第11話

 1戦目がスタートした。


 ステージは台だけの簡素なステージ。これで様子見だ。


 七森は距離を取りつつ遠距離攻撃を仕掛けてくる。セオリー通りだ。


 しかし見えない訳ではないためガード自体は可能のようだ。


 俺は上手く攻撃を掻い潜り上から攻撃を仕掛ける。


 しかし七森による攻撃に阻まれた。


 近距離攻撃には無敵判定を持つものがあるようだ。


 善戦するも虚しく1戦目は敗北した。


「流石の晴もこのキャラクターは初見で対処は難しいんだな!」


 七森が勝てると希望を持ったのか煽ってくる。


「ついに最強陥落の時が来たようだな」


 西野も続けてそう言った。


「一回勝った程度で勝ち切れると思ったのか?」


 甘い希望を持たれてしまったものだ。


 大体七森の使うあのキャラのことはよく分かった。


 次は負けない。



 その後の対戦はあっけなかった。


 遠距離攻撃で弾幕を張り続ける七森であったが、当然それには少しの隙が存在する。


 そして無敵判定を持つ攻撃も存在するが、剣士ほどリーチが長い訳がない。


 俺はその弱点を的確につくことで七森を2戦連続で打ち破り、勝利を収めた。


「今の七森ですら九条には勝てないのか⋯⋯」


「流石晴だねー」


 ブランクがあったとはいえ、まだお前らには負けるわけにはいかない。


「九条お前プロになった七森よりも強いのか」


 神田は驚愕を隠せないようだ。


 実は七森は最近登場したあのキャラでプロになり、様々な大会で名を馳せている実力者だ。


 しかし俺の反射神経とこのゲームの相性が良すぎるのだ。


 どれほど強くても見えるのなら隙だらけだ。


「まだ俺の方が強かったな」


「次は勝ってやるからな!!!!」


「さて、今からどうしよっか」


 今までの流れを傍観していた北条がそう言う。


「そうだな。最近ここら辺に来ることすら出来てなかったから回ってみたいって気はあるな」


 悠理はそう答えた。


「俺も同じような感じかな」


「じゃあそうするか!みんなも良いよな」


 ということで久々にここらを回ることになった。


「少し来ないだけでだいぶ様変わりしてんだな」


 黒須がそう言う。


 昔はこのゲーセンがある商店街以外まともな店は無かったのだが、今ではデパートやらなんやらが立ち並び大盛況だった。


「ここら辺は昔から土地代が安かったからな。それに立地自体も街に近く好条件だった。こうやって街が発展するのも時間の問題だったんだよ」


 西野がそう説明してくれた。


「つまりこういうことだ!」


 七森がそう自慢げにこの建物を見せる。


 超大型商業施設だった。



「噂には聞いていたけど想像以上にでかいな⋯⋯」


 比べるのは変かもしれないが、この間行った加賀美邸よりも遥かに大きい施設だった。


「早速中に入りましょ」


 北条はそう俺たちを急かした。


 ほとんどの部分はよくある商業施設と変わりはない。


 しかし、他の商業施設では滅多に見られないカラオケやボウリングといった施設まで取り揃えている。


「ここならなんでも出来そうなのに集合場所は変わってないんだな」


 悠理が俺にも思い浮かんだ疑問を述べた。


「確かにここならなんでも揃っているしゲーセンだって当然ある。だけど俺らがいつも集まっていた場所は思い出の場所なんだから変えたくはなかったんだ」


 七森がそう答えてくれた。


「それにここはお前らが来なくなってから出来たんだ。もしお前達が突然来た時に居なかったら困るだろ」


 西野がそう付け加えた。


 有難い奴らだ。


「それじゃあ何するか?」


 七森が俺たちに聞いた。


「久々にビリヤードがやりてえな」

 悠理が爆弾をぶん投げてきた。


「それは大層面白そうだな」


 西野も続けて肯定した。


「お前ら本当にビリヤードやりたいのか?」


「「「「勿論」」」」


 神田と俺以外の全員はやりたいようだ。


「お前らビリヤードそんなに好きだったか?お前らがやってたところ見たことねえぞ」


 事情を知らない神田が疑問を投げかけた。


「見ればわかるよ」


 北条は大層悪い顔をしてそう答えた。


 これはもう諦めるしかないか……



「ぎゃははははは何だお前!!!」


 神田が大爆笑しながら煽ってくる。ついでに他の奴らも腹を抱えている。


「こいつら……」


 白状しよう。俺は昔からビリヤードだけは下手くそだったんだ。


 どうやろうにも改善する見込みがなく、こいつら曰く人間はこんなビリヤードは出来ないとのこと。


 玉に当たっているんだが、ほぼ確実に場外に飛んでいく。ひどい時だと前に打ったはずが右側にあったビリヤード台のど真ん中に着地したこともある。


 流石にキューは吹っ飛んでいくことは無かったがそれはそれは大層いじられた。


 何十回とビリヤードを訪れた結果、周りの奴らはそこそこに上手になり、悠理の場合一回狙った玉はほぼほぼ穴に落とすことが出来るほどまで成長した。


 それなのに俺は変わることは無かった。人生で唯一向いていないと確信したものだった。


 だから俺は極力ビリヤードをする方向にならないように誘導していたというのに……


 悠理は俺のことをよく分かっていたからバレてたってことか。


 早く終わらせないとな……


 と思っていると悠理以外が急に笑うのを止めた。

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