義妹が俺と付き合うためにありとあらゆる手段をとってくるんだが
天江龍(旧ペンネーム明石龍之介)
プロローグ 青天の霹靂
「お兄ちゃん、大好き」
お兄ちゃんねえ、とアニメのとあるワンシーンを見ながらぽそり。
俺は一人っ子。だから兄弟には昔から憧れていた。
さらに言えばできれば妹がほしかったとずっと思っていたのだけど、まあ叶わぬ夢としてこうしてアニメやドラマを見てイフな世界を想像している日々だったのだが。
そんな俺に妹ができるそうだ。
とは言っても義理の、だけど。
カタブツの父親が再婚するなんて言い出した時は目が飛び出そうになったものだ。
母親との離婚理由は知らないけど、小さい頃から仕事一筋で一心不乱に働いて男手一つで俺を育ててくれていた父がいつどこで誰とどうやって恋愛していたのか、ほんと不思議。
でも、驚いたのはそれだけじゃなくてなんと相手の連れ子が俺の一つ下の女の子だと聞かされたこと。
一つ屋根の下で暮らす、義妹とやらが明日から家にやってくるというのだから心中穏やかではない。
もちろん期待はある。大いにある。
可愛い義妹とのやりとり、お兄ちゃんと呼ばれる日がくるかもしれないという高揚感、それに義理の兄妹での禁断の恋愛……これはまあないとして。
妄想すればキリはないが、まあ明日には答えがでる。
というわけでこのまま寝るとしよう。
◇
「おうハルト、いよいよだな」
「ああ、なんか今から緊張がやばいよ」
俺は
中学からの親友、
最も、半分くらいはこいつからの冷やかしなんだが。
「なあ、なんて呼ばせるんだ?おにーたん!とか言わせんのかよ」
「バカ言うな。相手も高校生だしそんなことお願いしたらドン引きされるだろ」
「でも呼んでほしい願望はあるんだな」
「……うるさい」
透は中学までサッカー部、高校では陸上部に入っていてとても足が速い。
だいたい学生なんて足が速いか勉強ができるかでモテるものだが、こいつは男前だし頭もいいし物分かりもいいし、いつも付き合ってる女子がいる。
そんな親友とは対照的に、俺は彼女いない歴=年齢だ。
ただ、別にブ男というほどでもないと思うし実際去年とかもいい感じの女の子はいたりした。
本当に初めて彼女ができるんじゃないかというところまでいったつもりだったが、ある日突然連絡がとれなくなり、学校も違うことからそれっきり。
女子って怖いなあと思わされたのは今となればいい思い出だけど当時は相当凹んでいたものだ。
そんな俺の話も親身になって聞いてくれる、心の拠り所である透にはなんでも話す。
もちろん新しい家族のことも真っ先にこいつに相談していたわけだが。
「なあ、俺も新しい妹ちゃん見に行っていいか?」
「いいけど今日はダメだ。親父が今日は四人で寿司を食べるとか言ってたし」
「しっかしあの親父さんがねえ。人生わからんもんだ」
「全くだ」
友人ですらそう話すほどに親父には女っ気など微塵もないしモテそうでもない。
再婚できた理由を強いて言えば、うちはカフェ経営をしているということくらいだろう。
なんでカフェ経営で結婚?といいたくなるかもしれないが、親父の経営する店『Cafe HAYAMA』はこの辺ではちょっと有名なおしゃれスポットなわけで、そこの経営者となればまあステータス的に女子にモテそうだ、なんて安易な発想という他はない。
つまりそれくらいうちの親父が再婚なんて信じられないのだ。
どうせカフェの常連の誰かが制服姿のあの父親に騙されてコロッといってしまったというオチなのだろうと、そう考えてこの疑問は解消することにしている。
いつもと変わりない学校での日常も、放課後に一大イベントが待っているとなるとまるで倍速のように時間が早く経つ。
あっという間に放課後。
今日も真っすぐ家に向かうことだけはいつもと変わらない。
「ただいま」
「おかえりハルト、ちょっと着替えて手伝ってくれ」
「はあ、バイト雇えよほんと」
「いいから、食器が全然洗えてないんだ」
俺の親父こと
テーブル席が八つほど。あとカウンターも少々といった作りでモダンな雰囲気がいかにも映えそうなこの店だけど、一人で回すには少々広い。
そのくせになんの拘りかアルバイトは雇わない。
昔従業員と揉めたことがあったとかなんとかの話を聞いたことがあるような気もするが、どんなに忙しくても頑なにバイトを入れず一人で店を回しているのだ。
ただ俺は例外。こうして放課後や土日は家にいるといつも手伝いをさせられる。
しかも手伝いだから小遣いこそくれるが割には合わない額だ。
「うわっ、洗いもんめっちゃ溜まってるじゃんか」
「今日はいつにも増して忙しくてな。それに早く片付けないと彼女たちが来てしまう。ハルト、全速力で頼むぞ」
「こんな日くらい店早く閉めたらいいのに」
聞けば新しい奥さんとやらは娘の高校転校の手続きを夕方に終えてからうちにやってくるそうだ。
タイムリミットはそんなにないので、二人がかりで大慌てで店じまいをした。
「ふう。親父、紅茶入れてよ」
「ああ、おつかれハルト。ちょっと待ってろ」
俺はコーヒーの味はさっぱりだけど、父の淹れる紅茶は好きだ。
正直アールグレイとかダージリンとか有名なのを名前くらい知ってるという低知識なのだけど、とにかく彼が注ぐとなぜかうまいのだから不思議だ。
「父さんは着替えてくるから、ハルトは二人が来たら奥まで案内してやってくれ」
「え、気まずいって」
「大丈夫、二人とも良い人だ。ハルトもきっと仲良くやれるはずだ」
親父は紅茶を注いだ後すぐに奥に引っ込んでしまった。
やれやれと、店の椅子に腰かけて紅茶を啜っていると閉店の札を下げた玄関ががらんと開く。
「あの、葉山さんはいらっしゃいますか?」
「は、はい葉山は……あ、浩市ですかね?」
綺麗な女性だ。モデルのようなスタイルのよさに長い黒髪の美人。
もしかしてこの人が……
「あ、もしかしてハルト君?」
「え、そうですけど」
「そっか。私、あなたのお父さんとお付き合いさせてもらってます
丁寧に頭を下げるこの美人が父の再婚相手だと聞いて、やっぱり俺はこの話が本当なのかと信じられなくなった。
子供連れとはいえ、こんなきれいな人が親父と?
「ああ、優ちゃん。あがってあがって」
奥から着替えてきた親父は、見たことないスーツ姿で登場。
さらに見たことないほどに表情が緩んでいる。わが親父ながら気持ち悪いほどにニヤニヤしている。
「あ、浩市さん。ちょうど今ハルト君にご挨拶してたの」
「ちょうどよかった、紹介の手間が省けて。ハルト、この人が新しいお母さんだ」
「は、はあ」
俺には幼い頃から母親がいないので、こんなにあっさり「お母さんだよ」といわれても何もピンとこない。
別に嫌とも思わないが、心の準備をしていたつもりでもいざ本人を目の前にすると心の整理が追い付かない。
「あれ、渚ちゃんは?」
「ちょっとそこのコンビニ寄ってくるそうなの」
「そっか。ハルト、渚ちゃんがくるからそこで待っててくれ。さあ優ちゃん、部屋を案内するよ」
「おい親父、渚って」
すっかりのぼせてしまっている親父に俺の声など届かなかった。
さっさと二人で家の中に向かってしまい、俺はそれをみて呆れながらもう一度椅子に座る。
……でも、あの親父があんなに嬉しそうなのを見るのは初めてだ。
きっと良い人なのだろう。俺も子供みたいにあれこれ言わず、親父の幸せのために新しい家族と仲良くしなきゃ、だな。
紅茶を飲み干して食器を洗いに行こうとすると、またガランと店の扉が開く。
「あの、葉山さんのお宅でしょうか?」
「え、君は……」
そこに立っていたのは俺と同い年くらいの女の子。
ふわっとパーマのかかったショートボブに、大きな目の随分可愛い女の子だ。
いや、めちゃくちゃ可愛い。もう見蕩れてしまっているほどにこの子は可愛い。
「あの、私、ここで今日からお世話になる木南渚です」
「え、じゃあ君が……」
「はい。ハルトさん、ですよね?」
「え、まあそうだけど」
「よろしくお願いします。私、今日からお世話になります」
この子が俺の妹になる、だと?
そんな夢みたいな話があっていいのかと、俺は自分の頬をつねった後何度も首をぶんぶんと振ってからもう一度彼女を見た。
しかし夢じゃない。これは現実だ。
やってきた義妹はとてつもない美少女。
ただこれだけの事実に俺は酷く興奮していたのだが、ここからが試練の始まりだということをまだ、この時の俺はもちろん知る由もなかった。
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