなくても良いと言わんばかりの校長の言葉に山本は大きなため息を一つ吐き、目を瞑って少し待った。

そして、目を開き真っすぐに神崎を見て宣言する!


「血で!」


自分が死ねば生徒全員の命が失われる、だがそれでも自身の生徒である中島の命だけを犠牲にする選択は山本にはできなかった。

だから山本は賭けた、そして目の前の神崎を真っすぐに見る。

先程の自分の提案、自分がだまし討ちをすると予想して成績が4.1の生徒のカードを選んだ神崎にこのまま勝たせるのはプライドが許さなかったのだ。


「グッドラック・・・」


校長の一言の呟き・・・

それは今から血を抜かれる自分に対しての言葉だったのだろう・・・

急速に襲い掛かる眠気、冷たくなっていく肌、指先の感覚が無くなっていく・・・

目の前の3つ目の容器に血液が溜まっていき、山本は意識が肉体から離れる感覚を味わうのであった・・・

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