第4話 コンフィグは敵 / 紬の物語
放課後―――。
私と紬は運良く初期配置された場所がそれほど離れていないことが判明しました。
「それじゃあね、凜。お互いの一番近くの町の広場で待ってるから」
紬にそう言われてハッとします。
幾ら早めにログインしたとしてもオリンは芋虫なんだもの、最速でイモイモしたところで約束の時間ギリギリかもしれません。
その上敵と遭遇すれば逃げることが出来ないオリンは強制戦闘……………。
…………下手をすれば一生辿り着けないかもしれません。
「紬ぃ……………迎えに来てぇ…………」
「いや必死か」
「必死にもなるよぉ。だって〖チビクロウラ〗の最高速度よりも、小さな子が乗る三輪車とかの方が絶対早いんだもん」
「わかった。必死なのはわかったから制服引っ張んないで」
いつの間にか紬の制服を掴んでぐいぐい引っ張ってしまっていました。
慌てて手を放すと、紬はやれやれと着崩れてしまった制服を直してから、
「迎えに行くから今日ログインしたら凜のID教えてね?そうしないと居場所なんてわかんないから」
「ID?」
「えぇっと…………キャラを創ると運営から自動的にそのキャラにIDが発行されるの。それを使って検索掛けて凜が何処に居るか探すつもりだから、それ教えてくれないと迎えに行けないよ?」
「が、頑張って探してみるね!」
「いや探すの私なんだけど…………?」
不安だったので、紬にそのIDが記載されている大体の場所を聞いてメモを取ることにします。
もしかしてまた例の『コンフィグ』の中かと思ったら、今度は『システム』の中なんだそうです。
『コンフィグ』の中でないのならまだ
あれは未だによくわかりません、表示されるメッセージの色がまだ違っている気がして気になってしまいます。
時間がある時に色々と触れてみて、私に合った設定という物を模索する必要がありそうです。
設定を変更する前に必ず初期の状態を覚えておかないと……………。
(※まだ〖初期設定に戻す〗の存在を知らない初心者)
そうして家に帰り、宿題をして、晩御飯を食べて、少し予習をしておいて、それからお風呂に入ろうとしていると、紬から電話がかかってきたので電話に出ると、
「遅い!!!」
大音量で聞いてしまったためまだ耳がキーンとします。
「ご、ごめん。なかなか沁みついた生活習慣が抜けなくて―――」
事情説明中………………。
「はぁ~…………もう良いよ。私もお風呂入ってくるから、その後でログインする前に電話して?私もそれからログインするから」
「うん。ホントにごめんね?」
「…………………私の方こそごめん。凜がガチガチのゲーマーじゃないの解ってたのに、今のは当然帰ってすぐログインするもんだと勝手に思ってて、勝手にイライラを募らせてた私が悪いよ。だからいきなり怒鳴ってごめん…………」
「え?何?まだ耳がキーンてしていてよく聞こえない――――」
「とにかく!!ログインする前には必ず連絡してよね!!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
<紬視点>
私には幼馴染が居る。
幼稚園の頃の彼女の事も良く覚えている。
いつもおどおどしてた。
いつも誰かの後ろをくっついて歩いてた。
だけど、いつも困っている子に一番に気付くのは先生ではなくて彼女だった。
そうした時彼女は率先して困ってる子に何かしてあげようとするんだけど、結局思うようにはいかなくて結局は泣かせちゃったり、一緒になって泣いちゃったりして、そのせいで先生を困らせちゃう事も多々あった。
それでも彼女は一番に困っている子のところに駆けつけていた。
そんな私もいっぱい助けてもらった。
それから少しずつ仲良くなって、その間に有ったことも全部が全部私の助けになったりはしなかったけれどいつも親身になってくれる事、助けようとしてくれる事がとても嬉しかった。
だからこそ、凜が『余計な事をする奴』と小学校で言われていた時は悔しくて仕方なかった。
凜が「私と居ると紬までいじめられちゃうよ?」って言った時には悲しくて、だけどいじめている奴らには怖くて何も出来ない弱い私。
だけどそのまま離れるなんて絶対に嫌だった。
だからこそ余計に一緒に居るようにした。
それが私が周囲に対して出来た精一杯の反逆だった。
それでも親の言う事にまでは逆らえなくて、中学校を受験しなくちゃいけなくなって、私と凜は別々の中学に通う事になった。
人付き合いが苦手な私には地獄の始まりの様だった。
その間も凜とは連絡を取り合っててそれに癒されていたけれど、私の唯一の親友と言える凜の傍に居れない事がもどかしかった。
そんな鬱屈とした気分を誤魔化すために始めたのがゲームだった。
わかり易い達成感と没入感を得るのにこれほど最適なものは無かった。
勉強についていけない事だったり、仲の良いと言える友だちが一人も出来なかったり、そんなことから目を逸らすのにも一役買ってくれた。
中学校に入学してから一年経たずにゲーム依存症と診断された。
幸い課金などに手を出したりはしていなかったけれど、ゲームをしていない時の私は理由もなく周囲が敵に見えて、何故か常に気を張ってイライラしていた気がする。
凜との連絡もあまりしなくなって、毎日ゲームをしている時だけ多幸感と安心感で満たされていた。
引きこもりにはならなかったけれど、すっかり落ちこぼれにはなっていた私を救ってくれたのはやっぱり凜だった。
ある日突然家にやって来て、
「外に出かけよう!!」
そのまま連れ出されたものの、凜だって決して頻繁に外に出かけたりする方ではないから「外に出たけど何しよう?」って雰囲気がアリアリと出ていて、最終的に凜に手を引かれるまま近所の野良猫たちを追いかけ回していた。
野良猫たちの間で凜は危険人物として認識されてるらしく、顔を見た瞬間から逃げる逃げる……………それを嬉々とした表情で追いかける凜、引っ張られて強制的に走らされてクタクタの私………………思えばこの頃から凜の猫好きは異常だったと思う。
だけど本当に久しぶりにゲーム以外でバカみたいに笑った時間だった。
それから凜は私からゲームの時間を奪っていった。
本人はこっそりやっているつもりなのかもしれないけれどバレバレだった。
凜がそんな器用に立ち回れないのは私が誰より知っているんだから。
「余計なお世話だった……………?」
ある時、凜が恐る恐る尋ねてきた。
それは凜が一番恐れている言葉だっていうのも勿論私は知っているから―――。
「全然楽しいっ!」
そんな恐怖を吹き飛ばしてあげられるくらいの笑顔で応えてあげた。
そしていつの間にか私は、私にとってのゲームと最適な距離を保てるようになっていた。
同じ高校に入るために一緒に勉強をしている時、ふと懐かしくて買ったゲーム雑誌に載っていた期待の新作の事を思い出した。
「ねえ凛?高校入ったらさ、一緒にゲームしない?」
「えぇ…………私がゲームあんまりしないの知ってるでしょ?」
「面白そうなのが丁度私たちが高校入った後くらいに出るんだよ。それに凜の
私が大好きだった世界を、一緒に―――――。
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