第15話
「それじゃあ私はお先に」
いそいそと帰るのは加賀美千佳。夏休みも終わり、2学期が始まってからは一緒に帰るということも少なくなっていた。
「ここ最近はいつもそうだな。何かあったんだろうか」
悠理は加賀美千佳に対し、心配の感情を向けていた。
「体調が悪いとかそういうことではなさそうだけど、あまり元気がないのは気になるな。小野田さん、何があったか知ってる?」
俺たちと同様に取り残された小野田さんなら何か知っていると思い聞いてみた。
「うーん。私にもよく分からないんだよね。だけど、家庭の事情っぽいんだよね。二人には言ってなかったから私も」
小野田さんも知らないというのであれば本格的にお手上げなのではなかろうか。まあ俺からするとあいつがどうなった所で別に悪影響とかは無いんだけれども。
まあ小野田さんは悠理と仲良くしてるしな。加賀美千佳のためじゃない。小野田さんのためだ。
「何が起こっているか分からないけど、困っているんだったら助けてあげないとね」
悠理は俺の発言を聞いて驚いた表情を見せていた。わざわざ嫌いな奴の面倒ごとに突っ込むとは思わなかったようだ。
「じゃあ千佳ちゃんの様子を見に行ってみよう!」
というわけで辿り着いたのは加賀美邸の前。前回は俺たちが来るということが分かっていた為門は開いていたが、今回は閉じており何もかもを拒絶するような圧迫感があった。
しかし構わずに小野田さんはチャイムを押す。
『はい』
「小野田です。千佳さんはご在宅ですか?」
『申し訳ありません。小野田様。千佳お嬢様は現在出払っており不在でございます』
「分かりました。ありがとうじいやさん!」
『はい。それでは』
加賀美千佳は家にはいなかった。ただしそれが事実なのかは分かりようがないのだが。
「加賀美には会えずじまいか。この調子だと一生辿り着けねえぞ」
「確かにそうだよね⋯⋯ どうしよっか」
「今日に関してはどうしようもねえから帰るか」
ということで俺たちは家路に着いた。
そして翌日。
「申し訳ありません。用事がありまして」
加賀美千佳は早々と帰っていった。
「じゃあ追うぞ」
悠理の言う通りに加賀美千佳を追跡することになった。
「小野田さんは部活行かなくて大丈夫なの?」
当然のように付いてきている小野田さんに疑問を投げかけた。この人はバド部だから今は本来部活のはずなのだ。
「大会もつい最近終わってしばらくは無いからこのくらいは大丈夫だって。それに事情を話したら許してくれたよ」
「それなら問題ないね」
多分事情がどうこうってよりバド部の皆に溺愛されてるから許されているだけだと思うけど。まあ小野田さんがいるのは大分助かるし考えないでおこう。
「あ、車に乗っていった」
そんな思考は小野田さんの発言により押し流された。
加賀美千佳が車で帰るってのは事情があるのは確定だな。加賀美千佳は基本的に公共交通機関と徒歩の併用で帰っている。あいつ曰く一般的な感覚を忘れてはいけない、それに目立ちすぎるのは問題とのこと。
「何かしら重大なことがあるのは確定っぽいね」
「その可能性が高いかもな」
しかし、一般的な高校生は車を追いかける手段なんて持ち合わせていないので、今日は一旦打ち切り。
「今回は逃がさないよ」
次の日、絶対逃がさないと決めた俺は、小野田さんにバイクを用意してもらっていた。
実は七森たちとの付き合いで最近バイクの免許を取得したのだ。
あいつら別に悪いことなんて一切しないのに、感性だけはどこぞの不良なんだよな。
小野田さんは当然免許なんて持っていないので付いてこないと思いきや、小野田さんの姉が付いてくることになったのだ。なんだが、
「姉の小野田秋です。いつも妹の環が世話になっています」
「今日はよろしくお願いします。小野田さんの家庭って三人姉妹なんですね」
「え?どういうこと」
環さんは二人も姉はいないぞと言わんばかりに困惑している。
「二人と巴さんで3人姉妹でしょ?」
納得したと秋さんが大きなため息をついた。
「あの人は私たちの母です」
「あの見た目でか……」
俺よりも先に悠理が思わず声を出していた。
「いい歳していたずら好きなのでこうやって初対面の人に毎回私たちの姉だって自己紹介してまして…… 本当に申し訳ありません」
深々と頭を下げる秋さん。多分この人が実質的な母親のような役割を果たしているんだろうな。
「別に困っていないので大丈夫ですよ。それよりも千佳さんが出発しそうなのでこちらも追いかけましょう」
こうして4人による加賀美千佳の追跡が始まった。
バイク三台という目立つ構成のため、決して近づきすぎないように、極力距離を取って追跡していた。
免許を取って間もないということもあり多少危うい部分もあったが、秋さんの見事な判断によって追跡を続けることが出来た。
そして追跡すること1時間。ついに目的地に辿り着いたようだ。
その目的の場所とは、山奥の巨大な倉庫。山奥の倉庫と言えば古いイメージがあるが、寧ろ新品に近く、何か倉庫とは別の目的があるのではと勘繰りさせられるようなものだった。
そんな建物にリムジンで入っていく加賀美千佳の様子は、何やらただならぬ雰囲気を感じさせる。
なにか加賀美千佳は犯罪に近いことをやっているのではないか、と。
まあ俺が嫌っているからそこまで最悪の想定をしているだけなのかもしれないが。
俺たちは気付かれないようにそこからかなり離れた場所にバイクを停め、様子を伺った。
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