10.

 私には兄さんの言葉がどうも本心とは思えない。兄さんは女の子達と遊ぶことで自分を癒しているつもりなんだろうけど、でも、慰めにすらなっていない気がする。


 一瞬、兄さんの瞳が揺らいだ気がしたけど、兄さんは気怠そうに、ゆっくりと上半身を起こし上げる。だけど視線はまた天に向けられる。


 私はただじっと月光を受け薄らと影のかかったその横顔を一心に見つめ続ける。


 梅吉兄さんは、ウソつきだ。私には分かる。多分ウソをつくことで、自分のことを慰めているんだ。


 そろそろ戻るかという兄さんの声に、私は何も言えないまま、黙って従って立ち上がった。だけど意識が散乱してたんだと思う。ずるりと足が滑って……、

「きゃっ!?」

 そのまま体が下に引っ張られていったけど、

「……っと、だから気を付けろって言っただろう」


 梅吉兄さんが腕を伸ばし、とっさに私の体を支えてくれた。私は飛び上がった心臓をそのままに安堵の息を吐き出すと、兄さんにお礼を言った。


 けれど兄さんは聞いているのか、いないのか。私を抱き寄せると、それから、ぎゅっと強く抱き締めた。夜風に当たっていたせいだろう、兄さんのひんやりとした体温が私の肌に染み込んでいく。


 私は、

「兄さん……?」

 兄さんの胸板に向かって声をかける。


 兄さんは、

「そうだなあ」

 そう呟いてから、

「かわいい妹に免じて、しばらくは女遊び、やめようかな」


「え……?」


 えっ、えっ……?


 兄さん、今、なんて言ったんだろう。女遊びをやめるって、本当にそう言った? それとも私の聞き間違い?


 私が混乱していると、兄さんは私の顔に自分のそれを寄せてきて――……。おでこに温かくて柔らかい感触が降って来たのと同時、ちゅっと軽い音が鳴った。


 えっと、今のはもしかして……。きっ、ききき、キス――……!??


 私は熱を持った額を手で押さえながら、兄さんからとっさに距離を取った。


「なんだよー。でこくらい別にいいだろう?」


 つんと口先をとがらせる兄さん。


 兄さんってば私のこと、絶対にバカにしてる……!


 私はふるふると肩を大きく震わせて、

「ちっとも良くなーいっ!!」

 星空の下、思わず大声で叫んだ。

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