魔物だもの 外伝   ~虫の章~

暑がりのナマケモノ

第1話 選んだのはチビクロウラ

私の名前は音羽凛香おとわりんか

私は幼い頃から要領が悪く、また、タイミングも悪かった。


更に酷いことに、『余計な御世話』をしてしまいがち――――――と言うと優しく聞こえてしまうので言い直すと、私が良かれと思って行動に移した事の殆どがその人にとってはな事で、結局非難されることになってしまいます。


そして貼られた『コイツはいつも余計な事しかしない』というレッテル。


揶揄われ、馬鹿にされ続けた結果。


私はその人にとってようになってしまいました。


私が何かアクションを起こす事で、結果的にまた誰かの迷惑になるんじゃないだろうか?


また、冷たい言葉を浴びせられるんじゃないだろうか?


そんなことになるくらいならば、もういっそ何もしない方が良いのではないか?


一度そんな風に思ってしまうとそこからなかなか抜け出せない。


こんな自分が大嫌いです。

そう思っていても、私には変わる事さえ恐ろしくて。

何をするにしてもその第一歩目をいつまでも踏み出せなくて。


人一倍困ってる人には誰より先に気づいてしまうくせに、助けようとしてもまた余計なお世話になってしまうんじゃないかと思うと怖くて助けられなくて、結局他の誰かが助けるのを見て私が何もせずに済んだことを心のどこかで安堵してる。

本当は何もできていないのに、「私は何もしない方がよかったんだ」なんて思って心の平穏を保つ自分が本当に、本当に――――――!!





「買っちゃった…………買っちゃったよぅ…………」


自宅に届いたそれを手に、私は一人泣きそうになりながら佇んでいた。

もうお金も払っちゃったし、何より、そのゲームをプレイする為の筐体も後戻りしない為に全部揃えてしまった。

今までゲームになんて興味の無かった私が初めてそれを買ったのは、幼馴染に誘われたからでした。

こんな私を小さい頃から知る彼女は、私の行動が結果的に余計な御世話になっても笑って許してくれた。

引き篭もりにならずに済んだのは彼女が居てくれたおかげだと私は思っている。


名前は湯川紬ゆかわつむぎ、中学は別々だったけど高校からはまた一緒に通っている。

そんな彼女が目を爛々と輝かせながら誘ってくれたのだから、嫌だなんて言えない。


オズワールドファンタジー――――――。


CMなんかも大々的にテレビだけじゃなくネットにも多く流されている期待のゲームらしいです。

人間としてプレイする事は別段珍しくも無いけど、魔物としてプレイできることが新鮮だから絶対に魔物でプレイしようね?って紬がそんな事を言っていた気がします。


「それじゃあキャラメイクが終わったらランダムでいろんな場所に飛ばされちゃうみたいだし、今日の処は動作とか操作性の確認をして合流するのは明日って事で良いよね?」


連絡が来て送られてきた文に目を通すと、良いも悪いも紬が何言ってるのかよくわからない。

とりあえず紬と一緒にプレイするのは明日って事かな?



そうして私はオズワールドファンタジーの世界へと旅立つのだった。








〖勢力〗を選択してください。


えぇっと…………〖勢力〗は紬が言ってたように魔物にしよう。


〖種族〗を選択してください。


〖種族〗?あぁ、この中から選ぶんですね。

色々あるみたいだけど、どれにしよう…………?

紬は何を選ぶんだろう?一緒の種族にするのも楽しそう。


…………こんな初期の段階で何を選んでも『余計な事』にはならないよね?


自分自身の鼓動が僅かに早まっていくのを感じて、呼吸だけに意識を集中した後、いつものように自分自身に語り掛ける。


落ち着いて、大丈夫…………。

ただゲームの種族を選ぶだけ。

何も怖いことなんて無い、誰にも責められたりしない。

だからきっと大丈夫…………。

私はこれから、此処から少しずつでも変わらなきゃ。


昔から何かを選ぶのは苦手、全部自分で決めなきゃいけないのは本当に苦手。

コンピューターさんが勝手に決めてくれたらいいのに――――――。


私は悩んだ末に〖マンドラゴラ〗を選択しました。

植物型の魔物という事は、自発的に行動しなくても済むかもしれない。

選んだのはそんな後ろ向きな理由からでした。


そしてプレイしてみて――――――…………。



……………………あんなの何が楽しいの!?



ゲームを開始して全く動けませんでした。

唯一変えられる視点で景色を眺めて終わるだなんて、広大な世界を自由に旅するゲームとしてどうなのでしょう?

それとも近頃のゲームはこれが普通なのかな?

自発的に動かなくても良いのは…………うん。はっきり言って嬉しいけれど、それと何も出来ないのとは別問題だと思う。


わからない!わからないよ紬!

これが紬のやりたかったゲームなの……………?




気を取り直して、冷静になった私は今のデータを消してもう一度最初からやり直してみる事にしました。

その結果、


〖ゴースト〗は移動の際の浮遊感が私には気持ち悪かったので諦めました。

〖スライム〗は身体が不定形な感覚が馴染めなかったので諦め。

〖チビウルフ〗は動きが早くてゲーム初心者の私にはついて行けず断念。

〖チビバット〗は基本逆さ吊りなのが違和感でしかなく止めておきました。

〖マンドラゴラ〗は論外です。

〖チビスネーク〗は私がヘビが苦手なので選ぶこともしませんでした。


そうして残ったのは〖チビクロウラ〗だけでした。

昔から虫は平気だった私、動きも別に早くないし、浮遊感も無いから気持ち悪くならないのが素晴らしいです。

消去法で決まった〖チビクロウラ〗でしたけど、不思議と自分には合っているような気がしました。


名前は私の名前からとってオリンと名付けます。


これから宜しくお願いしますね?オリン。

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