とある王国の記録
あびす
とある王国の記録
私はとある王国の兵士だ。自慢に聞こえてしまうかもしれないが、私の王国は世界一素晴らしい国だった。立派な城の元で民たちはよく働き、私たち兵士は命に変えても女王様を守る。そうやって続いてきたのだから、これからもそうしていくのだと思っていた。
あの日までは。
あの日、全てが壊された。いつもと変わらぬ平和な毎日のはずだった。そんな時に奴が現れた。
私たちの何百倍もある体躯。私たちとは比べ物にならない太い手足。長く伸びた口。その巨人は、圧倒的な絶望感をもたらしながら城の前に仁王立ちしていた。
巨人が城に近づき、その長い舌で民を絡め取り、喰らっていく。逃げ惑う者。心折られてその場に立ち尽くす者。崩れた城の下敷きになったもの。巨人は、まるで楽しんでいるようにそれらを悲鳴ごと胃袋に吸い込んだ。
そんな中でも、諦めなかった者達がいた。死を覚悟で巨人に向かって行った勇者達がいたのだ。
だが無駄だった。彼らが近付くと、巨人は去っていったのだ。恐れをなしたわけではない。それはまるで、また来るとでも言うようだった。そして理解した。
あの巨人は狩る側で、私たちは狩られる側なのだ。そしてそれはどうしようと覆せない事実なのだ、と。
彼らはこれがアリクイのなんでもないただの食事だということを知らない。
とある王国の記録 あびす @abyss_elze
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます