第38話 迷惑な同僚


今日から金曜までいないのかあ。

心の中で寂しさを覚えながら淳の事を思い出していた。


でもいいや、淳、金曜日成田着いたらすぐに電話くれると言っていたし。迎いに行っちゃおうかな。


ふふっと笑いながら自分のデスクにオントップしてあるPCで金曜日成田着の到着便を調べていた。


「一ツ橋さん」


アライブドスケジュールを見て夢中になっていた時、いきなり声を掛けられて、えっと思って声の方向に振り向いた。

同じマーケティング部の浅野千賀子だった。


何かという顔をすると

「もう、さっきからがっかりしたり、含み笑いしたり、どうしたの」

「えっ。そう」

「そうだよ。パーティションで区切られているけど、何か感じるんだよね。一ツ橋さん」


えっ、どういう事と思うと


「だって、一ツ橋さん、可愛いし、綺麗だし。頭いいし。同性から見てもちょっと気になるよね。よく言われる芸能スカウトとかされたことないの」


ますます、分からない顔をすると


「まあ、いいわ。この続きはランチでしよう」


一方的に言われてパーティションの横から除いた顔を引っ込めるとそのまま自分のデスクに戻った。


そんなに気になるのかな。自分を普通にしか思っていない奈緒は、浅野の言った言葉にまた、ふふっと微笑むと成田着の到着便の後ろに隠れているデータをクリックして表に出すと、ディスプレイに映るグラフと表を見た。



僕は、取引先を回った後、議事メモをまとめる為に、コーヒーショップでPCのキーを叩いていると何気なく頭に一ツ橋奈緒子の事がうかんだ。


一ツ橋さんを心の中で思おうと、どうすれば、あの人といつも一緒にいることが出来るんだろう。

僕なんかじゃ、だめなのかな。可愛いし、綺麗だし。でも…。


「吉岡、何を考えている」

「えっ」

「えっ、じゃない。手が止まったまま一点を見ていたぞ。何か心配事もあるのか」

「あっ、いや。まあ色々と」

見抜かれたのかなと思いながらそう言うと


「そうか。その言い様は、恋だな。誰か好きな人でも出来たのか」


見抜かれたと思うと

「実は、…」

「そうか、でもあの姫君は無理だな」

「どうしてですか」

否定する言い様に


「明らかに誰かいる。あの子の仕草や行動を側から見ていればわかる。キャリアだな」

「そうなんですか」


目の前に座る営業二課の先輩の言葉を聞きながら頭を仕事に戻した。


「吉岡、今日どうする」

「別に普通に帰るけど」

「何か用あるのか」

「別に」

「じゃあ、ちょっと行かないか一時間だけ」


声の主の顔を見ながら

「そうだな。お前と行くと明日の一時だな。帰るのは」

「それは、お互いさまだよ」


二人で笑いながらエレベータを降りて入り口に向かおうとした時、かの姫君が、同僚と一緒にビルの出口に向かって歩いていた。

「ちょっと、待っていろ」

吉岡は急に急ぎ足になった。


私は、エレベータを浅野と一緒に降りてビルの出口に向かっていると、いっきなり浅野が、声を掛けた。


「一ツ橋さん。今日は、この後は」

「うん、何もない」

「じゃあ、少しお茶していかない」


……。特に家に帰って何も予定がない事を思うと


「いいよ」

と言って頷いた。その時だった。


「一ツ橋さん」

声の方に振り向くと吉岡が立っていた。

何ですかという顔をすると


「あの、済みません。今日何か予定有りますか」


浅野との約束をしたばかりの奈緒は


「ええ」

「そうか、そうですよね。済みませんでした」

と言って、踵を返すと自分達の側を歩いて行った。


「一ツ橋さん。さっき、予定がないって」

「今、出来たでしょ。浅野さんと」

「えっ、そう言う事」


吉岡の後姿を見るとその先に営業三課の国立の姿が有った。

えっ、えっと思うと


「ねえ、さっきの話だけど。・・あの人達一緒じゃ、だめ」


えっと思って浅野の顔を見るとお願いという顔をしていた。仕方なく


「うーん、浅野さんがそう言うならいいけど」


昨日、吉岡と昼食を取った私は、あまりこれ以上吉岡とは同じ時間を過ごしたくなかった。

彼の気持ちが分かるが、自分には淳がいると思うとこれ以上、彼と接することは良くないと思ったからだ。


 自分が、考えているうちに浅野は、二人の方に歩いて行って、何か話している。二人が急に笑顔になってこちらを向いた。

 ちょっと抵抗を心に感じながらいると、三人がこちらに歩いて来た。


「良かった。一ツ橋さんの約束って、浅野さんとの約束だったんですね」

男との約束でないと分かった吉岡は、思い切り嬉しい顔をした。


「せっかく四人いるんだから、お茶じゃなくて食事にしません」


国立の言葉に浅野が

「うん、うんそうしよう。一ツ橋さん」

三人の言葉に押されると

「いいですよ」


私は、心の中では、いやだなと思いながら、むげに断る訳にも行かず返事をした。


「うれしいな。一ツ橋さんと食事できるなんて」

「この前だって、したでしょ」

浅野の言葉に


「だから、嬉しいんです」


じっと私の顔を見ながら言う吉岡に日曜日の事は取りあえず話題にしないんだと少しだけ安心すると

「ありがとうございます」

とだけ言った。


 店に入り、酒が進むと段々吉岡は奈緒をちらちらからじっと見るようになっていた。

やっぱりいるのかな。この前も時間があると言っただけだし、今日はなんか、無理に誘った感じだしと思うと何となく真面目な顔に戻った。


自分の隣に座る同僚の顔の変化に

「どうしたんだ。吉岡。一ツ橋さんと会いたいって言っていたじゃないか」

「えっ、そんな事言っているの」


「ああ、こいつ一ツ橋さんの事で頭が一杯みたいなんだ。先輩に注意されるぐらいに」

「お前それは言い過ぎだろう」


まんざら嘘ではないという顔をしながらいう吉岡に


「えーっ、それってもしかして、公開お付合い申し込み宣言」

「いや、その、でも」

そう言いながら奈緒の顔を一所懸命見つめる吉岡に


「一ツ橋さん。羨ましいな。どうする」


半分、楽しんでいる風に言う浅野に

「ごめんなさい。まだ、そういう事は苦手で」


それを聞いた浅野が、口を手でふさぎながら

「うわーっ、一ツ橋さん、少女漫画のヒロイン見たい。信じられない。一ツ橋さん、やはりお嬢様」


既に二四にもなっている女性が言う言葉ではないと思った。浅野自身、国立とこの前の夜、ある程度まで進んでいた。勿論初めてではない。それだけに奈緒の言葉に驚いた。


 私は、本当の自分の事なんか知らないのにと思いながら何となく雰囲気を流していると


「浅野さん。言いすぎです。僕は一ツ橋さんのこういうところが大好きなんです」

「うわーっ、言っちゃった。国立さん、もう私たちお邪魔虫。席外そう」


本当は、国立と二人だけになる機会を、待っていた浅野は、ちょうどいい雰囲気にさっさと国立と席を外した。四人ともそれなりにアルコールが入っていた。


私も、浅野と一緒ならと思って、少しだけ多く飲んでいた。それだけにいきなり浅野が国立と席を外した事にまずいなと思いながら、二人だけになったと嬉しい顔をする吉岡の視線を感じていた。



―――――


やはり、多少は、はっきりした態度が必要です。

要らぬ期待を持たせると……。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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