いじめ二次被害者
宮きやと
近所の噂
「ちょっと藤本さん、金田さんのこと聞いた?」
ご近所さん同時で交わされる噂話は決まってこの言葉から始まる。いつもの道端でご近所さんふたりが私を見つけて声をかけてきた。こういった会話に参加することはあまり好きではない。大概が本人があまり広めて欲しくないであろう内容で、聞きつつ笑顔が固くなっていくのを感じる。
「隼人くんのことですか?」
「いいえ、例の女の人のことよ。あの人、どうやらDVの支援団体の人らしいのよ」
「そうなんですか?」
しかし金田さんのことはわたしでも関心があった。
金田さんは近所でも一際豪華な家に住んでいる人で、旦那さんは有名なスポーツ用品メーカーの役員らしい。隼人くんという小学生6年生の息子と3人で暮らしている。それだけでは別段井戸端会議の議題に上がることはないが、最近何かと噂が行き交っている家庭なのだ。
「なんでも金田の奥さんがDVされてるって情報があって、定期的に訪問して様子を伺ってるんですって。」
「じゃあやっぱりあのアザは旦那さんなんでしょうか」
「そうよきっと。前に原田さんが聞いたときは階段から落ちたって言ってたんでしょ?」
「そうそう。でもねー、階段から落ちても手をついたら顔にアザなんてできないわよねー」
数週間前、金田の奥さんの頬に青アザができているのをご近所の原田さんが見かけた。驚いて声をかけたところ階段から落ちたと話したそうだ。もしかしたら旦那さんに暴力を振るわれているのではないか、確かに夏というのにいつも長袖を着ているのは暴力の跡を隠すためではないかなど、すぐにご近所の話題になった。それまでは日焼け対策だろうと誰も気に留めていなかったことまで噂を加速させる材料となった。
「DVされてる人って、自分を攻めちゃうっていうじゃない?旦那さんは悪くないって思って人に話せないんじゃないかしら」
「そんなことないのにー。可哀想だわ金田さん」
「ほんとそうですよね」
いいながらも金田の奥さんの性格上、別の理由から暴行を隠しているように感じた。
「でも支援団体の人が気にかけてくれてよかったわね」
「ほんとそうよね。これでいい方向に向かえばいいわよね」
「そうですね」
しかし、旦那さんにDVの疑惑を知られるともっと酷い事態になりそうなのに、支援団体が自宅に訪問なんてするのだろうか。そして近所の人に疑惑があると話すものなのだろうか。
藤本は釈然としない、何かあるのではないかという気持ちが、心に渦巻いていた。
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