世羅と雪
門前払 勝無
第1話
「世羅と雪」1
すすきが夕陽に照らされて血に染まったようになっている。
世羅はぼんやりとそれを見ている。ぼんやりと糞しながら見ている。
すすきの隙間から数人の声と影が見隠れしているのを見つけた。
「人が糞をしているのに…」
数人の声は何やら騒がしく“あっちかこっちかそっちいった”だとの何かを追いかけている様子であった。
世羅は巻き込まれないうちに退散しようと褌を肩に掛けて川に入った。
尻を洗っていると、何かを追いかけている男たちが声を描けてきた。
「おい、若い女を見なかったか?」
「俺は糞をしてたから何もみてないぞ」
世羅はバシャバシャと尻を洗って川原へ上がった。褌を巻きながら、男たちへ事情を聞いたが誰も答えないで行ってしまった。
刀と鉈を担いで世羅は山の方へ歩き出した。
世羅は山道は歩かないで原生林の中へ入っていった。急な斜面をしばらく登っていると、後ろから息を切らしたような声が聞こえた。
振り替えると十代位の女がぜぇぜぇ言いながら付いてきている。
「娘さんよ。ここは山道じゃないぞ!」
「…それはこっちの台詞だよ!」
「なんか怒ってんのか?」
「なんでこんな道歩いてんのよ!」
「俺の勝手だろう!お前誰だよ!」
「アンタに関係無い!それより、アンタを雇ってあげるから江戸まで案内しなさい!」
「ふざけんな!俺は江戸から西に向かってんだよ!なんで引き返すんだよ」
「父上に言って百両あげるから案内しなさい!」
「お前はバカか!百両なんて大金をそんな案内でくれるわけ無いだろ!付いてくんなよ!」
「…」
女は泣きそうな顔をしている。
「おいおいおい!泣くなよ!お前はまだ若そうだから説明してやるけどなぁ、百両は凄い大金なんだよ!道案内位でそんな大金は貰えないよ」
「じゃあ…五銭で案内しろ」
「安っ!お前は極端だな!」
「案内しろ!」
「やだ!違う奴を見つけろ!じゃあな!」
世羅は女を置いて歩き出した。
しばらくすると女の姿が見えなくなった。
世羅は火を起こすために小枝を鉈を使って集め出した。
「武士なのに、なんでそんなもの持ってるんだ?」
「うわ!」
松の裏から女が顔を出した。
「何をビビってる?」
「なんで居るんだよ!しかも、追い付くの早いな!化け物か!」
「しばらく歩いたらこの道にも馴れた!」
女は無邪気に笑っている。
世羅は溜め息を着いた。もう暗くなってきているし、女を一人で山の中を歩かせるのも可愛そうだと思い、日の出まで一緒にいてあげることにした。
「飯作ってやるから食ったら寝ろよ!朝方までは一緒に居てやるから…」
「…お前…スケベな事をしようとしてるだろ!」
「バカ野郎!なんて奴だ!親切にしてやってんのに!」
「だってお前の顔はスケベそうだから…」
「間違っては無いけどな!確かに言われるけどな!でも、失礼だろ!」
「ごめんなさい…」
「まぁ…いいけどよ」
「いいのか…無駄話をしてないで早く飯を作れ!」
「……てめぇ……」
世羅は小枝をバキバキと折りまくった。
山登りしながら採った茸と山菜を小さな鍋に入れて少し味噌を入れて煮込んだ。
煮込んでいる間に女に事情を聞いたが「お前には関係無い!黙って火の番をしておけ!」と言われた。
鍋が出来上がる頃に女は寝てしまっていた。
世羅は起こさないように飯を食べた。
「おい!何先に食べてんだ!私が先だろ!」
「お前こそ何様だ!寝てる方が悪いだろ!」
「起こせ!」
「くそぉ…小娘め!」
一つしかない茶碗に茸汁をよそって女に渡した。箸は小枝を利用した物である。
「味が薄い……」
「うるせぇ!早く食って寝ろ!」
世羅は事情は何も答えない小うるさい女を見ながら煙管をふかした。
世羅は江戸で仕事人をしていたのだが頭が殺されてしまい解散になってしまった。
貯めた金を持って畑でも買って農業をするために旅に出たばかりであった。
「私を江戸に連れていく気になったか?」
「なるわけ無いだろ?」
「そっかぁ…」
「事情が解らないのに承諾は出来ねぇよ」
「私は手違いで人拐いに捕まってしまったの…なんとか逃げた時にお前を見掛けた…家に帰れば…父上がアイツらを凝らしめてくれるのに…」
「お前の家は武家か?」
「そうだ!幕府に支える家系だ」
「まぁ……暇だし、一歩進んで振り出しに戻ったと思えば良いかぁ」
世羅は煙管を叩いた。
女はうんうんと頷いている。
「報酬は…多少期待できそうだな!よし、江戸に連れていってやるよ」
「当たり前だ!」
「お前の家もお前を探してるはずだしな…追手は六人位だったから……いけそうだなぁ!決まりだ!早く寝ろ!明るくなる前に出発するぞ!」
「お前こそ喋ってないで早く寝ろ!」
「生意気な!」
世羅は火を絶やさないようにして寝転がった。
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