銃士達の邂逅 p.9
戦線から離脱したメリッサとジークは、さきほどいた場所から少しばかり遠くに位置する川沿いの林の中に身を潜めていた。
「つっ……」
左腕の痛みは未だ続いているが、メリッサは応急処置のために塗り薬を傷に塗って包帯を巻く。
その様子を見下ろしていたジークはふん、と鼻息を荒くする。
「一人で突っ走った結果負傷か。笑いを取るのに随分手間をかけるじゃねぇか」
「うるさいわね。ターゲット以外の獣が紛れ込んでるのが分かっただけでも収穫でしょう。それにまだ終わってない」
そう言ってメリッサは立ち上がり、ジークを放ってさきほどの獣がいた方角へ歩き出す。
「テメェ懲りずにまた行く気か?」
「さっきは予定外の敵と遭遇したから遅れを取っただけ。貴方は他と合流して待ってなさい」
どうせ怒鳴り散らすのだろうと思ったが、ジークが黙して首を横に振り、思わず何事かと足が止まる。
「何よ?」
「……分からねぇな」
「は?」
「分からねぇ、て言ってんだ。テメェは単独行動ばかり目立つが、作戦記録の会話内容では仲間へ後方にすっこんでろと必ず提案してやがる」
予想外の返答からジークの意図が読めず、メリッサは困惑する。
「何が言いたいの?」
「テメェのクールぶった演技が前々から気に入らない、て言ってんだよ」
「……」
「こちとらリーエンの奴をそこそこ見てきた。あいつは冷めた態度で任務のために身内を切り売り出来る本物の冷徹野郎だ。ただ、テメェは違う。意図的に他人を前線から遠ざけようとしてやがる」
まるでメリッサの外見ではなく、内面を見透かすようにジークはただでさえ強面である顔をよりすごめる。
「怖ぇのか、お前以外の奴が目の前で死ぬのが」
瞬間、メリッサの脳裏に映像がフラッシュバックする。
炎の中、亡骸となった両親を前に泣き叫ぶ誰か、そしてその隣に立つ赤い髪の男が大声で笑う。
頭の中で遠い記憶が蘇り、思わず歯がみする。
「テメェに抱いてた違和感が分かった。何てこともない事で拍子抜けしたがな」
何の配慮もないその言動に、メリッサはじろりとジークを睨む。
「私は貴方に会った時から、その粗暴な態度とズケズケと人の詮索をする所が嫌いよ」
「知るか。つべこべ言わずにリーエン達の元に戻るぞ」
「……分かってるんでしょ。私は他人が死ぬのなんて見たくない」
食い下がるメリッサに、ジークは腕を組んだまま見下ろす。
「余計な世話だ。俺様含め、ここにいる奴ら全員強ぇんだよ」
お前が戻るまでどこまでもついていく、という無言の圧をジークから感じ、メリッサは根負けせざるを得ないと感じた。
アメーバ型の獣が放った攻撃に串刺しにされたシャムはピクリとも動かない。
リーエンは獣と距離を置きつつ、敵の次の行動に警戒していた。
すると、アメーバ型はシャムを貫いたままの触手を振り、シャムの身体を宙へ放る。
リーエンの視線が一瞬だけ投げ出されたシャムへ向いた瞬間、獣が動いた。
触手を地面に刺し、それを地面深くまで伸ばすと、大地をひっくり返すように地面ごとめくり上げてリーエンと獣の間に大きな壁を作る。
獣の姿を壁で塞がれたリーエンはすぐに横へと飛ぶ。
瞬間、壁を貫いて無数の触手の槍が襲いかかる。
「頭は回るらしいな」
ぼそりとリーエンは呟く。
壁を作って姿を隠すだけでなく、銃弾を阻む盾を作りつつ敵の攻撃は貫通してくる。
一介のスリンガーであれば苦戦する手合いだが、リーエンに焦りはなかった。
息を短く吐き、空いた手で右目を覆い、そこに渦を集中させる。
「私の眼から逃れると思うな」
手を退け、右目を開けると、緑色だった瞳は血の赤に染まり、中心には邪術発動を知らせる五芒星が浮かび上がる。
リーエンの視界が邪術によって拡張し、岩を透かして獣の姿を捉える。
それに気づいたのか、獣は身を震わせ、攻撃の手が一瞬だが止まる。
敵を捉えたところでリーエンに攻撃手段があるわけではない。
だが、敵の目線がどこに向いているかさえ分かっただけで十分だった。
「今だシャム!」
叫ぶリーエンの意図が分からず獣が攻撃を再開しようとしたその時、獣を覆う液体を貫通し、
獣の背後で倒れていたはずのシャムが再び立ち上がり、無理矢理その頭を蹴り上げたのだ。
液体に包まれた
「痛ったああああい!」
地面の壁の向こうでシャムが泣き叫ぶ声が上がり、リーエンは彼女の無事を確認する。
そびえ立つ壁を超えて打ち上げられた獣に、リーエンは再び右目の視点を合わせ、体内の渦を回す。
「
呪文を口ずさみ、邪術が効力を発揮。
天へと打ち上げられたアメーバ型の
アメーバ型はそれに捕らわれたまま、地面へと落下した。
獣は脱出を試み、口から液体を吐き出し、邪術の壁を攻撃するが、邪術の壁はアメーバ型の攻撃を易々とはじき返す。
檻の中で抵抗を続けるアメーバ型へ、リーエンは歩み寄る。
「それはただの檻じゃない。次元を切り分ける異界の壁と似ている。崩壊させるのに時間はかかるだろう」
邪術の壁を必死に崩そうと攻撃を続ける獣を眺め、リーエンはこの獣の特殊性を考慮しどう討伐するべきかを思案していると、遠くから走り寄ってくる足音がした。
「ふえぇぇ! リーエンすっごく痛かったよおおお!」
シャムがリーエンに身体ごとぶつかって抱きついてきた。
思わず地面に倒れそうになるが、どうにか耐える。
「落ち着けシャム」
「だって痛かったんだもん! 体穴だらけになるし足溶かされるし!」
わんわんと叫ぶシャムだが、リーエンはさほど彼女の身を案じてはいなかった。
実際シャムに空いた穴は全て塞がっており、溶かされたはずの足も何事もなく戻っている。
問題といえば服は穴が空いたまま、溶かされた靴も無くなって裸足になっていることか。
「今はこいつの解析に集中したいんだが」
「うぅ、でもぉ、でもすごく痛かったのー!」
泣きわめくシャムにやれやれとリーエンは彼女の頭を撫でる。
どうしたものかと思っていると、少し遠くの林から人影が二人近づいてくるのが見えた。
「……遅い」
戻ってきたメリッサとジークにリーエンは一言だけ投げかけた。
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