第8話女子高生で売れないライトノベル作家をして いるけれど、年下のクラスメイトでアイドルの女の子に首を絞められている
8・女子高生で売れないライトノベル作家をして いるけれど、年下のクラスメイトでアイドルの女の子に首を絞められている
女子高生で売れないライトノベル作家をして いるけれど、年下のクラスメイトでアイドルの女の子に首を絞められている。
この現実離れした状況はなんだ?
あたしは、本格的な小説家になるために、半年間アメリカに居た。
これも現実離れしている。女子高生で、小説家になるためにアメリカへ……そんなのめったにいないよね。
ちょっと冷静に整理してみる。
うちの隣の渡辺さんちに交換留学に来ていたアリスと仲良くなった。
アリスは、変わった子で、アメリカ人なのに日本語ペラペラ……ちょっと珍しいけど、そんなに珍しくもない。
このアリスが六十二年前の大阪弁を喋ると言ったら、少し珍しい。
これが、動機の最初。なんでアリスが六十年以上前の大阪弁を喋るかと言えば、アリスに日本語を教えてくれたのがTANAKAさんという、アリスの隣のオバアチャンだから。
TANAKAさんのオバアチャンは、当時進駐軍と言われたアメリカ軍専用のPXという売店で、片言の英語を喋りながら売り子をしていた。
売店といってもスゴイ物で、百貨店をまるまる接収してアメリカ軍専用のデパートにしたものだ。でも、アメリカ軍の軍事施設の分類では、PX(post exchangeの略)になる。占領軍というのはなんでもあり。
そこによくやってくるアメリカの大尉さんと仲良くなり、結婚して六十二年前にアメリカに渡った。当時としては非常に珍しいことで、新聞に載ったらしい。
でも、若きTANAKAさんの幸せは長続きしなかった。
大尉の旦那さんが、朝鮮戦争で亡くなったのだ。
旦那さんの両親はTANAKAさんに冷たくあたり、家を放り出された。で、アメリカの苗字を失ってTANAKAの旧姓に戻り、シカゴのデパートで一年契約の店員をしながら暮らすことになった。
でも、TANAKAさんのお腹の中には赤ちゃんがいて、臨月が近づくと仕事もままならず、一時はお腹の中の子と一緒に自殺しようと思った。
TANAKAさんは日系のアメリカ人に助けられて、なんとか女の子を産んだ。そして、皮肉なことに、朝鮮戦争の休戦後の捕虜交換で、旦那の大尉が生きて帰ってきた。大尉の親は、TANAKAさんが死んだことにして、お墓まで作っていたんだって。
すっかり信じ込んだ大尉は、傷心の果て、アメリカ女性と再婚。サウスダコタとシカゴに別れ、そうとは知らずに、同じアメリカで五十年暮らし、十二年前に再会した。
互いに再婚相手には死なれていた。
周囲の人たちや、二人の間に生まれた娘は、もう一度の再婚を勧めたが、二人は、良き友として、残りの人生を生きることにした……。
これは、TANAKAさんのオバアチャンの話の、ほんのデテールに過ぎないんだよ。
アリスからは、何度にも分けてTANAKAさんのオバアチャンの話を聞いた。
感動した文学少女であるあたしは、これを小説にしようと、アメリカへの交換留学生制度を利用して、アメリカに渡り、TANAKAさんのオバアチャンからも話を聞いて、勉強のかたわら、プロットとしてまとめた。
で、あまりに熱中しすぎて、勉強が疎かになり、単位をいくつも落としてしまった。
アメリカはシビアな国で、たとえ交換留学生であっても、単位不足は情け容赦なく落とされる。
「うそやん、そんなやつ、千人に一人ぐらいしか居らへんで!!」
アリスは、これ以上驚きようがないほど目を剥き、鼻を膨らませ、ノドチンコが見えるほど口を開けて驚いた。
でもって、呆れられた。
勘のいい人は、このあたりで分かると思うんだけど、あたしは留年生として、日本に帰ってきた。当然学年は一個下がってしまう。
で、そのクラスににアイドルがいた。AKR47の駆けだしだけれど、人類の小分類で言うとアイドルの女子高生ということになる。
でもって、こいつが、あたしの妹だというところに決定的な問題がある。
あたしにとってではない。妹にとって問題なのである。留年生の姉が同級生になるなんて、ヘタをすればゴシップである。
で、首を絞められながらも「これは、小説……ラノベのネタになる」と思ったんだ。
ノーパソのキーを叩こうと……悲しい作家の性(さが)……ああ……息が……息が…………が…………(;゜Д゜)
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