番外編
番外編1話 嫁ぎ先
今川館 瀬名姫
1557年
「瀬名よ、ようやくおぬしの嫁ぎ先が決めた」
御屋形様、いえ養父様はそう私に言われました。父様の元を離れてこの地で生活して随分経ったのは、養父様が誰に嫁がせるのかを迷ったからだと聞いております。
「果たして私は誰の妻となるのでしょう?」
「誰であると思うか。率直な考えを述べてみよ」
そう言って養父様は私を見られております。今は私と養父様の2人だけ。
勝手な憶測で話しても、きっと誰にも怒られることはないでしょう。今川館で生活していて、誰に嫁ぐのか日々考えていました。
その考えをそのまま養父様にお伝えいたします。
「1番有力であると思われるのは松平元康様にございます」
「何故か」
「三河は荒れております。おそらくですが、直に元康様は三河平定に兵を挙げられるのでしょう。三河の統治に松平の血は非常に有用であると思いますので」
「その通りである。我も同じことを考えておった」
「その元康様を今川の一門衆とすることは、三河の統治をより行いやすくなります。また養父様の思いのままにでも出来ましょう」
2年前に松平の家を継いだ元康様は、その血筋の意味を存分に利用するために最前線となる三河へと向かわれた。
もはやあのお3人の姿を見れぬとなると残念な気もしますが、全てはこのためにされていたこと。
「瀬名」
「はい」
「先ほどの物言いからすると、他にも候補がおるようであるな。誰が思い浮かんだのだ」
「一色政孝様にございます」
「ふむ、何故か」
「あの一件以降、政孝様はより励まれております。そして氏真様のお力になるため、日々研鑽されております。かつての政孝様はあまり感じられなくなりました」
あれは7年も前の話。
まだ3人とも雪斎様の元で励まれていた頃のことです。今川家と北条家は婚姻により盟を結ばれるはずでした。しかし早川姫が未だ幼いことを理由に、北条より人質が送られてきた。
北条家当主様の四男であった助五郎様は、寿桂尼様の孫でもありました。それ故に随分と可愛がられておりました。
ですがとある事件が起きてしまったのです。氏真様が元康様や政孝様と領地を視察されていた時、北条側の誰かに依頼された刺客に襲われた。
無事に3人ともお戻りになられましたが、当然今川家中では北条との戦を継続する声が上がりました。
「あれはあの男が全て仕組んだこと。それ以上は何も言うでない」
「申し訳ございません。ですがあの一件以降の政孝様を見ていると、養父様の期待のありようも伝わって参りました。親子2代で今川と縁を持てば、それはきっと今川の今後のためになるでしょう。現にあの地の活気は東海でも一二を争うほどであるとか」
なので私は2人のうちどちらかに嫁ぐのだと思っています。
すでに養父様は決めておられるようですが、もし叶うのであれば私はあの御方に嫁ぎたいと思っています。
それは・・・。
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