第3話 ep1.「呪いの宣告」 付き合ってない子とヤってしまった

 「ま、そういう訳で神社で色々と記録を漁っていたらこういう結論に達したのだが何か質問はあるか?」


美術準備室で俺の目の前に座っている小泉は至って真面目に言ってのけた。は?呪い?時間が戻る?意味がわからない。

どういう結論だよ。そもそも病み上がりの俺は小泉の話を半分以上飲み込めずにいた。


 「悪ぃ。センセェ。さっきの話全然聞いてなかったし何もわかんねぇ。もっと馬鹿でもわかるように教えてくんね?」


小泉はため息をついた。


 「お前という奴は…‥授業中もいつもそうじゃないか」


そう言われても『お前は呪われている』と言われてはいそうですか、と納得できる人間がどれくらい居ると?

おまけにこの夏に童貞を捨ててきただろうとか全く話が見えてこない。そんな人生最大のビッグイベントが俺の身に起こってたなんて信じられない。そもそも相手に心当たりが1ミリもない。言うまでもなく彼女だって一度も出来たことはない。


 「俺が童貞を捨てたって言うなら相手はどこに居るんだよ?彼女なんだろ?」


俺は机にあるペットボトルを手に取り、スポーツドリンクを飲む。9月とは言え放課後の美術準備室はまだ真夏の気配と空気を濃厚に残していた。


 「残念ながら付き合う前に別れてしまったようだな」


俺はまたしても口に含んでいたスポーツドリンクを盛大に噴き出してしまう。小泉は俺を睨みながら顔をタオルで拭く。


 「また目に入ったろうが。染みるだろう。気をつけろ」


いやいやいやいや……俺は首を横にフルスイングする。


 「は!?どういう事なんだよ!?付き合う前にヤッてそのまま別れた!?何それ!?ヤリ捨てじゃねーの!?」


いくらなんでも酷すぎないか?もしかして相手の子も初めてだったんじゃねーの?処女奪っといて捨てたの?最低じゃねぇの俺?!


 「信じたくないのも理解できるが順を追って話そうか」


小泉は机の上にドサドサと書類や資料らしきものを置いた。


 「そもそもあの日、お前の家に行ったのは保護者の所在を確認する為だ。心苦しいのだが私はお前を児相に送る事になるのは覚悟していた。これはネグレクトで犯罪なのだからな」


俺は黙って小泉の話を聞いていた。いつかはそうなるであろうことは俺自身もどこかで感じていた。


だが、と小泉は続けた。


 「呪いともなると話は別だ。お前の家の神棚に特殊なお札があっただろう。あれは一般家庭にゴロゴロ転がっているような代物じゃあないんだ」


小泉は俺を指さした。


 「お前の仙骨下部にあった印、あれは蒙古斑でもなければ単なる痣でもない。呪われた忌み子である証だ」


そう言われてもまだ俺はピンと来なかった。お札とやらは去年死んだ爺さんかもしくは婆さんが供えたものだろうし、尻のアザは蒙古斑だから大人になったら消えるとしか思ってなかった。両方とも俺にとってはどうでもいいものだった。


 「尻にアザがあって神棚にお札があったからって呪いだのなんだのってこじつけじゃね?センセェ、マンガやアニメの見過ぎなんじゃねぇの?」


俺は早く家に帰りたかった。今日はせっかく午前中の授業だけで終わった日だったし、久しぶりに遊べると思っていたのに予想外の足止めを喰らって調子が狂ってしまった。


 「死んだ祖父も宮司だったんだがな、祖父の記録を色々と調べて判った事がある。これだ」


小泉は古い帳面のようなものを俺の目の前に突き出した。


 「お前の母親がうちの神社に来ていたようだな。安産祈願とお宮参りの記録があった」


俺の母親が安産の祈祷やお宮参りみたいな行事にキチンと参加していたというのがまず驚きだった。そんな事はしそうにないようなイメージだったので意外すぎた。


 だがな、よく見ろ、と小泉は帳面を凝視する。


 「名前欄に朱書きで何か書いてある」


確かに、他の記録は墨汁の黒一色で書かれているにもかかわらず、俺の母親の欄にだけ何かの記号らしきものが朱い色で添えられている。


 「これはな、特別な場合のみの印だ。50年に一度あるかないかと言われているレアケースなんだぞ」


帳面を握りしめた小泉が俺の顔を凝視する。そう一人でエキサイトされても困る。


 「お前はつまり、半世紀に一度出現するレベルの呪われた忌み子なんだよ!」


小泉が俺に向かってビシっと指を指す。そう言われましても。俺は困惑した。確かに俺の運は悪そうだ。現にこうして今、変な教師に絡まれているし。


 「俺がなんか呪われてるっぽいってのは解ったよセンセェ。けど、童貞捨てるとか時間が戻るとかって話はどっから降って出てきたんだよ?」


俺は小泉の要領を得ない話にウンザリしていた。もしかして小泉って都市伝説だの怪談だの信じちゃう系?オカルト話なら同好会でも勝手に立ち上げてそこでやってくれませんかね?


 「そこでこれだ」


小泉が2冊目の和綴じの帳面を出してくる。何冊あるんだよめんどくさい。


 「記録によるとお前は一回、童貞を捨てて時間を戻った後に何故かまた時間を戻してるな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る