未来に歌う、すずめとクロツノ魔王

「本当の名前?」

「そう、知ったら駄目なのかな。だってヨウは私がつけた名前でしょう? ロウだって、スズが――」

「あー、そっか」

「本当の名前は魔人同士なら呼び合えるの?」


 私はどうしても気になってヨウに聞いた。

 窓の外から子供達ティーとリリーの声が聞こえる。

 あの子達に私は名前をつけた。そして名前で呼んでいる。けれど、それで何か変わったような気はしない。心臓を掴まれるって本当なのか、それとヨウの名前を知りたいと思ってしまった。


「うーん、教えたくてもボクは本当の名前をつけてもらってなかったんだ」

「え、えっと……」

「だから、ボクの本当の名前はロウでありヨウであるんだ」


 悪いことを思い出させてしまったかもしれない。私はすぐに謝った。


「ごめんね、ヨウ」


 もう少ししっかりと考えておけば良かったかな。安易に角が黒曜石みたいだからって。

 しょんぼりしていると、ヨウは笑いながら言った。


「魔人と人が対立しているから出来た迷信だと思う」

「え?」

「人に心臓を掴まれる。心を掴まれる。名前を呼んで呼ばれて、人と恋に落ちないようにって意味じゃないかな。だから仮の名前で偽りの自分を作る。呼ばれているのは自分ではないと」

「そうなのかな」

「ボクはそうだったからなぁ」


 少し考えて、チクリとした。それはスズに名前を呼ばれていたからなのかな?


「まあ実際はわからないけどね。純粋な魔人だと違うのかもしれないよ。だって、ほら。ティーもリリーも名前で呼んでくれた人に懐いていってる」


 子供達の笑い声の合間にセレやベルの声が聞こえた。


「ボクは名前を親から貰えなかったけど、二人の大切な女の子から貰えた。すごく幸運だし、嬉しかった。名前で呼んで貰えるのが。だから、……この子にも、ボク達で名前を贈ってあげよう」

「そうだね」


 悩んでたって過去を変えられるわけじゃない。なら、未来の事を考えよう。

 うん、今からいっぱい、いっぱい、考えよう。

 ヨウが口ずさみだしたので私も一緒に、お腹の中に届くように歌を歌った。


☆☆☆あとがき☆☆☆


歌うすずめとクロツノ魔王の物語はこちらで終幕です。長い間お付き合いいただきありがとうございました!!

たくさんの応援も励みになりました。ありがとうございます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る