奴隷商人はいやがる美少女奴隷を手篭めにしたい(でもできない)
国丸一色
奴隷商人スネイル
大陸で最も栄えている大国、リレントレス帝国。その中心でもある帝都の夜はとても騒がしいが、郊外に至ると静かなものだ。
帝都のみならず、広い帝国においても一部で有名な奴隷商人、スネイル・トレイターの邸宅はそんな帝都の外れに位置していた。
それはひとえにスネイルの胸の内に秘められた下衆な野望に都合が良いからである。ここであれば何をしようと、どんな狼藉を働こうと、大声で叫ばれても響かない。
スネイル・トレイター。彼の胸の裡で燻る夢はただひとつ。
「いやがる美少女を手篭めにしたい……」
トレイター邸宅でいちばん大きい寝室で、奴隷商人スネイルはワイングラスを片手にしみじみと呟いた。
グラスにはのたうつようにウェーブした金の髪を持つ糸目の男がバスローブ姿で映っている。ふかふかのひとりがけソファにゆったりと背を預け、風呂上がりのリラックスタイムだ。
「いい夜ですね」
表情こそつとめて平静、冷静沈着だが、スネイルの心臓はドキドキとワクワクで早鐘をうっていた。
昼間、帝都の競りで非常に見目麗しい奴隷を落札したのだ。口減らしのために田舎村から売られてきた、純朴さを絵に描いたような美少女。
彼女を一目見た瞬間、スネイルの全身に稲妻が走った。ビビッと来たのだ。結構な金がかかってしまったが、その価値はあった。はずだ。
「フフ……いやほんといい夜ですね……」
奴隷商人スネイルはご満悦だった。それほどまでに昼間の少女リズベットがお気にだった。
「まだ若く青い極上の美少女を無理やり手篭めにするにはもってこいの夜だぁ……」
奴隷商人スネイルの夢はいやがる美少女を手篭めにすることである。夜伽のよの字も知らないようなリズベットの清純そうな雰囲気を思い返して、スネイルはくつくつと笑った。
スネイルは昼間の少女を奴隷としてこの家に迎え入れたあと、今晩この寝室に来るよう命令を下していた。何を言わんや、そのためにスネイルは彼女に決して安くない金をかけて落札したのだから。
今ごろ先輩の美少女奴隷たちに風呂に入れられて、スネイルが自分で選んで買った好みのデザインの透け透けネグリジェを着せられている頃だろうか。青い蕾が扇情的な衣装に身を包む様を幻視してスネイルのスネイルは徐々にスタンダップである。
「おっといけない。クールになりなさい私。余裕を見せねばね」
少し妄想が暴走し始めつつあった。そんな自分を諌めるべくスネイルはかぶりをふる。
美少女を前に興奮が止められないのは男の悲しきサガではあるが、このままではスネイルの理想とする手篭めシチュエーションとは外れてしまう。
冷静に。かつ冷酷にいやがる美少女を手篭めにする。それが奴隷商人スネイルの理想。あるべき姿だ。
えっちなネグリジェを着ているリズベットを前に興奮してしどろもどろのまま夜伽突入など論外。もってのほかだ。
まあそれでもリズベットは手篭めにされるのをいやがるだろうけれど、せっかくなら男も女も、双方完璧なムーブで夜を迎えたいスネイルだった。29歳独身奴隷商人の譲れぬこだわりである。
「フフフ……髪型は変ではありませんね?」
グラスに反射して映る自分を見やり、手櫛で髪を整えるスネイル。右の髪に波打ちが足りない。こだわりだ。
「このような晩のために鍛えた肉体も上々……」
バスローブの奥に覗く肉体は、一般的な奴隷商人のイメージと反してひどく引き締まっている。美少女に抵抗されたとしても、褥から逃さぬために鍛錬は欠かしていないのだ。こだわっている。
「ベッドも上質な素材をふんだんに使って金をかけている……完璧でしょう」
続いてスネイルは傍らのベッドに視線を向けた。天蓋付き、高級木材を使用した見るからに高級そうな純白のベッドは、帝国でも名うての職人に特注した逸品である。これひとつで一般的な帝都の商人の年収三年分は下らないだろう。いやがる美少女奴隷を手篭めにするための戦場――こだわらないわけにはいかなかった。
己の準備が完璧であることを確認して、スネイルはゆったりとワインを呷った。これ以上ない仕上がりと言っていい。
リズベットを、大枚叩いて買い取った美少女奴隷を手篭めにする準備はもう万端。あとはこの寝室のドアが控えめにノックされたら、めくるめく甘美なドリームタイムのはじまりである。
「フフ……ククク……フハハハハ……」
楽しげに笑い声を溢すスネイルの脳内では、すでにリズベットが裸にひん剥かれていた。せっかく着せたネグリジェもとっとと脱がせて速攻で臨戦の様子。
脳裏に浮かんだリズベット。そのまなじりに溜まった涙の粒の透明さまでしっかり緻密に妄想して、いよいよスネイルのスネイルはスタンダップトゥザビクトリー。
邪な妄想に傾注しつつも、スネイルの五感はこれ以上ないほどに研ぎ澄まされる。ノックの音は当然として、邸内を行き交う使用人たちの足音だって聞き逃さない勢い。そんな折、スネイルの耳はついに寝室へと向かう足音を捉えた。
「来ましたか……リズベット……」
スネイルの頭の中で、リズベットは既に彼との子を成していた。トレイター邸を離れ、帝都から遠く離れた小さな村で我が子と慎ましく暮らす妄想の中のリズベットに別れを告げ、スネイルは寝室の床を這うような勢いで扉のもとへと急ぐ。
扉に耳を当て、リズベットの一挙一動を聞き漏らさぬ構えである。豪奢な板切れ一枚向こうに人がひとり立った気配を感じ、スネイルの期待と興奮はいよいよ最高潮。
やがて「すぅ」と大きく深呼吸した声ののち、寝室のドアをノックする福音が聞こえてきた。
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