第41話

「こんちはー。ここって石材屋であってますー?」


 やってきた石材屋は随分地こじんまりとしてたんで思わず疑問を口に出す。


「ん? ここは石材屋で間違いないが、子供が何の用だ?」


 出てきたのはいかつい白髪のじいさん。てっきり筋骨隆々のマッチョが出てくるつお思ってたんだが、爺さんは肉こそあるけど細身だ。


「何って……石材を買いに来たんだけど? 子供には売れない?」

「売れない事はないが高いぞ。何が欲しいんだ?」

「赤とか黄色とか土色以外の石が欲しい」

「予算は?」

「銀貨5枚かな?」

「なるほど……ちょっと座って待ってろ」


 待ってろと言うんでぼけーっと椅子に座って少し離れた場所でぐったりしてるアックに目を向ける。

 動く気配がないんで地面を動かして近くまで移動させると、死んだ魚みたいな目でぼーっと空を見上げてる。


「いつまで死んでるのさ」

「む、無茶を言うな! 本当に死ぬかと思ったんだぞ!」

「大げさだなぁ。あんなんでへばってて衛兵として仕事やっていけないよ?」

「衛兵の仕事にあんなのがあったらおれは辞めてるって!」


 うーん……どうやら相当なトラウマになっちゃったみたいだな。高度でいえば200メートルくらい。もちろん地球でいえば俺だってそんな高さに行けばガクブルになるけど、この世界には魔法があり、俺はそこそこ扱いがうまい。

 結果。あの程度の高さに怯える事は無いんだが、魔法が使えないおっさんには怖かったって訳か……悪いことをしたなぁ。


「悪い悪い。何かお詫びが出来ればいいんだけどね」

「じゃあ英雄に会わしてくれよ」

「そんなんでいいの?」


 あまりの雑魚願いっぷりに思わず訪ね返す。あんな二日酔いでエレナに叱られるちょっと残念な父親に会いたいとはね。まぁ、簡単なんだけど。


「そんなんでいいならいいよ」

「本当か⁉ いやー。言ってみるもんだよ」


 ウキウキでようやくおっさんが起き上がったのとほぼ同時くらいに、店の奥に消えていったじいさんが戻ってきた。その手には何とも古ぼけた肩掛けカバンが。


「何そのぼろっちいの」

「なんだ小僧。魔法鞄を見るのは初めてか?」

「うん。話に聞いたことはあるけど、それがそうなんだー」


 キタキタ。異世界テンプレの定番中の定番である魔法鞄。初めてこの目で見る事が出来たけど、もっと豪勢な感じのを想像してたんだけどなぁ。


「で? 石材は?」


 テンプレと知っているだけにその性能は承知済みだけど、ここは知らないふりをするのがベター。


「この中にあるんだよ。色付き石材って事だが、あるのはこんなもんだ」


 鞄から出てきたのは微妙な色合いの石ばかり。色付きだと言えなくもないけど、ヴォルフが求めてるのはビビットカラーな訳よ。こんなくすんだ石じゃ俺が納得してもヴォルフが納得しないだろうな。


「なんか汚いのばっかだね」

「ああ? じゃあこっちのはどうだ」


 次に出てきたのはまさに探し求めていたビビットカラーな石材なんだが、その量がなんと微々たるものか。親指の爪くらいじゃねぇか。


「いい色だけど小さすぎる。もっとないの?」

「別に出してもいいが、そいつだけでも銀貨1枚はするぞ」

「高っ! ちなみにこっちはいくらなのさ」

「そっちは銅貨3枚だな」


 くすんだ色のはレンガサイズで銅貨3枚か……とはいえ欲しいのはビビットカラー石材。しかし高すぎるな。ハッキリ言ってぼったくってんだろってレベルなんでちらっとおっさんに目を向ける。


「おい店主。なんでそっちの石材はそんなに高いんだ?」

「それはですね衛兵様。これはゴーレムの破片でしてね。近頃ゴーレムが森に住みついてるって話はご存じでしょう? これはあいつらのモンなんですよ」

「これ……ゴーレムの破片なの?」

「そうさ。ゴーレムってのは普通にある石なんかと違って色が鮮やかでな。一部の絵描きにゃ貴族の絵を描く時に使うと喜ばれるってんで高いんだよ。丁度近くの森に居るんだがこれが厄介らしくてな。だから高いんだよ。それで? 買うのかい?」

「なるほどね。とりあえず両方とも1つづつもらうよ」

「あいよ」


 とりあえず両方買ってヴォルフの回答待ちだな。

 さすがにヴォルフが帰って来るには早すぎるから、ここはアリアをはじめとした女性陣への土産でも散策しますかね。


「ねぇおっさん。布を売ってる店に心当たりはない?」

「……知り合いのでいいなら案内できるぞ」

「どこでもいいよ」


 って事で案内されたのは、こじんまりとした小さな店。玄関に申し訳程度の針と糸の看板が掲げられてるけど、それがなかったらどこにでもある普通の家って感じにしか見えないよなぁ。


「いらっしゃいませーって、アック君じゃない。そっちの子は……息子さん?」

「違うわ! かの英雄の息子だよ」

「えっ⁉ 偽物じゃないの? 全然似てないわよ」

「似てなくて悪かったね」


 戸を開けてすぐの場所に居たのは店主であろう若めの女性だ。栗色の髪におっとりとした顔立ちが物腰柔らかな印象を持てたがすぐにその考えは改める事に。どうやら思った事はズバッとはっきり言うタイプらしい。


「似てようが似てなかろうがこっちはお客さんだよ。この店にリボンに使える布ってある?」

「その辺りの布はそういった用途で使われてるわよ」


 案内——って言うほどの広さもないんで指で差された場所に目を向けると何ともボロボロな布切れの入った箱が置いてあった。


「おかしいな。俺はリボンになる布が欲しいって言ったんだけど? リボンって何をする物か分かってる?」

「え? リボンって髪の毛を結ぶものでしょ? だからそこに置いてあるのを使うのが普通よ」

「こんなの使ったら貧乏くさく見えるでしょ。こっちのを使ったりしないわけ?」


 一応普通の布っぽいのもあるんでそっちを指差すと、店主はそっちは服に使うのよと言われてしまったが構わず購入。これでリボンを作ってアリアの土産としよう。訓練の時によく使ってる印象があるんで、腐る事もないだろう。


「銀貨1枚よ」

「高くね? そんなに大きくないよね?」


 俺が買おうとしてるのはせいぜいがハンドタオルサイズの緑の布。これで銀貨一枚はぼったくりすぎだろ。


「仕方ないのよ。今は布の生産が全くない状態なんだもの」

「なんで?」

「石材屋でも言ってただろ。森でゴーレムが大量発生してるせいだって」


 あー……そういえばそんな話してたっけ。


「何とかしてよアック君」

「無茶言うなって。おれはただの衛兵で、魔物との戦闘なんてロクにやったこともない。そもそもゴーレムなんて冒険者の領分だろ」

「その冒険者ギルドが役に立ってないんじゃないの。国から依頼出すように頼んでって何度も言ってるよね?」

「ちゃんと依頼が受理されてるけどゴーレムを相手にするには魔法使いが必須にもかかわらず、数が居ない。正直言って魔法使いを囲ってる高位冒険者クランの手が空くか、報告会が終了するまでは現状維持だろう」


 つまり布の高騰はまだまだ続くって事らしい。となるとこの布でリボンを作るのはアリアだけにしておこう。エレナとサミィは布を使わない何かで用意するとしよう。


「それじゃあ帰るね」

「ありがとうね。また来てねー」


 布屋を後にし、まだ昼まで時間があるんであてもなく大通りの店を回ってエレナやサミィのお土産になりそうなものを金額と合わせてチェックしていると――


「なんだとテメェ‼ もういっぺん言ってみやがれ!」


 そんな怒声が大通りで響き渡った。

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