無地 (※えっち注意) (※lily可能性注意)

春嵐

第1話

 彼女は、無地の服を着ていた。

 どこもかしこも制服だらけの、まるで軍隊みたいな教室のなかで。彼女だけが私服。そして、無地。真っ白。

 最初は変な目で見られていたけど、数日で誰も気にしなくなった。先生もなにも言わない。制服が呉服屋の都合でまだ届かないとか、そんな感じなんだろうか。

 そもそも、皆がみんな携帯端末とか双方向通信サービスとかでがんばって電子空間で見栄を張るのにいそがしくて、みんな隣のひとの顔すら見ていない。

 彼女を見ていた。無地の制服。気になっていた。誰も気にしなくなっても、自分だけは、彼女が気になった。

 自分が普通だから、かもしれない。普通に生きてきて、全てが普通な自分だから。彼女が普通ではない、ということが、なんとなく、わかる。

 彼女のほうを見ていると、彼女は自分の視線に気付く。

 そして、にこっと笑う。満面の笑顔。

 その笑顔さえ、誰も見ていない。みんな携帯端末とか見てる。

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