冒険者の少女は先輩の役に立ちたい

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 何のとりえもない田舎娘だった私は、ある時名も知らない冒険者に助けられた。


 薬草を採取するために、住んでいた村を離れた私は、モンスターに襲われてとても怖い思いをした。


 けれど、偶然通りかかった冒険者が助けてくれたから、私は生き登る事ができたのだ。


 私はその時思った、強くて大きくて、カッコいい。あの人みたいになりたい。と。





 さんざん色々な人に反対されたけれど、私の意思はかわらなかった。


 冒険者になるため、長い間体を鍛えて、勉強をし、知識や技術を身に着けた。


 そして、成人した日に村をでた。


 両親や友人に引き留められたけれど、私の意思はかわらない。


 駆け出しの町へ訪れて、冒険者の登録をすませた私はさっそく、ギルドの依頼をこなすことにした。


 ギルドは、冒険者に対する依頼をまとめたり、紹介してくれたりするところ。


 私は、そのギルドで紹介された、一番簡単な依頼をこなす事にしたのだけれど、運が悪かった。


 通常は例レベルのモンスターしか出てこない場所に、高レベルモンスターが出てきてしまったからだ。


 私はその時、何もしないまま、ここで死ぬのかと覚悟した。


 けれど、そこに先輩が現れたのだ。


 その時は顔も知らない他人だったけれど、先輩はとても強かった。


 私をさっそうと助けて、モンスターを一撃でしとめてしまうほど。


 とても強い力で、ゴーレムモンスターなのにこなごなだった。


 私は、すぐに先輩の弟子にしてもらおうと思った。


 冒険者としてやっていこう、と考えた時。

 色々な不安があった。

 私は小柄だし、女性だ。


 色々と厄介事にまきこまれる事が多いはず。


 誇れるものは、忍耐力とがんばって身に着けた知識くらい。


 そんなのでやっていけるのかなって。


 ずっと思っていた。


 でも、先輩は私の良いところをたくさん見つけて、育ててくれたから。


 そんな先輩に恩返しがしたいと、私は自然に思うようになった。


 でも、素材集めで貢献しようとしても、もうすでに持ってるって言われるし。


 だったら資金を稼いで、金銭面でお礼をしようと考えても、お金なら有り余ってるって言われるし。


 何ができるのか分からないまま。







 冒険者になってすぐは、苦難の連続だった。


 モンスターとの戦闘。遺跡の中でのトラップの解除。難所の踏破。過酷な環境で生き残るためのサバイバル。不当な依頼と正当な依頼の見極め。


 一つだって楽にできた試しがない。


 でも、そんな私に手を差し伸べてくれたのは、やっぱり先輩だ。


 先輩はいつだって優しい。


 生き残るために必要な事を、丁寧に教えてくれた。


 先輩は長い事冒険者として活動しているけれど、他にも私のような初心者冒険者にアドバイスをしてまわっているらしい。


 だから、たくさんの人が先輩を慕っている。


 弟子だってたくさん。


 私はそんな先輩を独占できない事にもやもやして、自己嫌悪。


 多くの人を助ける事が先輩の素晴らしい事なのに。


 でも他の弟子達と協力して、先輩のランクが上がった時に、パーティをして少しだけ恩返しできたのは良い思い出だった。


 人より体の大きい先輩のために、鎧のサイズを調整できる魔法の装飾道具を手に入れたり、頭の形が独特だからおしゃれができないってぼやいていた先輩のために、ドワーフが作った帽子をプレゼントしてみたり。


 いつも苦労をかけている先輩に喜んでもらえて、嬉しかった。


 いつか自分の力だけで、恩返しができたら一番いいんだけど。






 そんな先輩には、夢があるようだ。


 いつか地図に描かれていない、世界の果ての先へ行く。


 そんな壮大な夢が。


 世界の果てを超えた冒険者は一人もいない。


 だからきっと大変だ。

 自分なんかが役に立てるか分からないけれど、精一杯、応援しようと思った。


 先輩ならできる。

 夢をかなえられる。


 そう言って。


 文献を調べたりして、情報を集めた。


 けれど、先輩のおかげで育った他の弟子たちも、冒険先で様々な情報を集めて、先輩に教えていった。


 しかも、強くなった冒険者たちは、一緒に冒険して、先輩を手助けしている。


 私にしかできない事って、何かないのかな。


 皆が先輩を助ける事は、とてもいい事なのに。


 どうしてか、先輩と他の弟子が話しているのを見ると嫉妬してしまう。


 先輩はかっこいいから、ほうっとえくと可愛い女の子にすぐ好かれてしまうから、そういうのもいけないと思う。


 なんて、そんなの冒険に関係ない、かな?





 いつか、私にしか出いない事で先輩の役に立ちたいな。


 私だって、きっと他の人達みたいにやってみせる。


 先輩に助けてもらって立てたテントの前で、モンスターが襲ってこないように火を焚いて見張りをしていた私は、夜空の星を見上げた。


 その時先輩は、私が焦ってるように見えると言った。

 本当だから、言い返せない。


 しょうがない子供をあやすように頭をなでる先輩は、少しイジワルだ。


 私はそんな風にしてほしいわけじゃないのに。


 文句を言うと、珍しく昔話をしてくれた。


 先輩が昔、遠くの場所を旅していた時の話。


 けれど、先輩は強くなることに夢中で、人を助ける事なんてどうでも良いと考えていたらしい。


 自分の見た目の事で、いじめられていた過去が原因だとか。


 今の先輩を見ているととても、考えられない。


 そんな昔の先輩はモンスターに襲われていたとある少女を助けたらしい。


 その少女からぜひお礼をしたいと、近くの村に泊まる事にした。


 その村の人達は、強くて大きくて、力の強い先輩を見てもだれも怖がらなかったから、過去の先輩は今の先輩の陽に、人を助けるようになったという。


 私は、岩肌の様にごつごつした先輩のその肌にふれる。


 額から突き出た角にも。


 先輩は私達のように人族ではないけれど、とても優しい。


 だから私もその少女のように、見た目の事なんでどうでも良いと思っている。


 それを伝えた先輩は、今までで一番の優しい笑顔を見せてくれた。


「お前はもうとっくに、俺に大きな事をしてくれているよ」





 けれど、私はもっと優しい先輩の力になりたくて、早くこの未熟な初心者時代が終わりますようにと願っていた。





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