エピローグ

「おーい、生きてますか、おーい」


 アキハルが目を覚ますと、優しい光をかざす少女の姿があった。


 見渡せば一面、無造作に死体の転がる天守閣――起き上がろうとした躰の節々に、痛みが走る。


 痛みを感じるということは、まだ生きているということだ。


迷える子羊ロスト・ユー……お前が、助けてくれたのか」


「ええ。異能奥義ラストエヴォルヴ名前のないうたメモリーズ。最後までこの異能チカラには助けられっぱなしでした」


 少女は静かに笑って「これから私、どうすればいいんでしょう」と言った。


「ずっと五芒星唱会ポエム・ペンタゴン異能開花エヴォルヴァ―をこの世から消すために生きてきました。でも、それも無くなっちゃった」


「……」


 アキハルは無言で、少女の言葉を見守る。


「ねぇ、一つだけ教えてください。さっき言いましたよね。私が生きてきた日々は、決して無かったことにはならないノット・フィクション・トゥルー・デイズ――だけど生きる理由が無くなって、これから続く日々になんの意味が無くなったとしても――それでも、生きていくことに意味はあるんでしょうか?」


 その表情には期待と、不安が入り混じっていた。

 アキハルは少し間をおいてから、口を開く。


その答えトゥルー・アンサーを見つけるために、人は全力で生きるのサライブ・ア・ライフ日々の歌デイズ・ソングを歌いながらな」


「ズルい答えですね」


「大人ってのはズルいもんサ」


「知ってます」


「いいや知らない。まだまだお前は、色んなことを知っていくのサ。これから長い時間をかけて、少しずつ――」


 アキハルは、超ド級最終弦楽鈍器ドヴォルザークを握り、少女に向けた。


「まずは音楽コイツから教えてやるよ、楽団衆マイ・バディ


「……まぁどうせ、他にやることもありませんからね」


 少女は優しく笑って、アキハルの手を取った。


母に捧げる歌レクイエムを一つくらい、覚えておくのもいいでしょう」


 少女はまだ知らない。

 たとえ物語が終わろうとも、日々が続いてゆくことを。

 異能がなくても、才能がなくても、翼がなくても、それでも日々が続いてゆくことを。


 そうして迷いながら歩き続けた先に、木漏れ日のような優しい、名前のないうたがあると知った時。


 ――その歌はいつか、本当の歌トゥルー・ソングになって届くだろうギフテッド


 アキハルはそんな未来を思い浮かべながら、十二㎎の幸運ルーシー・ストライクを二本で吸った。


「やれやれ――


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