第33話 第一試験

――王都シュライグにある、冒険者ギルド。


「ふむ……なるほどなるほど……」


王都についた俺はさっそくギルドに向かい、受付に紹介状を見せた。

で、ギルドマスターの元に通され、その招待状に目を通して貰っている。

という状態だ。


「伯爵家指定の依頼に、強力なヴァンパイア討伐への参加。功績は十分ですね」


ギルドマスターであるヤングは短髪の紫髪に、方眼鏡を付けた、細身の優男風の男性だった。

一見、冒険者という荒事に関わるタイプの人間には見えないが、彼が侮れない相手である事はその所作から伝わって来る。

隙が全く無いのだ。


……外に出てから出会った人間の中で、彼が一番かもな。


それが俺のヤングに対する評価である。

王都でギルドのトップをしているだけはあるって感じだ。


「分かりました。君の金級昇格試験を行ないましょう」


「ありがとうございます」


「試験は三つ。その三つ全てに合格できれば、君は晴れて金級冒険者となる訳だけど……高位冒険者に求められる資質は多いんですよ。ヴァンパイア討伐で大活躍した君の戦闘能力に疑いはないですけど、だけどそれだけじゃ金級は務まりません。幅広い能力を試させて貰う事になりますんで、慢心する事なく挑んでください」


「分かっています」


戦闘の力には自信があった。

スキルや切り札の玉を抜きにしても、自分に勝てる人間はそれ程多くないと自負できる程度には。

なにせ強さを至上とするジョビジョバ家の血を引き、子供の頃から血の滲む様な厳しい訓練を受けてきた身だからな。


だがそれ以外、冒険者として必要とされる知識や判断力なんかは正直……って所である。

なので試験も一発合格とはいかないだろう。

まあ初回は様子見。

何度か受けて感触を掴み、その内合格できればいいだろうって程度で挑ませて貰う。


別に急いで金級に上がる必要もないしな。


「ではまず、最初の試験として個人の強さを見せせて貰いましょうか」


椅子に座っていたヤングが立ち上がる。


「まあ個人的にこれは飛ばしてもよさそうなんですけど……一応しとかないとね。試験な訳だし。訓練場があるので、そこで。まあこれは直ぐに終わるんで、時間、大丈夫ですよね?」


「ええ。大丈夫です」


宿を取ったりする必要もあるので長時間拘束だと困るが、短時間なら全く問題なかった。


「では、付いてきてください」


ヤングさんの後に続き、俺はギルドの訓練場へとついて行く。

結構広い場所で、ちらほら訓練している冒険者達がいたが、全員ヤングさんに気づいて訓練を止め、ワラワラと俺達の周囲に寄ってきた。


「ヤングさんが訓練場に来たって事は、金級試験って事ですかい?」


「随分と若いにーちゃんだな。流石にまだはえーんじゃねぇの?」


俺は冒険者としては、まだかなり若い。

金級に上がるのは、ガンドさんくらいのベテランが普通である。

なので若いと侮られてしまうのも、多少は仕方ない事だ。


因みに、金級でもマリー姉妹なんかは見た目が若かったが、彼女達は長寿のエルフなので人間と同じ尺度では測れない。

下手したら俺の何倍も生きている可能性がある。


「確かに彼は若いですけど、凄腕ですよ。この試験に個人の裁量が許されるなら、第一試験はフリーパスでいいくらいの功績を持ってますから」


「ほー、人は見かけによらねぇもんだ」


「じゃあどの程度か、見せて貰おうか」


ヤングさんはここの冒険者達に信頼されている様だな。

彼が俺を凄腕と言ったら、全員あっさりその言葉に納得したのがいい証拠だ。

信頼しているからこそ、その判断に素直に納得するのである。


「では、相手は私が勤めます。これを――」


ヤングさんが野次馬として寄ってきた冒険者二人の手から素早く木剣を奪い、その片方を俺へと投げてよこした。


「剣をいている様なので、剣で構いませんよね?問題があるようなら、別の物でも構いませんが」


「いえ、大丈夫です」


俺は受け取った木剣を構える。


「それでは始めましょう」


それに対してヤングさんは剣を持った手を垂らしたままの、自然体だった。

構えがない。

もしくは、構える必要がないと判断したのか。

どちらにせよ、自然体である彼に隙は見受けられなかった。


取りあえず、軽く仕掛けるか……


「行きます」


相手の正確な力量が分からないので、軽く突き込む。

まあ全力でやっても、そうそう簡単に怪我をする様な相手ではないとは思うが、一応。


その一撃は、ヤングさんの最小限の動きで簡単に躱されてしまう。


「もっと本気を出して貰って構いませんよ。私も、こう見えて結構やる方ですから」


「分かりました」


次はもっと早く、鋭く踏み込んで木剣を振るう。

それをヤングさんは、ギリギリの間合いで攻撃を躱す。

余裕がなかったというよりかは、完全に見切って躱された感じだ。


「もっと本気で来てください」


「ふっ!」


俺はそのまま連続で剣を振るう。

徐々にテンポを上げつつ。


面白い動きだ……


俺の攻撃を、時には木剣でいなしつつ、まるで流れるような動きでヤングさんは回避していく。

今で8割ほどだが、もし本気でやってもこの人なら余裕で対応してきそうな感じがするな。


「まだ本気じゃありませんね」


ヤングさんが後ろに飛んで俺の攻撃を躱し、ここで初めて木剣を構えた。


「中々本気を出してもらえない様なので、今度はこっちから行かせて貰いますよ」


ヤングさんの手にした木剣がオーラに包まれる。

オーラブレードだ。

どうやら彼も、俺と同じでオーラブレードが使える様だ。


驚きはしない。

この強さならさもありなんって所だ。


ただ――


「オーラブレード使ったら、木剣の意味がないんでは?」


――怪我をさせないための木剣だってのに、破壊力満点のスキルを使ったらその意味がまるでなくなってしまう。


「そちらもオーラブレードを使ってくれればお相子ですよ。使えるのでしょう?」


「ええ、まあ」


お相子とか言う問題ではないのだが、そのまま木剣で攻撃を受けるのは流石に危ないので俺もオーラブレードを発動させる。


「まじか!あいつギルマスと同じオーラブレードまで使えるのか!?」


「とんでもねぇ野郎だな」


オーラブレードを使えるのは極々限られた一部。

一般的に超一流と呼ばれる境地の人間だけだ。

周囲の人間が驚くのも無理はない。


「では……行きますよ!」


ヤングさんが一気に間合いを詰めて来る。


「早い!?」


先程までの緩やかで流れる様な動きとは違う、まるで激流のなその速さ。

それまでとの落差のせいで一瞬戸惑ってしまうが、それで隙を晒すほど俺も間抜けではない。


「はっ!」


「ふん!」


ヤングさんの一撃、そこに合わせて俺も木剣を振るう。

恐らく彼なら引く事も出来ただろうが、ヤングさんはそのまま剣を振りぬいて来た。


ぶつかり合う木剣と木剣。

オーラとオーラ。

『バチバチ』と鈍い音を響かせながら、俺達の木剣が交差する。


力と力の押し合い。


に、なると思ったが、その競り合いは直ぐに解かれてしまう。

ヤングさんが素早く飛びのいた事で。


「試験はここまでです。腕、折れちゃいましたから」


「は?折れた?」


ヤングさんが右手を前に出すと、腕は中程から変な方向に曲がっていた。

どうやら先程のぶつかり合いで骨折してしまった様だ。


パワーはあった。

なのになぜ折れたんだろうか?

謎だ。


「実は私、虚弱体質でして……」


「虚弱体質ですか?」


「ええ。そのせいで骨がスッゴク脆いんです」


「はぁ……」


なるほど。

骨が折れた理由は分かった。

だがそうなると、今度は別の疑問が湧いて来る。


それが分かっていてなんで俺と剣をぶつけ合ったのか?

である。


「あ、先に回復させて貰いますね」


ヤングさんが回復魔法で、自身の骨折を瞬く間に癒してしまう。

かなり高位の魔法だ。

しかも骨折状態で問題なく扱える辺り、彼の魔法使いとしての能力の高さもうかがえる。


「さて……シビックさん。この第一試験、貴方は文句なしの大合格です。なにせ、今まで私の腕を折った人なんていませんからね。皆さんも納得していただけますよね」


「おお、文句のつけようがねぇってもんよ」


「あれに文句を付くようなら、俺達ちゃいつ金級昇格できるんだって話だぜ」


「まったくだ」


「では、第二試験の説明をしますので、先ほどの部屋に戻るとしましょうか」


「あ、はい」


「因みに、虚弱なのに貴方と剣をぶつけ合ったのは……その方がなんかカッコよっそうだと思ったからです。こう……ライバルっぽい感じ、しましたよね?」


直ぐ飛びのいて腕が折れてなければまあ確かにそうだったが、ポッキリ折れてたからなぁ。


「はぁ……まあそうですね」


何とも言えない感じに、俺は曖昧な返事を返すのだった。

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