歩けなかった少年は異世界で新たな身体を手に入れる

土竜健太朗

第一章

終わりの始まり

 友達と一緒に遊び、勉強してふざけ合う。そんな日常を過ごして早15年。それなりに上手くいっていて、もう少しで始まる高校生活に胸を踊らせていた。

 どんな楽しいことが待っているのか、親しい友達やもしかしたら彼女が出来るかもしれない。そんな想像をしながら春休みを過ごしている。


 俺はどこにでもいる平凡な人間だ。顔も学業も普通で特徴をあげるとしたらそれは【歩くことができないこと】だろう。生まれ付きの病気でずっと車いすに乗って生活している。


 友達と一緒に運動とかができないのは少し残念ではあるが、普通に中学校に通い、それなりに友達も出来て、行事にも参加し有意義に過ごしていた。周りのおかげでここまで過ごしてこられた。いつか少しずつ恩返ししていきたいと思っていた。だが、どうやら俺にはそんな機会は与えられないようだ。


 高校の入学式の朝。楽しみにしすぎて早く起きてしまったため、予定より早く準備を済ませて、学校へ向かうことにした。朝食をすませて家を出る。「いってきます」と挨拶を告げて家を出ようとすると後ろから聞こえる「いってらっしゃい」の母の声。振り向くことは無く家を出た。これが家族との最後の会話になるとは思ってもいなかった。


 通学路を一人車いすで進んでいく。通勤するサラリーマンやOL、散歩をするおじいさん。すれ違うものすべてはいつもと同じような日常だった。


 もう少しで学校に着くというところで日常とは違うことが発生した。


 交差点で信号待ちをしていると真剣な表情でスマートフォンをいじっている女子高生がいた。


 時間に追われすぎてか、世の中が便利になりすぎたからなのかは分からないが人は下(スマートフォンの画面)を見て歩く人が多くなった。


 実際にこの場にいる人は皆忙しなくスマートフォンを操作している。俺の場合は車いすを動かしながら、スマートフォンを操作することは出来ないから、ちょっと羨ましい気持ちはある。


「これだから最近の若者は……」


 ため息交じりに出た最大限の嫌みである。周りの人は誰一人気がついてはいない。


 そんなようなことを考えていると突然隣にいた女子高生は少しずつ歩を進め始めた。周りの人は気がつくはずが無い。皆、下を向いているのだから。


 信号を確認しても、まだ赤のままだ。今は車が通っていないから大丈夫などと思っているのだろうか?


 そんなことを考えている場合では無い。急いで彼女を止めないと危険だ。


「すみません! 危ないですよ」


 俺は可能な限りの声を掛けた。それでも彼女の歩が止めることは無かった。一歩二歩と歩を進めて行っている。さらに最悪なことに遠くからトラックらしいシルエットが見えてきた。結構な速度で近づいていることはすぐに理解できる。数秒後には彼女はどうなってしまうかも想像するのも容易だ。


「自業自得だ。スマートフォンの画面に集中しながら歩いているからこんなことになるんだ」


『放っておけば良い』


 最初はそう思った。でも、体は勝手に動いてしまった。


「危ないですよ!」


 そう言いながら車いすを前に漕ぎ彼女のことを思い切り引っ張った。


 俺が車いすに乗っていなかったら、数秒間の行動は恐らく最善の動きだっただろう。現実はそう上手くはいかない。引っ張った反動で車いすはさらに前に進んだ。超えては行けないラインを超えて車いすの車輪は回ってしまった。結果。


 俺の身体は宙を舞う。生まれて初めて感じる感覚に不思議と痛みは感じなかった。


 自分の全身がひしゃげて地面に転がる。少し遅れて女の子の悲鳴とぐちゃぐちゃになった車いすが地面にたたきつけられる音が耳に入ってくる。


 どうやら彼女は助かったようだ。そう安心感をやってくると同時に全身に激痛が走った。


「うぅ……。これはやばい」


 これまで体験したことの無い痛みに意識が遠くなり全身が急激に冷えていく。


「死ぬときってこんな感じなのか……」


 自分が死ぬことを俺はすんなり受け入れることが出来た。でも、最後に人を助けることが出来た。いつも助けられていた俺にこんなアニメのようなイベントが起きた。


『全然かっこつかなかったけどまぁ最後に人助けできて良かった……』


 そんなことを考えていると、暗闇が近づいてきて、視界が闇に染まっていった。


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