第277話
「くあ……っ。寝足りないなー」
昨日はでっかい魔石に関する尋問? 的な一幕に巻き込まれたせいで、いつもより10分も遅くベッド・インしたせいで寝不足で仕方がない。
こんな事になるんだったら、でっかい魔石は秘密にしておくべきだったか? でもそうすると、いざバレた時に面倒くさい事になりそうなんだよなー。
なんか秘密にしとけとか言われたうえに、魔石売買も禁止って言われちゃったしなー。せっかく新しい金策になるんじゃないかと期待してたんだけど、ヴォルフ直々に言われちゃあ仕方あるまい。大人しく村の魔道具動力として一生を捧げてもらおう。
「よい……しょっと」
取りあえず、さっさと起きないとアリアがやって来て乱暴に叩き起こされるからな。
ぐーたらの観点から見ると、自分で起きるより他人に起こされる方が、ぐーたら道的には減点が大きいので、その辺は抜かり無いようにしたいんだけど、いかんせん相手は脳筋の化け物。俺より遥かに早起きなだけでなく、理屈が通じないから――
「ほら朝よ! 起きなさいリック――って起きてんじゃないの」
いつものように、戸を破壊せん勢いで部屋に入って来ての第一声がこれよ。本当にいい迷惑ですよ。
「アリア姉さん。別に起こしに来なくていいよって昨日言ったよね?」
「そうね。でも夕方に起きれてなかったじゃない。おまけに昨日は寝るのが遅かったみたいだし、ちゃんと起きれなかったらこっちに迷惑がかかるんだからね」
うーむ。脳筋のクセに理論立てて説明してくるなんて……こいつアリアの偽物か? とも思ったけど、そんな奴がいればヴォルフが瞬で肉片1つ残さず消しちゃうかー。
「ちょっとリック。アタシの話聞いてんの?」
「ん? 多分聞いてるよ。じゃあちゃんと起きれてる事の確認出来たんだから、訓練に行っていいよー」
「……何か妙にアタシを遠ざけようとしてる気がするんだけど?」
「そう? 別にいつも通りだと思うけど?」
これに関しては本当になんの意図もない。ただいつも通り相手してるだけなんだけど、なんか引っかかりを感じるのか疑わしそうな目を向けてくる。
「……あ。そう言えばアンタに伝言を預かってるのを忘れてたわ」
「それは頼む相手が悪いね」
誰だか知らないけど、よりにもよってこの脳筋に頼み事をするなんて、そんなの俺に働けと言ってるようなもんだろ。
「なんか引っかかる言い方ね。それじゃあまるで、アタシが何も出来ない人間みたいじゃないの」
「みたい。じゃなくてその通りでしょ? 頼まれ事を忘れてたんだから」
アンケートを取れば、きっと大多数の肯定票が集まる事だろう。
「ぐ……っ。だ、だったらアンタも同じようなもんじゃないの!」
「全然違うよ。俺は何も出来ない人間じゃなくて、何もしない人間だからね!」
ぐーたら道を進む俺にとって、誰かの頼みを聞くっていうのはそれだけでぐーたら力が減少する罪な行為。だってそうするだけで余計な時間を浪費するって事だからな。可能であれば、年がら年中ベッドでぐーたらしてたいさ。
でも、俺は成人してないガキだからな。少なくともあと10年くらいは親の言う事にはきちんと従わないとね。ぐーたら神もヴォルフは割とどうでもいい判定だけど、エレナに関してはかなり恐れてるから、こっちに関しては割と融通がきくんで、大人になってもこき使われるんじゃないかなー。
「いや同じでしょ」
「じゃあ面倒だからそれでいいよ。で? 俺への伝言って誰からどんなのを聞いてきたの?」
「あぁ。おばばからいつになったら冷房とやらを倉庫に付けてくれるんだい。ってさ」
「まだまだ無理だねー」
つい昨日に魔石の目処が立ったばっかだからな。これから、広場から遠い家々を回って冷房を設置。そうやって各家庭に行き渡ってからじゃないと設置する気はサラサラない。確かそんな事をエレナが倒れた時に言ったような気がするんだけど……老いから来るボケでも始まっちゃったのかな?
「って訳だからさ。そうおばばに伝えておいてよ」
「嫌よ。何でアタシがそんな事しなくちゃなんないのよ。アンタがやる事なんだからアンタが伝えなさいよ」
「うん。そうするよ。やっぱりアリア姉さんに任せるのって不安だからさ。自分でやんないとおばばに伝わったかどうかが不安で仕方ないし」
「フン。そんな安っぽい挑発に乗るわけないでしょ。アタシを使いたかったらもっと違うやり方を考えることね」
……なんか。勝手に勘違いして勝手に出て行っちゃった。本当にアリアには頼めないと思ったからキャンセルしただけなんだけど、あのタイミングだと確かに挑発したっぽく聞こえるかー。
「まぁ……いっか」
別に困る事じゃないし。おばばの所にも畑仕事のついでに寄れば、ぐーたら神もそこまで目くじらを立てないだろう。
――――
「おはよーっす」
「はいおはようリックちゃーん」
ひと晩経ったら、キリッとしたエレナは影も形もなくなってて、いつもののんびりとしたエレナに。これにはぐーたら神もニッコリ。
「ふあ……っ。眠い」
「あらあらー。よく寝れなかったのかしらー?」
「寝るのを引き止められたからねー。ところでなんだけど、例の魔石が大量にあるんだけど、家に置いておくのも邪魔なんで、村のどっかに倉庫作りたいんだけど?」
「……一体いくつくらいあるのかしらー?」
「んー? 確か数百個だったかな?」
雑談を聞きながら適当に作ってたから正確な数を把握してないけど、少なくともぐーたら神から催促は来てないんで、数としては十分なんだろう。
「随分多いのねー」
「だっていちいち魔力補充するの面倒じゃん」
「そんな理由で……まぁ良いわー。お母さんからお父さんに言ってあげるからー、それまでは絶対に作ったら駄目よー」
「う、うす……」
おおう。笑顔なのにすごい迫力だぜ。これにはぐーたら神も腰が引けちゃってるね。
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