第19話『必要以外スマホは見ない』
19『必要以外スマホは見ない』
みんな発声器官が退化して100年たったら喋れなくなるかも……。
と思うくらい電車の中はスマホだらけ。
ま、8割がやってるね。中にはモバゲーとかもあるんだろうけど、画面見ながら無言であることはいっしょ。
あたしは思う。日本人の声を出す時間は20世紀の半分も無いんじゃないだろうか。
あたしもスマホ持ってるけど、緊急必要なときしか返事しないことを、家族にも友だちにも言っている。で、実践してるもんだから、人の半分もメールが来ない。で、栞ってやつは、そういうやつなんだと思ってくれているから気が楽だ。
あたしが突っ立ってる前の座席にも男子高校生が座って、チマチマとスマホをいじっている。
自分で言うのもなんだけど、あたしは平均以上にはイケてると思う。
街を歩いていて視線を感じることもしばしばある。
でも、この男子高校生は三日間(偶然なんだろうけど)いっしょになっている。並の神経してたら一瞥ぐらいはくれると思う。
――こいつはゲイか?――
S駅で隣が空いたんで座ってみた。そいつのスマホが丸見え。どうやらラインをやってるらしい。チラ見すると相手は女の子らしい。T駅につくころ写メが送られてきた。ケバくはないけどパープリンな女子が写っていた。やつは微かにニヤケた。
ゲイというわけではなさそうだ。
U駅で、そいつは降りた。
降りながらもスマホからは目を離さない。当然車内の何人かとはぶつかるってか、こすれ合いながら降りて行った。あたしならムカつくが、こすれ合った人たちもスマホをいじっているので知らん顔。杖ついたお爺さんが一人ムッとした顔をしていた。
あたしは想像力が豊か……とは言いにくいけど、妄想力は人一倍だと思う。
あいつの替りに座ったオネエサンは、友だちが昨日食べたスィーツを見比べて感心している。当然あたしを含め車内のことには無関心。
で、あたしは思った。あのスィーツ、食べる前の姿ではなく、リアルタイムで変化したのが出てきて、ついでに臭いまでついていたら面白いだろうなと思う。
そう思うと、自然に笑いがこみあげて吹いてしまった。女の勘だろうか、オネーサンは、あたしの妄想が分かったような顔で、一瞬あたしを睨んだ。今日初めて見た人間的な反応。なんだかホッとした。
あたしがガキンチョのころAKRの『なんとかひらり』てのが流行った。
通学の駅で、カッコよくスカートひらめかせてすれ違ったのが日ごろ憧れてる男の子だったとかいう歌。
この歌はスマホがあっては成立しない。ながらスマホでは、すれ違った相手が誰なのか分からないもんね。
あたしの人生、まだ17年だけど、世の中変わったと実感。
その日家に帰ると、お祖父ちゃんがきていた。練馬区から来ているから電車を使っている。
で、聞いてみた。
「ね、お祖父ちゃん。スマホどう思う?」
「須磨帆……源氏の何帖だったかな?」
「朧月夜との仲が発覚したあとだよ」
どーよ、あたしの機転の効き方と教養の高さ!……てのはさておき、ここまでズレてると清々しい。
電車の中でスマホいじってるのは8割だって言ったよね。
それって2割はスマホを見てないってことなんだけど、たいていは寝てる人。たぶん、仕事帰りとか塾帰りでクタクタな人。あるいは、運悪くスマホが電池切れ。
ネットニュースの片隅に電車の中で亡くなってしまい、終点まで行って車両点検の人に発見されたってのがあった。
ずっと、シートで寝てるみたいだったんだって。つまり2割の人よ。
寝てるか死んでるかぐらい、近くに居たら分かるだろと思う。わたしなら、同じ車両に乗ってたら気が付くよ。
みんな、スマホばっか見てるから気が付かないんだ。
で、亡くなった人の名前を見て驚いた。
うちのお祖父ちゃんだよ!?
こないだうちに来たのは病院帰りだったって、あとでお母さんに聞いた。
スマホ見てなくても、ダメなやつはいる。わたしのことだけどね……
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