第289話

「おっすレイ。元気してるー? 副会頭とかルッツにいじめられてない?」

「ご心配ありがとうございます。しかし皆様から奴隷という身分でありながらも非常に良くしていただいておりますので」

「そりゃよかった。で? 今日はまた面倒な事に巻き込まれてるねー」

「申し訳ございません。ご迷惑だとは分かっているのですが……」

「まぁ、まだ作るって決まった訳じゃないしね。その辺は副会頭次第だから」


 とはいえ、そこそこ高い確率でせっかく運んできた魔石と金属はそのまま王都に返品されるだろう。一般的な奴と違い、ぐーたら道に籍を置く人間としては金だの権力と言った即物的なのじゃあピクリともやる気が起こらない。


「なー。さっきからなんの話ししてんだ?」


 レイとのんびり世間話をしてると、仲間外れになったと感じたのか。リンが土板から引きずり降ろそうとしてんじゃねーかってくらい袖をグイグイ引っ張って来る。


「うん? 今回副会頭が来た理由についてだよ」

「なんだよ! 知ってんだったら村の皆に言っておけよ!」

「俺もさっき知ったんだよ」

「本当かー? 実は前に来た時に聞かされてたんじゃねーのか?」

「んな訳ねーだろ。ってか、前に聞いてたら断ってるっての」

「……確かに」


 俺のぐーたらぶりをちゃんと理解してくれてるようで、簡潔かつ核心を突いてるだろう説明にリンはあっさりと納得したようだ。


「なぁなぁ。って事は、あの馬車の中には魔道具になる材料がいっぱいあるって事なのか?」

「まぁ、そうなるんじゃねーか?」


 感知できる魔力量的には大した事はないけど、これはあくまで俺基準であって、リン基準であれば結構な量なんじゃないかと思う。実物を見てないんで確証はないけどな。


「だったら見てみてー」

「って言ってるけどどうなん?」


 まだ了承したわけじゃないから、一応件の魔石やら金属類はあっち側の物であるから触ったりする権利はないけど、見るくらいならウィンドウショッピング感覚で特に許可は要らなそうだけど、リンは脳筋より。ちゃんと理解させてからじゃないとべたべた触りまくるかもしれんからな。


「見るくらいだったら構いませんよ。ついでにリック様もいかがですか?」

「そーだねー。じゃあ引っ張るか押してって」


 世間一般的な魔石と金属類にちょびっとだけ興味があるし、ついでに未来の魔道具師にちぃとばかしの抗議でもしてやるかと、ハンモックから土板に乗り換えて、一応レイが押しやすいだろう高さに合わせてやる。


「お安い御用です」


 こんなガキに顎で使われてるっていうのに、レイは嫌な顔1つせずに土板を押してくれるのはさすがに優秀とされてるだけあるね。


「到着です」

「あんがとねー」

「このくらい自分で歩けよ」

「そういうお前も乗っかってんじゃねーか」


 ゆっくりでもあっという間に到着する距離とはいえ、ぐーたら出来るなら迷い無くするのがぐーたら道。それを怠る事即ち教義に反するので降段する可能性が出て来る。


「いーじゃんついでだろ。そんな事より魔道具の材料だよ」


 ウキウキなのが一目でわかるスキップで馬車へと近づいて中を覗き込んだリンに遅れて、俺も土板に乗っかりながら見てみると、無数の小さい魔石に銅や鉄の他に豆粒みたいにちっちゃいミスリルがある。


「ミスリルって随分と奮発したね」

「……さすがリック様。お分かりになりますか」

「王都に行った時に見かけた物と似てる魔力だからねー」


 伝家の宝刀・王都で見た。のカードを切る。ちょっと前まではついポロっと不適切発言をした時に誤魔化すのがしんどかったけど、今じゃこうするだけで大抵の連中はあっさりと納得する。


「なーなー。ここにあるのでどのくらい魔道具が作れんだ?」

「大きさ次第だろ。俺式の着火の魔道具なら30位は行けそうだけど、風の魔道具は5つも作れればいい方かなー」

「冷房は駄目なのか?」

「アレはちょっと難しいんだよ」


 冷房を作るにはミスリルと龍の鱗の粉末が要る。ミスリルに関しては、一応あるが絶対量が少なすぎるし、龍の鱗に関してはワイバーンすらろくに倒せないと聞いてる現状じゃ、どうあがいたって作れない魔道具だ。


「ふーん……でもいいな。おれも金属で魔導具作ってみてーなー」

「ん? そんじゃやってみるか? 結構難しいぞ」


 木と違って滅茶苦茶硬いせいで、並大抵の力じゃ溝が彫れないと思う。俺は魔法でちょちょいのちょいとやってるけど、他の連中の苦労は理解出来るつもりだ。何せ出来が酷かったからな。


「いいのか! やらせてくれんならやってみてーぞ!」

「じゃーちょっと待ってろ」


 俺は今回の下らねぇ王命に手を貸すつもりは微塵もないが、リンの修行の一環としてやらせるのも悪くないんじゃないかって事で、こいつに魔道具を作らせてみるのもいいんじゃないかと思う。

 さらに王都に放り投げる事が出来れば、いい刺激にもなるかもしんないしな。

 って事で、土魔法で地中から鉄を引っ張り上げて、それを円盤にしてリンに放り投げる。


「火の魔法陣は知ってるだろ。やってみろ」

「へへーん。おれの実力に驚いたりすんなよ」


 そう言い残して、リンは使い慣れた道具を取りに帰るために一旦走り去った訳だけど、木材で作ってる時点でも驚くほどの実力じゃないぞ――とか言ったらぶん殴られそうなんで黙っておくとしよう。


「リック様。1つお聞きしますが、あの子も魔道具が作れるのですか?」

「まだ修行中なんで、素材が木じゃないと満足に作れないし、火の魔法陣しか教えてないからねー」

「では鉄を使った魔法陣作成は――」

「まぁ、失敗に終わるだろうね」


 そもそもリンにくれてやった彫刻刀は、木を彫るための道具だ。それを鉄に使った所で、良く出来て少し傷がつく程度じゃないかな? そして、その程度じゃあ魔道インクなんて入らないから魔道具として動く訳がない。


「それでも制作させるのですか?」

「訓練の一環だからね。失敗したとしても魔法で元に戻せばいいだけだしね」


 このあたりが魔法の便利なところだよなー。魔法が使えなければ、失敗作は炉にぶち込んで溶かし、1から円盤を作り直さなくちゃなんないんじゃないか? それを考えると、失敗作でも売ってるのはそういった理由からかもね。

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