重大国家機密

N『これは次の日に健康診断が待ち構えている防衛大臣の話である』


記者「大臣!明日の健康診断では採血を拒否するというお話ですが、本当ですか!」

秘書「記者会見は既に終わっておりますので」

記者「大臣!お答えください!」

大臣「すみません、失礼致します」

記者「大臣!国民の疑問にお答えしないおつもりですか!」

秘書「大臣、こちらにどうぞ」

大臣「あぁありがとう」

記者「まさか注射が怖いのでしょうか!」

大臣「そんなわけないと言っているでしょう、失礼」

記者「注射ごときで怯えているような大臣に果たして国を守ることができますか!」

大臣「だから怖くないと言っているでしょう!」

記者「ではなぜ!大臣!お答えを!」


N『秘書がドアを閉め、喧騒が遠のく。大臣は部屋に入るなり溜息をついた』


大臣「全く、近頃の記者というのは怖いねぇ。あれやこれや調べてくる。プライベートも何もあったもんじゃない」

秘書「本当ですよ、大臣が注射ごときに怯えるはずないじゃないですかねぇ!」

大臣「ははは……ところで次の予定は」

秘書「今日はこの後、総理との会食が控えております。ところで大臣、なぜ採血を拒否なされているのですか?」

大臣「それは……あれだ、やはり最近はすぐ情報セキュリティ問題が起こるだろう、特に俺の遺伝子情報をうっかり漏らされては何か問題に起こりかねない」

秘書「なるほど」


N『時間は少し経ち、総理との会食』


総理「いいかい、コワモテの君が注射が苦手で泣いて震えるだなんてバレたら国民になんて笑われるかたまったもんじゃない。絶対に隠せ、これは国家機密だ。全てを明らかにすべきだという最近の風潮も分かるがね、政治には隠蔽すべきことというものが必ずあるんだ」

大臣「勿論です。絶対に隠し通しますのでどうかご安心を」


N『総理と防衛大臣が揃って割烹屋を出ると、再び記者が待ち構えていた』


記者「総理!総理も注射が怖いとは本当ですか!」

総理「あはは、あぁ、注射は怖いがどんな出来事にも痛みが伴うのが常だ。国民の代表としてもあの痛みに立ち向かおうと思うよ」

記者「では防衛大臣が採血を拒まれていることにつきましてはどうお考えですか!」

総理「なに、防衛大臣には防衛大臣なりのお考えがあるのだろう」

記者「ではそれを国民に説明するのが政治家の義務ではないでしょうか!」

総理「そもそもそのことについては先ほどの記者会見で大臣がお答えしていたはずだが」

大臣「私は注射が怖くないと説明したはずだ」

記者「それは理由にならないと思いますが」

総理「すまないが私も多忙でね、この後公務が残っていて。では、失礼する」

大臣「同じく、失礼」


N『なんとか記者の追及から逃れた防衛大臣。しかし、健闘空しく、国会では防衛大臣が採血を受けるべきであるという議題に対し、賛成多数により可決され、防衛大臣は健康診断での採血から逃れられなくなってしまった』


大臣「……注射怖い……」

秘書「大臣?何かおっしゃりましたか?」

大臣「いや」


N『これは次の日に注射が待ち構えている大臣の話である』


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