第十章「再起の一歩」
海から帰った僕は、早速wordを開いた。暫く書いていなかったし、3ヶ月前書こうとした時は書きたくても書けなかった。
「小説を書きたい!」と思っても、僕はまた小説を本当に書けるんだろうか……? と不安だった。
しかし、それは杞憂に終わった。三十分ほどで簡単なプロットが出来上がり、直様執筆に取りかかる。
一週間で処女作を書き上げた時のように、自身の内から書きたいものが溢れて止まらない。そうか、小説を書くっていうのは……こんなに楽しいことだったんだな。
小説を書けなくなる直前。僕は小説を書くという行為を楽しめなくなっていた。これは小説家になるための手段なんだから、楽しいとか楽しくないとかはどうでもいいと。結果が出なければゴミでしかないと。そう自分を追い詰めていた。
でも今は、受賞出来るかどうかよりも、自分が書いてて楽しいか楽しくないかだけを考えていた。
極論自分が書いて(読んで)楽しければ、自分が満足できるモノであればそれでいいと。
“ワナビ”としては失格だろうか?
まぁいいさ。所詮僕は、一度ワナビであることすら挫折した人間だ。今更失敗を重ねようと、間違っていようと関係ない。
執筆に取り掛かったのは確か4月の半ばほどだったが、5月初週くらいには書き終えていた記憶がある。処女作を除けば、僕としては2番目に早く書き上げたことになる。
出来上がった小説は、原点回帰ともいえるものだった。
自分が得意とするSF百合。
夢に挫折した少女が、不可思議な少女と出会い、一夏の交流と恋をする。
日夜宇宙人が侵攻してくる平和なセカイでの、ちょっとした一幕。
ハッキリ言って、イリヤの空にめちゃくちゃ影響を受けた作品だった。
好きなもん全部詰め込むぞ! という気概で書いたら、ほぼイリヤになった。
後悔はなかった。
「これがワイの考えたイリヤや!」といって5月末締めのGA文庫大賞にぶん投げた。
今作は僕が小説を書くのが好きだ、というのを再確認するために書いた作品だ。自分が納得してるならそれに勝るものはない。
おそらく、この作品が今まで書いた小説の中で一番多く読み返し、一番多く泣いた話だ。自分の作品を何度も読み返して泣けるって、創作者としてはこれ以上ない幸せだと思う。
応募から月日は経ち8月半ば頃。
復帰作を応募したGA文庫大賞の一次発表日。僕は山に登っていた。
願掛けというか、神聖な場で確認すれば通る確率も上がるのでは? という思惑からだ。
登った山は天覧山。山というよりも丘に近い、標高200mに満たない山だ。
ヤマノススメなんかで出てきてるから、知ってる人も多いかもしれない。
普段山登りをしない僕でも、20分とかからず山頂までたどり着けた。
山頂から少しだけ下った東屋に腰を降ろし、スマホを取り出す。
周囲からセミの鳴き声が押し寄せ、暑熱がじわりと肌を包む。
自分が楽しむことを最優先に、と言ったものの、やはり通るなら選考は通って欲しい。そしてあわよくば受賞したい。
祈りと共に選考結果のページを開きゆっくりとスクロールしていく。
ページを2,3回スクロールしたところで……。
「あった……」
僕の書いた小説は、きちんと一次を通過していた。
ちなみに、GA文庫に出したのはこれが初めてだった。
GAの一次選考は、他の選考と比べても比較的ゆるい方だ。
一次なら3割くらいは通る。でもそんなのは関係ない。たとえ確率的に緩かろうが、一次通過は一次通過だ。二度目であっても嬉しいことに変わりはない。
僕はるんるん気分で下山し、食べログで高評価の油そばを食し、「味はまぁまぁだけどトッピングも含めると割高。★3つ」とレビューを書いて帰宅した。
そしてそのノリ(?)で他のワナビ達とも交流を図ることにした。
今まで僕は只管一人で小説を書いて、出しては落ちるを繰り返してきた。でも、同じワナビの仲間が居たらちったぁ心強いのでは? と考えたのだ。
人見知り故ネットでの交流も避けていたが、Twitterなどで他のワナビと交流し、下読み交換なんかもした。当時付き合いのあったワナビ達の何人かは、実際に小説家になった。
この頃がきっと、ワナビとして一番青春してただろう。
ちなみに、復帰作は二次選考で落ちた。
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