第271話

「ふぅ……これだけ作れば少しはぐーたらできるだろ」


 始祖龍の日常やフェルトの薬草日誌に、雑魚エルフの訓練に関する愚痴——ではなく有り難い叱咤激励の感想を聞きながらなんとか作り終えることができた。

 あとはこれを、村のどっかに作る予定の保管庫にでも放り込んでおけば、誰でも勝手に冷房といずれ作る予定の暖房に使うだろう。


「小僧……いったい貴様はどれだけの魔道具を所持しとるんじゃ?」

「今のところは少ないけど……なんで急にそんな事?」

「流石に多すぎじゃろうと思うてな」

「うーん……フェルトならぐーたらをわかってくれると思ったのになー。むしろ少ないくらいだよ」


 数にすれば数百程度。この程度で村の快適を年がら年中維持するなんて不可能に決まってんだろ。もちろん俺が定期的に魔力を補充すれば話は別だけど、それをしたくないから大量の魔石が必要なんだよねー。


「この量の魔石を巨大化させておいて何を仰っているのかしらこの人種もどきは」

「全くじゃ。どういう使い方をすればこれだけの魔石で足りぬと抜かすか」

「まぁここだと使わないしねー」


 ここは偶然発見し、1年中ぐーたらに適した気温に保たれてるから全くわかんないらしいのも仕方ないか。

 どれ、ここは一肌脱いで、いかに魔石が大量に必要なのかを身を持って刻み込んでもらおうか。

 そしてあわよくば、フェルトには雑魚エルフが薬草の世話を押し付けられた代わりの仕事として魔石をでっかくする仕事を押し付けよう。


 ——


「で? これは一体なんじゃ?」

「うちの村を再現する装置」


 といってもただ土魔法で箱を作っただけだけどなー。

 今からフェルトには、この中に入っておらが村がどれだけ地獄の中で暮らしているのかを体験してもらいます。

 理由はもちろん。魔道具の優位性と、それを維持するために魔石がどれだけ必要なのかをその魂に刻み込んでもらうためだ。


「ほんじゃあ入って」


 と入室? を促すと、フェルトと雑魚エルフの顔色が若干変わったな。


「どったの? 昼に変なもんでも食った?」

「小僧じゃから疑いはせんが、今後のために言うておく。あまりエルフを狭い箱に入れるような真似をするでないぞ?」

「? そんなこと言ったらあの家もそこそこ狭いぞ?」


 別荘——というだけあって作った家はあんまり広く作ってない。だってぐーたらするのに必要ないからな。


「そういう事を言うておるのではない」

「エルフは奴隷として高値で取引されますわ。それを懸念してらっしゃるのでしょう」

「あーそういう事ね」


 大して興味なかったんで考えもしなかったわ。そういえばエルフが高値で取引されるってのは、異世界テンプレだったな。

 つまりフェルトは、エルフに向かってこういう真似をするなよと忠告したってわけか。でもおかしいな……王都にいたあのエルフ一家はエルフが営む奴隷商に奴隷として牢にいたのには何か理由でもあんのかな?

 ……まぁ。実験が終わってからでもいいか。


「ほいじゃあ始めるねー」


 箱に入ったのを確認したんで、合図して数秒経った後に魔法でおらが村の熱期になるまで火魔法で熱していく。


「おい下等生物。一体何をしている」

「なんだ虫けら。そんな簡単な事も分かんねぇのか。そんなんでよくエルフ名乗れるよな。恥ずかしいとか思わないわけ?」

「ぐぐぐ……」


 なんて会話をのんびりやってると、箱の中から何やら魔力が蠢き始めた。まだ本番を迎えるまでの暑さに達してないんだけどなー。


「放っておいてよろしいんですの?」

「まぁ、別にいいんじゃない?」


 俺の目的は、冷房と暖房の素晴らしさをその魂に刻むためであって、エルフの蒸し焼きを作る事じゃない。

 欲を言えば、音を上げるの早すぎだろ。と言いたい。まだ1分も経ってないから、おらが村の熱期と比べると半分にも満たないんだけどなー。


「むがあああああああああ! 暑すぎじゃ馬鹿者ぉ! ワシを殺す気か!」


 とかなんとか考えてると、土箱が派手な音を立てて爆散した。もちろん飛び散った破片に関しては薬草園方面以外に関しては無視。

 悪いのはフェルトだからね。もしクソ木に当たったとしても俺に文句を言ってくるのはお門違いも甚だしい。


「何言ってんだよ。俺がぐーたらの役に立ってくれてるフェルトを殺すわけ無いだろ!」


 フェルトという存在は、未来のぐーたらライフを作り上げるための優先順位としてかなり上位に位置している。

 何せ、ロクな代償を支払わずとも最高品質の薬草を育ててくれるんだからな。こんなにぐーたらライフに貢献してくれてる姿は、当然ぐーたら神もご覧になっているだろうから、いずれ何か良い事が起こる――気がする。


「ならば今の行為はどう説明する気じゃ!」

「単純に俺が暮らしてる村の気温を再現しただけだけど?」

「戯けた事を抜かすでないわ! あんな気温の中を脆弱な人種如きが生きていられるわけないじゃろうが!」

「単純にフェルトが暑さに弱いだけでしょ。そっちの雑魚エルフも試してみようか」


 当然否はない。俺にノーと言えてもフェルトには言えないだろうからな。結局は大人しく入るしかないのだよ。

 と言う事で、ササッと作った土箱セカンドに、雑魚エルフを入れてさっきと同じように火魔法で徐々に内部の気温を上げていくと、こっちもフェルトと同じくらいの気温で魔力が蠢き、多少はデカい音が鳴り響いたけど破壊するまでには至らなかった。


「出してあげませんの?」

「……ああ。そうだね」


 大した頑丈に作ったつもりはないんだけど、雑魚エルフ基準だと破壊不可能の牢獄になるのか。本当に弱すぎじゃないか?

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