再会

 木々の間を通り抜け、少し茂みや大きな木が増えてきた頃、赤い髪の男がそっと下におろしてくれた。


「ありがとう。ここからは自分で――」


 歩けますと伝えようとして、顔を上げ言葉が止まった。彼の顔を見るとまた少し青ざめていたからだ。ふらつく足どりは彼の不調を否応いやおうなく知らせている。


「少しだけ、休ませてくれ」


 彼は木にもたれ掛かり、ゆっくりと座り込む。それを横で支えてあげながら私は隣に座った。


「無理をさせてごめんなさい」


 謝ると、彼は少しだけ笑いながら目を閉じた。

 このまま、目を覚まさなかったら……。

 ぞくりと背筋を冷たさが這う。

 もし、奇跡があるのなら、お願いもう一度……。

 私は、小さな声で歌を歌った。彼が少しでも治りますようにと願って――。

 リスが彼の肩からおりて、手のひらに座っていた。こちらを目を細めながらじっと見て、歌を聞いているみたいだった。


 ガサガサガサ


 少したって、草を踏み、枝葉をかき分けて近付いてくるような音がした。

 私は口を閉じて、あたりを見回す。音がする方を見ると草や枝が動いている。

 獣? それともまさか追っ手が――?

 彼は目を覚まさない。もう、そこまで来ている。

 私は彼を庇うように前に立った。ごくりと唾を呑み込み、相手が現れるのを待った。


「あぁ、やっぱりそうだ――」


 姿を見せたのは、結愛が怪我を治した男の人だった。


 ◇


「ゆあちゃん!」

「すずちゃん!!」


 ぎゅっと二人で抱き合った。ここにきた時に着ていたものではない、すごく綺麗きれいなドレスを着た結愛がいる。結愛を見た瞬間、川の流れを塞き止めていた蓋を外したように私は涙をたくさん流した。


「無事だったのね、良かった」

「ゆあちゃんも何もされてない? 大丈夫?」

「私は何も、それよりすずちゃんのほうがぼろぼろだよ」


 ぎゅうっとしてくれる結愛からはとてもいい匂いがする。対して私は、汚れた服と汗で乱れた髪、泣いたからきっと顔もひどい事になってるだろう……。自分と結愛の状況の差に、悲しい気持ちになった。

 ふと、視線をあげるとテトがこちらを見ながら難しい顔をして立っていた。


「押さえろ」


 その一言が、テトの口から発せられると、黒い角の男の人をぐるりと数人の男達が囲み、剣を首に向けていた。


「やめて!!」


 私が叫ぶと、ピクリと彼の指が動き、目を開けた。

 身体は動くことなく、漆黒の瞳だけがこちらへと向けられた。じぃっと見つめる瞳は冷たさを感じる。

 助けなければ! その思いで私は必死に声を絞り出し男達に説明しようとした。


「彼は、私を牢から出してくれたの。命の恩人なの」

「すずちゃん、牢にいれられたの?! あの人達は、特別な部屋だって言ってたのに……」

「違う。あそこは……牢屋だったよ。苦しいって思ってた時に、彼が励ましてくれたの。一緒に、ここまで連れて来てくれたんだよ! 自分のひどい怪我をおしてまで! だから、――私の大事な人なの。お願い」

「……」


 テトは、私の顔をじっと見ていた。私はその視線から逃げるように結愛に視線を移す。

 結愛が口だけ動かして、テトに無音でお願いと言った。すぐにテトは頷き、目で大丈夫と伝えていた。


「すまないが、これだけはつけさせてくれ」


 そう言って、テトは黒い角にそれぞれ一本ずつ金属の輪みたいなものをつけた。


「あの……それは……」

「命を脅かすようなものではない。魔法の力を人間より弱くするだけだから」


 すごく、不服そうな表情を浮かべる黒い角の男の人。


「彼はね、魔人と言って魔法の力がとても強いんだ。それを、この金輪が抑えてくれる。もういいよ」


 まわりを取り囲んでいた人達が離れていき、解放された彼は、はぁとため息をついていた。

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