それを捨てるなんてとんでもない!〜童貞を捨てる度に過去に戻されてしまう件〜おまけに相手の記憶も都合よく消えてる!?特殊スキルで無双出来るけど構いませんね?
第16話 ep2 . 「訳有り令嬢と秘密の花園」 告白
第16話 ep2 . 「訳有り令嬢と秘密の花園」 告白
どういう事だろうか。
一瞬の緊張が二人の間に走ったかのように思えた。
どうして、と口から出かけた言葉を俺は紙一重で押し殺した。
深く聞いてはいけない気がした。
迂闊に触れれば彼女を傷付けてしまう話題である事は馬鹿の俺ですら理解できた。
彼女はゆっくりと遠くを見る。
金色の髪が風に揺れた。
わたくし……以前に大きな事故に遭った事がありますの、と花園リセは小さく呟いた。
大きな事故。
この貴婦人の御令嬢が?
にわかには信じがたかった。
しかし、いよいよこれはこちらからは触れてはいけない話題だぞ、と俺は確信した。
こちらの緊張を読み取ったかのように彼女は小さく微笑を浮かべた。
「だから、婚約は白紙ということになりましたの……ただそれだけの話なのですけど」
変なこと言ってしまってごめんなさいね、ビックリしたでしょう、と花園リセは俺の目を真っ直ぐに見て穏やかに笑った。
いや、と俺は首を振った。
でも良かったんじゃねぇの、と俺はつい口にしてしまう。
「え?」
花園リセが不思議そうな顔で俺を見る。
駄目だ、こんな事言っちゃいけない、とは頭では理解できているつもりだった。
しかし俺は自分が喋るのを自分自身で止められなかった。
「良かったじゃん、結婚前に相手の本性が分かってさ。相手の奴、リセさんが大変な時に助けるどころか見捨てて行くような男だったって事だろ?」
花園リセは驚いた様子で俺を見ていた。
「そんな奴とうっかり籍入れないで逆に良かったじゃねぇか。リセさんにはもっといい男が絶対居るんだからよ」
それに、と更に俺は余計な一言を言ってしまう。
「俺だったら絶対に怪我した婚約者にそんな思いさせないのに。意地でも絶対に婚約破棄なんかしねぇよ」
彼女はその大きな瞳を見開いて言葉を詰まらせた。
ゆっくりとした風が吹き、更に沈黙が流れる。
にゃあ、とマサムネが彼女の膝から降り、俺の懐に飛び込んでくる。
しまった、と俺は思った。
なんて事を言ってしまったのだろう。
俺はマサムネを抱き上げた。
俺は心底後悔した。
マサムネのしっぽがクルクルと俺の膝の上で動く。
彼女を傷付けるような事を言ってしまった。
花園リセはこんなにも俺とマサムネに親切にしてくれたって言うのに。
恩を仇で倍返ししたような形になったと思った俺は頭の中がパニックになっていた。
馬鹿か俺は。
最低だな。
花園リセが無言で俺の顔を見つめる。
一呼吸置くと彼女はふふ、と小さく笑った。
頼もしいんですのね、小さな
にゃあ、とマサムネが鳴き俺の膝に小さな爪を立てる。
「……あなたのお姫様に選ばれる女の子が羨ましいですわ」
そう言った花園リセは今度は悪戯っぽく笑った。
揶揄われてるのは俺の方?
どういう意味だろうか。
なんにせよ彼女が笑い飛ばしてくれた事は俺を安堵させた。
話題を変えようと俺は必死で脳みそをフル回転させる。
しかし何も気の利いたセリフも話題も思い浮かばない。
俺は膝のマサムネを撫でながらも脳内では混乱していた。
またしても静寂が空間を支配する。
どうすりゃいいんだ。
そういえば、と先に口を開いたのは花園リセの方だった。
「佐藤さんはこの薔薇の花言葉をご存知だったんですの?」
彼女は微笑を浮かべたまま、さっきの一輪ブーケを大切そうに胸の前に掲げている。
いや、と俺は首を振った。
花言葉?
「知らんけど……バラ……赤いバラだから……情熱?」
“情熱の真っ赤なバラ”って言うもんな?と俺はなんとなく口にした。
ふふ、と花園リセはまた悪戯っぽく笑う。
違ったのか?まあまあいい線行ってると思ったのにな、と俺はぼんやり考えた。
“情熱”の意味ももちろんあるのですけど、と前置きして彼女は小さく呟いた。
「赤い薔薇の花言葉は『あなたを愛してます』という意味もあるんですの」
にゃあ、と鳴いたマサムネが俺の膝から降りて庭園を散歩し始める。
「そうなのか。知らんかったな…色でも意味が変わってくるのか?」
白い薔薇は『純潔』、ピンクの薔薇は『淑やか』、黄色い薔薇は『嫉妬』、だったり……他にも色々とあるのですけど、と花園リセは答えた。
詳しいんだな。流石に優雅な貴婦人は教養もあるし、こんな豆知識がサラッと出てくるんだな、と俺は感心した。
それに、と彼女は付け加えた。
「本数にも意味がありますのよ」
そう言って彼女は庭園を歩くマサムネを目で追った。
俺もマサムネに視線を移す。
へぇ、じゃあ、あの一本の花にも意味があるのか?と俺は花園リセに訊ねた。
「1本ですと『一目ぼれ』とか『あなたしかいない』といった意味になりますわね」
彼女は目の前の紅茶に口を付ける。
「すげぇな、ちゃんと意味があるんだな」
俺は感心しながら答えた。
さすが貴婦人の御令嬢、なんでも知ってるんだな。
俺も出された紅茶を一口飲んだ。
今日は果物みたいな味だな。
前に出されたアップルティーとかいう茶だろうか?
秋の入り口の午後、甘い紅茶は身体に優しく染み込んでいく。
これ美味いなあ、と呟く俺を見て花園リセは静かに微笑んでいた。
毎回紅茶のチョイスのセンスいいんだな、リセさん、と言いかけた俺は言葉を飲み込む。
ふと、俺は一つの可能性に行きあたる。
あれ?
俺、貴婦人の御令嬢に告白した男になってね?
え?
あれ?
は?
全身から汗がダラダラと噴き出る。
彼女は何も言わず、ただ聖母のような微笑をその顔に浮かべていた。
俺はブンブンと首を横にフルスイングした。
あの、違うんだリセさん…!!と口にしたいのに言葉が喉に引っかかって出てこない。
なんだこれ、なんかおかしくね?
俺は更に話題を変えようと必死で頭を捻った。
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