第1話Twitter怪談『牡丹灯籠』

これは、私がTwitterを始めてまだ間もない頃の話だ……。


もともと創作関係が好きだった私はTwitterを使って何か始められないかと考えていた。


そこでたまたま出会ったのが『呟怖』というものだった。


呟怖とは、ツイッター上で『#呟怖』というハッシュタグを付ければ誰でも投稿できる136文字以内の創作・実話の怖い話の事だ。


昔から怪談好きだった私は、日頃の忙しさもあり、この手頃に創作関係に携わる事ができる呟怖に夢中になっていた。


一つ一つ作品を仕上げ、tweetする事に知り合いも増えていった。

そんなある日の事だ。


夕飯を済ませシャワーを浴び、就寝する前に日課となっていた呟怖を、いつもの様にtweetし、何か面白い呟怖は無いかと探していた時だった。


怪談作師@コオリノ@txF9xDLPCDsARyK 1分


#呟怖

これを書いた者が本当に人間とは限らない。

もしかしたらこの世ならざる者が書いているかもしれないからだ。

それを確かめる術などないのだから。

けれど……。

読んでいる者もまた、本当に人間かどうかなど、私にも分からない。

確かめる術は……ない。


何となく目に止まった呟怖。

なるほど、こういうのもまたあじがあっていいと思う。


少し小難しくはあるものの、素直に面白いなと思った。


名前は……怪談作師@コオリノ。


見かけない名前だった。

とりあえずいいねのハートマークをタップし、リツイートも押す。


コメントのリプライをするかどうか迷い、スマホの画面に顔を近づけまじまじといいねのハートマークを見つめる。


──面白い呟怖でした。因みに私は人間ですよ?安心してください。

そう書いてリプライを送ると、通知マークのアイコンに1の数字がついた。

何だろうと思いアイコンをタップすると、


あっ……さっきの人。


怪談作師@コオリノという人からのリプライの返事だった。


──ありがとうございました。貴女にはこれが読めたのですね、嬉しいです。


貴女には読めた?何か引っかかっる言い方だが、反面、ちょっと面白い人だなと思った私は、コオリノさんに直ぐに返事を書いた。


──もしかしてコオリノさんは人間ではないとか……?


送信。


直ぐにコオリノさんから返事が返ってきた。


──確かめる術はありませんからね。


こんな時間に軽い冗談のやり取りができるのも、Twitterの良いとこだなと、私は思った。


──私はお互い人間同士だと信じてますよw


送信。


ちょっと、変な人かも。


そう思いつつも私はこのコオリノさんという人が嫌いではなかった。

アイコンにある絵も着物姿のイラストで和を感じさせる出で立ち、何処か清々しくも妖しい。


何となくだが、また一つTwitterを始めて良かったなと感じた私は、心地好い気分のまま、その日はスマホを閉じ深い眠りについた。



スイカ羊@suika_sheep 5分

返信先:@Cm4I4


──コオリノさん?聞いた事ないですね~

毎日沢山の呟怖を読ませてもらってますけど、多分まだ一度もお目に掛かった事ないです。

因みに検索も掛けてみましたがヒットしませんでした。

もしかしてお化けとか?

(ノ∀`)アチャー


スイカ羊さん。

私がTwitterで呟怖を始めて知り合った相互フォローしている人だ。

毎日欠かさず呟怖をあげていて、気さくで親しみやすい印象から皆から慕われている。

私もその一人だ。


実は昨日知り合ったコオリノさんを改めてフォローしようと思い、仕事の休憩中にスマホを開いて見たのだが、どう検索してもコオリノさんが見つからない。

通知のラインにも何も残っておらず、いいねとRTもしたはずなのにそれも見つからない。


消されてしまったのか?


不思議に思った私はそれを昼間のうちにスイカ羊さんと、もう一人のフォロワーさんに相談しておいたのだが……。


月浦影ノ助@6VPfGQm1oGSP0es 3分

返信先:@Cm4I4


──コオリノさんという方は、申し訳ありませんが存じ上げませんね。

アカウントを削除されたとか、もしくはtweetを削除されているのかもしれませんね。

それにしても、何か不可解な気もしますね。

不謹慎ながら霊的なものだったりとか……。


結果!二人が出してくれた答えは……。


幽霊?

いやいやいや、そんな事あるわけない。


帰りの電車の中で一人苦笑いを零し、私はふと流れ行く外の景色に目をやった。


夕空が禍々しい程の赤みを帯び、雲の群れを焦がしてゆく。

街全体が黄昏に呑み込まれる中、微かな不安を胸に、私はスマホを鞄に閉まった。



軽い食事とシャワーを済ませ化粧台に座った私は、台に置いてあったスマホに通知が来ているのに気が付いた。


怪談作師@コオリノ(Twitterより)


Twitterのダイレクトメールの知らせだった。


コオリノさんから……。


一瞬ドキリとしながらも、私は持っていた化粧水を一旦置いてからスマホをまじまじと見つめた。


急いで画面をタップしてメールを開く。


──こんばんは。

私の事覚えてますか?


金曜日:9:25分 午後


私の事?

昨日今日で忘れるわけが無い。

勿論覚えているため、


──勿論覚えてますよ!昨日の呟怖凄く気に入ってたので。

そういえばコオリノさんをフォローしたかったので、あれからずっと探してたんですけど、コオリノさんの名前が検索に出なくて困ってたんですよ。

アカウント消したのかな~とか、昨日の呟怖削除しちゃったのかなって思って、ちょっと心配しちゃいました。


と、返信を返した。


すると二三分して、またもやスマホに通知が届いた。


──ありがとう。

もう大丈夫。呟怖も見れるはずですよ?


コオリノさんの返信にはそう書いてあった。


見れるはず?


その言葉が気になり自分のtweet画面を開いた。

するとそこには、私が昨夜いいねとRTをしたコオリノさんの呟怖が載っていた。


あった……。


あれだけ探したのになぜ?

バグ?


コオリノさんのホーム画面に飛んでも、普通に表示された。

特に何か呟いているわけでもなく、あるのは昨夜の呟怖だけ。


Twitterも始めて間もないのだろうか、取り敢えずフォローをして、私は再度コオリノさんにダイレクトメールを送った。


──ありました!不具合かもですね~。

ありがとうございます、フォローさせて頂きました。


すると直ぐに返事が返ってきた。


──此方こそ、あなたのおかげでここまで……私もフォローさせて頂きますね。


おかげでここまで……?


何だろう、何か意味ありげな気もするが、こういう言い回し普段からする人なのかなと思い、それ以上は何も聞かない事にした。


やり取りも一旦落ち着いたため、私は途中だった化粧水を再度手に取り、鏡に顔を向けた。


その一瞬だった。


「えっ……」


鏡に映る自分の背後に、紫陽花柄の着物の様なものがチラリと見えた気がした。


思わず化粧水を床に落とし慌てて拾い上げると、直ぐに鏡に目をやるが……。


見間違い……?


──ヒュウ


が、突今度は然、部屋のカーテンがフワリと揺れ動き、生暖かい風が吹いた。


びくりとしながらもカーテンに近付くと、、窓が半開きになっていた。


クーラーも付けてるし窓なんか朝起きた時くらいしか開けていないはずだが……。


気味悪さを感じつつ、私はスキンケアを早々と終わらせ、その日は早くに就寝に就いた。



次の日も、私は休憩中にスマホを開いていた。

昨夜のコオリノさんの件をスイカ羊さんと月浦さんに報告するためだ。


スイカ羊@suika_sheep

返信先:@Cm4I4


なんと!

∑(๑º口º๑)!!

では存在してたんですね~後で覗きに行ってみよっと。

(*´▽`)ノ


月浦影ノ助@6VPfGQm1oGSP0es

返信先:@Cm4I4


ですよね笑

まあでも猫さん的には朗報で何よりです。

自分としてはもう少し怪異の路線であってほしくもあり……何て言ったら失礼ですかね笑




二人とも他人事だと思って……。


軽くため息をつきつつ、取り敢えず報告も終わり私はスマホを閉じ……。


何となく気になりもう一度Twitterを開いた。


フォローとフォロワーにコオリノさんの名前は……あった。


だよね。


何変な心配をしているのだろう、そう思い、そんな自分を少し滑稽に思いつつ、私は休憩を終え仕事に戻った。



仕事を終えいつもの様にコンビニに寄ると、週末というのもあって大好きなおつまみと酎ハイを買って家路へと着いた。


「ただいま」


玄関の扉を開け思わず独り言。


誰もいない部屋に私の声が虚しく響く。


一週間頑張って働いて帰って来たのだからこれくらいは許して欲しい、そう思いつつ、靴を脱ぎ家に上がった瞬間。


「おかえりなさい」


「えっ?」


確かに聞こえた女の声。


おかえりなさい、と……。


思わず家の中を見渡すが勿論誰もいない。

いや、いるはずがない。

テレビでも付けっぱなしにしていたかと気になり確かめたが、テレビは消えたままだ。


近所の人の声でも紛れてのだろうか。

なんとも言えない気分に陥りながら部屋に戻ると、スマホに通知がきた。

画面をふと見ると、


怪談作師@コオリノ(Twitterより)


コオリノさんからのダイレクトメールだった。


気になって開くと、


──聞こえませんでしたか?

お帰りなさい。


土曜日:7:25分 午後


えっ……何このメール。聞こえませんでしたかって……。


思わず私はその場で仰け反るようにしてスマホを床に落とした。


瞬間、またもやスマホが小さく揺れた。


通知だ。


恐る恐るスマホを拾い上げ手に取ると、メールには、


怪談作師@コオリノ(Twitterより)


思わず息を飲む。

直ぐに吐いた息が荒く息苦しい。


微かに震える指でメールを開くと、


──今日も、其方にお邪魔しても宜しいですか?


「嘘っ!?」


思わずそう叫び、私は衝動的にスマホをベッドに投げ捨てていた。


今日も!?じゃあ……昨日の鏡や窓の件は……?


肌が泡立つような感触。

全身を足元から氷でなぞられるかの様な気がして、私はその場に居てもたってもいられず、急いで部屋中の戸締りをし明かりを点けて回った。


自分の身に一体何が起きているのか?

それを頭の中で必死に整理するだけで精一杯だった。


どういう事?だってコオリノさんは……。


思わずベットに投げ捨てたスマホを拾い上げ勇気を振り絞ってTwitterを立ち上げた。


通知ラインに月浦さんから私宛にtweetが来ていた。


月浦影ノ助@6VPfGQm1oGSP0es:5分

返信先:@Cm4I4


──コオリノさん、さっきフォローできましたよ。

中々に面白い方ですね。


すると更に、


スイカ羊@suika_sheep:6分

返信先:@6VPfGQm1oGSP0es

返信先:@Cm4I4


──私もさっきフォローさせてもらいましたよ~

確かに面白い人でした。

(〃゚艸゚)



訳が分からなかった。


あれだけそんな人いないと否定されていたものが、今度は周りが周知の事実のように語り出すこの現状に。


もう一度コオリノさんのホームに飛んでみると、昨夜まで一人だったはずのフォローとフォロワーの数がかなり増えていた。


呟怖もいくつか上がっており、他の方とのリプライもあった。


じゃあさっきのは……?


思わず月浦さんにダイレクトメールを打つ。


──月浦さんにお話があります。冗談に聞こえるかもしれませんが……。


長文になる覚悟で、私は昨夜から起こり始めた怪異とコオリノさんについて月浦さんにメールを送信した。


返信を待つ間が怖くてテレビをつけるが、内容は全く耳に入ってこない。

そうしているうちに、


スマホに通知の知らせが届いた。


月浦影ノ助(Twitterより)



──拝見致しました。

どうやら急を有する事態の様ですね。

取り敢えず私自信に祓うと言うような力はありませんが、自分が知るうる知識の範囲で力になれたらと思います。

まず信じ難い話ではありますが、猫さんがそれ以上に嘘をつくような方ではないと、自分は承知しているつもりです。

では一旦全てが事実として仮定して話しましょう。

まずやるべき事は一つ。

コオリノさんとの連絡を一切取らないことです。

失礼ですが、猫さんは牡丹灯籠というお話をご存知ですか?


土曜日:8:00分 午後


牡丹灯籠……確か江戸時代末期に伝わった怪談だったと記憶している。

落語や歌舞伎、現代に至っては映像化もされ広く伝わっている話だ。


あらすじは、とあるところで新三郎という若者とお露というお嬢様、そしてお露の女中であるお米さんという三人が出会う。

新三郎とお露は瞬く間に恋仲となり、お露は去り際の新三郎にこう言い残す。


「また来て下さらなければ、私は死んでしまいますよ」


と……。


家路へと戻った新三郎は、来る日も来る日もお露に会いたいと思っていたが、内気な性格が災いして中々一人で会いに行く決心ができず会えずじまいでいた。


そんなある日、新三郎の元に山本志丈という者が訪ねに来て、お露が恋焦がれる余りに自ら命を絶った事、その後を追うようにして女中のお米も亡くなったと聞かされる。


それからというもの、新三郎は毎日亡くなった二人の為に念仏を唱えるのだが、ある晩の事、新三郎の元に牡丹芍薬(しゃくやく)の灯篭を携えたお米とお露が現れる。

再会を喜ぶ二人。


新三郎はそれから毎晩自分の家を訪れるお米とお露を家の中へ招き入れ、お露と何度も逢瀬を重ねる。


しかし、それはあくまで新三郎の見る世界で、新三郎の家来である男が、二人の逢瀬を盗み見した時、驚愕の真実が明るみに出る。


新三郎には見目麗しい娘であるお露だが、家来の目に映ったのは、体は骨や皮ばかりで腰から下がない女が、新三郎の首元に喰らいつくというこの世のものとは思えない恐ろしい光景だった。


家来はそれを直ぐに得の高い和尚に相談した。

すると和尚は新三郎に真実を告げ、魔除の御札と如来蔵を持って新三郎を守護する事にした。


その夜、お露とお米が新三郎の家を訪ねるが、御札と如来蔵のせいで家の中に入れなかった。

すると二人は、新三郎の家来の家を訪ね、御札と如来蔵をどうにかする様に言い出した。


最初は恐怖で嫌がっていた家来だったが、お露に大金を積まれ心が揺れ動き、遂には御札と如来蔵を排除してしまう。


次の日の晩、意気揚々と新三郎の家の中に入っていくお露とお米を目撃する家来は、その日の朝、主人を裏切った後悔から慌てて新三郎の家を訪れる。


すると、家の中では凄まじい形相で虚空を鷲掴みにする新三郎が息絶えていた。

そしてその首元には、恐ろしい髑髏が齧り付いていたのだった。


確かこんな感じの話だ。

怪談好きが高じて昔見た映画の内容。


直ぐにそれなら知っていますと月浦さんに伝えると、


──それなら話は早いですね。

何となくですが朧気な輪郭として今回の一件、この牡丹灯籠に少し似ている様な気がしませんか?

毎夜訪れる彼女に気を許し家に招き入れてしまった猫さんというような。



なるほど、さしずめ私が新三郎でコオリノさんがお露といったところで、仲介役のお米はTwitterといった感じだろうか。



ふとスマホの画面を見ると、月浦さんの話には続きがあった。



──それともう一つ分かった事があります。

今回の一件、猫さんがコオリノさんを認識する様になってから、事が起き始めたと思いませんか?




確かに、月浦さんの言う通り、私がコオリノさんの呟怖を見て彼女を認識してから、頻繁に連絡が来るようになった。


コオリノさんの呟怖、


──この呟怖を書いた者が本当に人間とは限らない。


それに対し反応を返した私に対しコオリノさんは……。


──ありがとうございました。貴女にはこれが読めたのですね、嬉しいです。


そう返ってきた。




──確かに、思い返すとそうとしか思えません。


私はそう打ち込み直ぐに月浦さんにメールを送った。


すると暫くして、




──つまりこれを利用して、コオリノさんへの認識を限りなく無くしていけば、彼女の存在は消えるかもしれません。

とまああくまでこれが事実と仮定しての話ですが、お役に立ちますでしょうか?

( ^_^ ;)




──はい!十分助かりました!ありがとうございます月浦さん!!


直ぐに返事を返し、私はスマホを閉じた。


よし、今日はもうスマホは見ないように、


その時だった。


──バチッ


部屋中の明かりが消えた。


停電?

電気をつけすぎたせい?

玄関に向かい入口にあるブレイカーを探す。


ふと、玄関に隣接したキッチンの磨りガラスに人影の様なものがチラリと見えた。


暗がりでよく見えない。


ゆっくりとブレイカーに手を伸ばす。


「お手伝いしましょうか……?」


「きゃっ!?」


扉越しに聞こえた女性の声。


先程、私におかえりと言ってきた謎の女性の声。


口から飛び出しそうな心臓を押さえつけ、私は何とか呼吸を整え口を開いた。


「こ、コオリノさん……?」


「まあ嬉しい……名を呼んでくれるのですね、そうですよ猫さん……」


ゾクリとした。


背筋を凍り付かせるような冷たい声。

見えてもいないのに、扉の向こうで何者かが、こちらを見て不敵な笑みを浮かべている様に思えた。


不意に、先程月浦さんが言っていた言葉が頭を過ぎる。


──コオリノさんへの認識を限りなく無くしていけば……。


「こ、コオリノさん何て私は知りません!」


耳を塞ぎ、近所迷惑など考えずに私はそう叫んだ。


「居ますよここに……」


扉の向こうでまたもや冷ややかな声。


──ビシッ


大きな家鳴りが響く。


「ひっ!?」


思わずその場にしゃがみ込む。

けれど直ぐに私は、


「コオリノさん何て知りません!」


「知ってるでしょ……?貴女は私のお話を気に入ってくれたじゃないですか……」


「知りません!そ、そんなの、そんなの知りません!!」


再び扉に向かってそう叫んだ瞬間、


──カチッ


部屋の明かりが一瞬明滅したかと思うと、そのまま眩い光が部屋中を灯した。


電気が……点いた?


あの声も聞こえない。


消えた……?


私は体中から力が抜けるのを感じ、その場にへたり込むように座った。


手に持っていたスマホを手に取り、Twitterを開く。


コオリノさんの名前は……ない。

フォローとフォロワーからも名前が消えている。


「本当に消えたんだ……良かっ……た」


がくりと肩を落とし頭を垂れた。


「はあぁぁ」


深い溜息をつき顔を上げた時だった。

スマホのタイムラインが激しく動いた。

何かが連続して投稿され他の投稿が押し流される。


何……これ……?


何通もの同じtweetだ。

唖然としながら投稿に目をやると、



怪談作師@コオリノ@txF9xDLPCDsARyK・1分


ココニイルヨココニイルヨココニイルヨ

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怪談作師@コオリノ@txF9xDLPCDsARyK・1分


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怪談作師@コオリノ@txF9xDLPCDsARyK・1分


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怪談作師@コオリノ@txF9xDLPCDsARyK・1分


ココニイルヨココニイルヨココニイルヨ

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ココニイルヨココニイルヨココニイルヨ

ココニイルヨココニイルヨココニイルヨ


「うわあぁぁっ!?」


手からこぽれ落ちるスマホ。床に落ちるのと同時に窓のカーテンが大きく揺れた瞬間、部屋の明かりが明滅した後、また部屋中が暗闇に包まれた。


──ビュウッ


突風のような風が部屋に吹き込み、テーブルや棚に置いてあるものがパラバラと音を立てなぎ倒されていく。


そんな最中、私の視線はベランダに釘付けになっていた。


雲間から見える、微かな月明かりに照らされたペランだに、着物を着た女性の人影があった。


「迎えに来たよ……猫さん」


暗闇に真っ赤な唇が蠢いた。

瞳に宿る嬉々とした火の色が妖しく揺らめく。


「さああぁぁぉっ行こおおぉぉぉぉっ!!」


影が一際大きくなり私に覆い被さってくる。


「いやああぁぁぁっ!!」


つんざく様な悲鳴をあげた瞬間だった。


──パチッ


唐突もなく部屋の明かりが点いた。


「えっ!?」


反射的に顔を上げるが、目の前にさっきの影はない。部屋にも、ベランダにも。


「何……何で……何が……」


呆然としたまま、私はまたその場にへたり込んでしまった。


床に転がったスマホに目をやると、通知の知らせが入っている。


月浦さん……?


画面に表示された名前に安堵し、思わずスマホを拾い上げTwitterを立ち上げた。


月浦影ノ助@6VPfGQm1oGSP0es:1分

返信先:@Cm4I4


猫さんそちらはどうですか?

実はあれから色々考えまして、もしかして思い違いをしていたかもと思い、スイカ羊さんと少し動いておりました。

その矢先に先程の大量のtweetが確認できたので心配になりtweetしました。




思い違い?スイカ羊さんと?


一体なんの事だと混乱する頭を必死に抱え、私宛のtweetに目をやる。


月浦影ノ助@6VPfGQm1oGSP0es:1分

返信先:@Cm4I4


まず、自分は猫さんにあの人を認識しないようにと言いましたよね?

実はあれがそもそも間違っていたんじゃないかと思ったんです。

まず、あの人の呟怖を思い出してみてください。

続きます。



呟怖 ……確か……。

これを書いた者が本当に人間とは限らない。

もしかしたらこの世ならざる者が書いているかもしれないからだ。

それを確かめる術などないのだから。

けれど……。

読んでいる者もまた、本当に人間かどうかなど、私にも分からない。

確かめる術は……ない。


だった。


月浦影ノ助@6VPfGQm1oGSP0es:1分

返信先:@Cm4I4


呟怖の前半はあの人自身の事、後半は読み手に対しての事、そう説明がつくのですが、ここに見落としがありました。

前半後半も含めてですが、これはあの人にも当てはまるんじゃないかと思ったんです。

つまり、あの人も書き手でもあるけど読み手でもあるという事です。

続きます。


月浦影ノ助@6VPfGQm1oGSP0es:1分

返信先:@Cm4I4


つまりあの人は、こちらのリプやメールにも、呟怖に書かれた内容と同じように反応しているのではと思えたんです。

そこから察するに、あの人は自分の存在定義さえ曖昧なのでは……と。

自分が何者なのかも定まっていない。

誰かに認識してもらうと言うよりは、自分という存在を自身が認識する事によって、この世に自分という存在を作り出そうとしていたのではないかと。

続きます。



そこまで読んで、私はコオリノさんと初めて会話をした時の事を思い出していた。


──私はお互い人間同士だと信じてますよw


私は確かに彼女にそう伝えた。

あの言葉を彼女が自分の存在定義として認識したとしたら……。

自分は人間なのだと思い込んだとしたら……?


──貴女のおかげでここまで……。


コオリノさんが呟いた言葉。

何かが、いや、全てが繋がったような気がした。


月浦影ノ助@6VPfGQm1oGSP0es:1分

返信先:@Cm4I4


そこでスイカ羊さんの出番というわけになりました。

予めスイカ羊さんに、知り合いに片っ端からお願いして、#コオリノなんかいないよ、というハッシュタグを付けてtweetするようにお願いしたんですよ。

スイカ羊さんはこの界隈では顔も広いですし、行動力も半端ないですから。

(^ ^)




そこまで読んで私はさっきの出来事を振り返った。

つまり、私があれだけ否定しても消えなかったコオリノさんは、Twitterで月浦さんやスイカ羊さん達が動いてくれていたから……。


スイカ羊@suika_sheep :1分

返信先:@6VPfGQm1oGSP0es

返信先:@Cm4I4


いやあ作戦成功ですな月浦軍曹殿。

(*≧∀≦)ゞチャッ!


月浦影ノ助@6VPfGQm1oGSP0es:1分

返信先:@suika_sheep

返信先:@Cm4I4


いえいえ、スイカ羊中将も大活躍でしたよ。

(^ ^)

おかげで思ったよりもあの人に素早く伝わったようです。

先程確認しましたが、フォローとフォロワーからあの人の名前が消えていました。

あれだけのハッシュタグのついた投稿を見せられたんですから、自分の存在定義が崩れたのかもしれませんね。

いやはや、まさかこんな形で心霊体験をするとは思ってもみなかったですよ。

大変興味深いです。



スイカ羊@suika_sheep :1分

返信先:@6VPfGQm1oGSP0es

返信先:@Cm4I4


みたいですね。

先程のTwitterのタイムラインに上がっていたあの人の謎tweetも全部消えていましたから。

まあ流石に#コオリノなんかいないよ、を皆に拡散させたおかげで不審に思った人もいたみたいで、フォロワーさんもちょっと減っちゃいましたけどね。

それでもそれくらいで減るようなフォロワーなら別に居てもいなくてもって感じですけど。

アハ(*´▽`)ノ♪。.:*・゜♪。



猫とぽてち@Cm4I4:1分

返信先:@6VPfGQm1oGSP0es

返信先:@suika_sheep


皆さん本当に色々とすみません、なんかとんでもない事に巻き込んでしまって……(இдஇ`。)



月浦影ノ助@6VPfGQm1oGSP0es:1分

返信先:@suika_sheep

返信先:@Cm4I4


いえいえ、猫さんが無事で何よりです。

良ければ落ち着いた頃にでもいいので、今回の全貌をお聞かせ頂けたらと思っております。

あ、やっぱりこれ不謹慎ですかね。

( ^^ ;)



猫とぽてち@Cm4I4:1分

返信先:@6VPfGQm1oGSP0es

返信先:@suika_sheep


いえ、月浦さんらしいですww

分かりました。

いつかこれをお話に出来たらと思います。

本当に本当に……二人とも、ありがとうございました!



スイカ羊@suika_sheep :1分

返信先:@6VPfGQm1oGSP0es

返信先:@Cm4I4


困った時はお互い様ですから!

お気になさらず。

自分も貴重な体験をさせてもらったっス。

(((o(* ° ∇ ° *)o)))




二人との会話を終え、私はスマホをそっと閉じた。


「終わったの……かな……?」


顔を上げ、ゆっくりと辺りを見渡す。


「明日で……いっか」


散らかった部屋を見て疲れが一気に肩にのしかかってきた。

私はふらふら立ち上がると、そのままベッドに沈み込むようにして倒れ込んだ。

そしてそのまま海面に漂う漂流物の様に、深い眠りに身を委ねた。




あれから数ヶ月が立った。

あのコオリノさんの一件は呟怖界隈ではちょっとした騒ぎとなったが、真相を知るのは私を含めて三人だけ。


頭の中でコオリノさんの名前を浮かべても、決して私たちはtweetでその名を呟く事はなかった。

忘れたいと言うよりも、何か拭えぬ恐怖と言うものがそこにあったからかもしれない。


そんな事を考えながらその日も仕事に勤しんでいると、休憩中、最近仲良くなった同僚の女の子とTwitterの話題になった。


「美香、呟怖って知ってる?」


「えっ……?」


驚いた。まさか同僚から呟怖という言葉を聞くとは思ってもいなかったからだ。


「あ、うん知ってるよ……」


「だよね、美香怪談とか好きだって言ってたし。それがさ、最近その呟怖って言うのにちょっとハマっちゃって、あれってちょっとした時間に読めるからいい暇つぶしにもなるんだよね」


「う、うん、そうだね。因みに誰か好きな書き手さんとかいるの?」


「いるよ、トワイライトタウンさんとか、月浦さんにスイカ羊さん、あと……」


「あと?」


「ううん……忘れちゃった」


「もう何それ」


「あははは、あっ美香休憩時間もう終わっちゃうよ!」


「あっやば」


私たちは慌ててお弁当箱を片付け急いで仕事に戻った。


その日も無事仕事を終え、駅まで同僚の子と一緒に帰った。

途中のホームで別れ、また明日と互いに手を振り返した時だ。


「あ、思い出した!」


「思い出した?何が?」


「コオリノさん!呟怖の」


「えっ……?」



「じゃあまたね!」


同僚はそう言い残し、軽快な足取りで階段を登って行く。


私はただ呆然とその場に立ち尽くし、ぴくりとも動けずにいた。


彼女の名前が頭にこびりついて離れない。


手に持ったスマホのバイブが鳴った。


画面を開くとTwitterの通知。


開こうとする指が微かに震える。


定まらぬ指先を宙に投げ出していた時だった。通りすがる人集りの中から聞き覚えのある声が微かに耳に届いた。


風鈴の音が鳴るような、凛として涼やかな声。

けれどそれはどこか畏怖を含んでいるようにも感じられた。

夏の夕暮れ、蒸し暑さが漂う駅構内。

なのに私の額には冷や汗が滲んでいる。


確かに聞こえた。


私の耳元で、


「ただいま……」


と……。


──了──


































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