第13話

「ねーまだ着かないの?」

「まだや」


 無人となった工房から移動を初めてそろそろ30分は経とうとしてる。

 最初は街の中を移動してたけど、それがやがて郊外になって。武装したドワーフが立つ警備が不思議と厳重な門を通り。今は坑道っぽい道をひたすら下へ下へと突き進んでる。

 一応昼食まではまだ余裕があるから大丈夫だけど、さすがに遠すぎるでしょ。うすぼんやりとした記憶だからほぼ覚えてないけどこんな深かったっけ? ってくらい進んでるし、そこら中につるはしを持ったドワーフが居て目を爛々と輝かせてる。


「この辺りもミスリルが出てるの?」

「せやで? っちゅうかなんで見つけた本人が分かっとらんねん」

「分かってないんじゃない。覚えてないだけだ!」

「……まぁ、来たんが3月前やったもんな。それよりもそろそろやで」


 そろそろって事はまだ到着って訳じゃないのなぁと内心ガッカリしてると、トロッコがすれ違えるかどうかってくらいに狭かった坑道が突如として開け、目の前には上の街に比べると小規模ながらも複数の工房が立ち並ぶ村みたいな集落があった。


「こんな場所に工房開いて大丈夫なの?」


 上はまだ明かり代わりに岩肌が切り開かれてたけど、ここは随分と地下深い場所だ。こんな所で炉を――それも複数稼働させたらあっという間に蒸し焼きになるし何より酸素不足であっという間に死ぬんじゃないのかなって疑問がある。


「平気や。ここにあるんは精霊が居る炉だけやから。他の連中と違って息苦しくなったりせぇへん。そこら辺はちゃんと考えとるわい」

「ならいいけど……精霊ねぇ」


 この世界には精霊が存在してるらしいんだけど、これが見えるのはそういったスキル持ちだけで、ドワーフには火の精霊が見える奴が時折生まれてくるんだって。それと契約出来れば、酸素の代わりに魔力を使って普通の炉じゃ精錬すら困難なミスリルを始めとした希少金属も簡単なんだとか。

 全部親方に説明されただけでざっくりと理解したけど、とにかく精霊の炉であればここで作業してても何ら問題はないらしいとしても暑くて汗臭い事に変わりはない。唯一の救いが音だけは小さい事かな。


「ここや」


 なんてやりとりをしてる内に目的地に到着。ここに俺の商売相手である親方が暮らし、ミスリルで何かを作ってる工房らしい。


「随分と小さい工房になったね」

「この場所じゃこれが精一杯や思うで?」


 上の街では一番デカい工房と言っても差し支えなかったけど、ここだとせいぜいが中規模程度で、事情を知らなければ親方も耄碌したなぁと内心ほくそ笑んでやったんだがな。


「案内ありがとね」

「構へんよ。お嬢に言われたら無下にはでけへんしね」


 目的を果たしたドワーフは別の店へと帰っていった。どうやらあいつも精霊が見える一派だったらしいが、俺には興味のない事なんでどうでもいい。さっさと調理器具を受け取ってさっさと帰ろう。

 店内は洞窟内とは思えないほど明るく、カウンターの奥には親方が作ったであろう剣や斧と言った武器がズラリと並んでるけど値札が無い。

 奥へと通じる道はカウンターの奥とはいってすぐの右斜めにあって、そっちには木製の扉がある。


「こんちはー。リックでーす。いつもの受け取りに来たよー」

「はいはーい。ホンマに来とったんやね。迎え行かせて正解やったわ」


 右斜めの扉から出てきたのは俺とそう背丈の変わらないこの店の看板娘のララ。茶色のショートボブが似合う巨乳さんでクリっとしたエメラルドグリーンの目に八重歯が印象的な可愛い娘さんだ。


「久しぶりー。随分とこじんまりした店になったね」

「自分がミスリルの鉱脈がある言うたからオトンがこないな場所に工房構えてしもうたんや。いい迷惑やでホンマに」

「鍛冶以外の店とかなさそうだしね」

「無さそうやなくて一軒も無いんや。お陰で食材買うのにいちいち上まで行かんとアカンから色々メンドイねん。ウチは正直言って上で暮らしたいんやけど、オトンがウザいねん」

「親方は親馬鹿だからねー」


 親方はかなりララを溺愛してる。そりゃあもう目に入れても痛くないを平気で実行に移しそうなくらいで、近寄る野郎が居ればもれなく殺意のこもった目で睨みつけるし、会話でもしようものなら値段のつり上げなんて日常茶飯事。そんな光景を俺も何度か見てきたし向けられた。

 今じゃあ大樹の枝をあげてるから随分軟化したけど、それでも面倒な事に変わりはない。ロリ趣味じゃないんで。


「そんな生易しいもんやないのはアンタもよぉ分かっとるやろ?」

「結構簡単だと思うけど? 面と向かってパパなんて大っ嫌い! とでも言ってやればショック死するかもよ」

「死なれたら困んねん! ったく……もうええわ。それよりも調理器具やったな。持って来るから座って待っとき」


 言われなくともそうするつもりだ。こんな場所までわざわざ来るような物好きは居るには居るようだけど、ここに入って来るような奴はいないので土魔法で作ったソファに亜空間からクッションとかキンキンに冷えた水なんかを取り出してパーフェクトだらけを決める!

 なにしろここは、ドワーフの中でも最高峰(自称)の腕前を持つ鍛冶師の工房だからな。生半可な連中ではララに門前払いにされるのがオチ。合法ロリ巨乳でも一山いくら程度の連中じゃ足元にも及ばないけど俺は魔法があるんで軽くあしらえる。それに何より、こっちには極上の餌があるんだ。


「あー……水の冷たさが全身を駆け巡るぅー……」

「あいも変わらずぐーたらしとんのぉ」


 暇つぶし読んでた英雄譚から目を離すと、そこにはドワーフとして全く不釣り合いなほど巨大な筋肉だるまの髭もじゃおっさんがいた。

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