魔物で始めるレベルアップ 〜スケルトンに転生した俺と、ゴブリンに転生したギャルはダンジョンマスターとして君臨する〜

水色の山葵/ズイ

第1話 転生したらスケルトン




「ねぇ、うちこういうの詳しく無いんだけどさ、これって異世界転生って奴?」


 ゴブリンが詰まった排水溝の様な重低音で、まるでギャルの様な台詞を吐いた。

 このゴブリンがそんな喋り方をするのは当然の事だ。


 なんせ、俺と彼女はモンスターに転生しただけのただの学生なのだから。


「カカカ(そういう事だろうな)」


「あは、やっぱ何言ってるか全然分かんないね」


 因みに俺の転生先はスケルトンというべきモンスター。

 声帯が存在しない為喋る事ができない。

 なので、文字を書いて伝えている。


「なんであんたなんだろうね。なんだったら優也君とかだったら良かったのに。あ、でもこの姿見られるのは勘弁だわ~」


 声もどうにかした方が良いぞ。

 などとは言えない。

 スクールカーストという物に、俺は異世界転生した今でも縛られている。

 だって相手は、その頂点とも言っていい「ギャル」さんだ。


 彼女が言った「優也君」とは、俺たちが通っていた学校で最も女子からの人気を集めていたやはりスクールカースト上位のイケメン生徒の事だ。

 もしもこれがクラス転移で、その彼も何かに転生しているのなら勇者とかになっているに違いない。

 いや、モンスターだからドラゴンとか? もう神とかになってても可笑しくないな。


 なんて考えているが、俺たちの状況はそこまで余裕があるようなものでは無い。


「カカカ(そんな事より、まずはここがどこか調べないと)」


「確かに、流石オタク。ツッキーはこういう事ももしかして想定してたりするの? キモいね、まぁ助かってるから感謝してるけど」


 ツッキーとは彼女、柊四葉ひいらぎよつばが考えた俺のあだ名である。

 宮地摘木みやじつみきという名前なのでツッキー。俺の親が何を思ってこんなフザケタ名前を付けたかというとだな、俺が生まれて来る前に子供用の遊び道具を買おうとしているときに閃いたらしい。

 まんまじゃないか。


 まぁ、今はそんな事はどうでもいい。

 問題なのは今俺たちがいる場所だ。


 何とか、スケルトンとゴブリンという存在同士でありながら彼女の意味不明なまでの適応能力とコミュニケーション能力で俺たちが仲間である事を理解するに至ったが、だからと言って安全が保障されたという訳でもないだろう。

 証拠に今俺たちがいる場所は石で作られた謎の通路だ。


 人為的な構造物のように見える為、人の手が入っていない秘境などという可能性は無さそうだが、光が一切見えてこない事と地面がそのまま土になっている事から家屋の類では無い事は分かる。

 地下かもしれない、そんな予想が頭に浮かんだ。


「でも、進むしかないよねやっぱ」


 柊さんの提案は尤もだ。

 この場所にずっといても、何れエネルギーが無くなり死亡するのは目に見えている。

 スケルトンの俺はどうなるか知らないが、少なくとも肉がついているゴブリンの彼女には何より水分が必要なハズだ。

 ラクダは水分を貯蓄するコブをつけていたりするが、ゴブリンにそれらしい部位は無く、凡そ人間と同じ量の飲み水が必要だと思われる。


「カカカ(柊さんはどっちに行きたい?)」


 通路は一本道、問題は前に行くか後ろに行くかだ。

 どっちが正解かなんてわかる筈もない。


 ――この時の俺たちは、まだその決断で全てが決まるのだと理解していなかった。


「じゃ、こっちで」


 そう言って柊さんが進みだした方向に俺も進む。


「グギャギャ」


 何か出て来た。

 ゴブリンだ。ちなみに俺には柊さんとの外見の違いは一切分からない。

 ただ、どうみても敵対しているという事が分かる。

 牙をむき出しにして唸っているのだ。眼は血走っているし、狙いは俺っぽい。


 そりゃ、同族は狙わないか。


「ギャアア!」


 何か石の様な物を持ったゴブリンは、それを使って俺へ殴り掛かって来た。


「カッ!」


 俺はバックステップで下がる。

 しかし、転生してまだ一時間も経って居ない。

 身体が軽すぎて思う様に動かないし、筋肉が無くなったせいなのかパワー自体が下がっている気がする。


「やめろっ! つの……」


 自分の回避運動に精一杯になっていると、ゴブリンの背後に回り込んだ柊さんがその後頭部を殴打した。


 ただ、殴っただけでは流石に死なないし気絶もしていない。


「グギャァア!」


 立ち上がったゴブリンは標的を変え、柊さんへ襲い掛かった。


 俺は咄嗟にそのゴブリンに拳を突き出す、その瞬間腕の骨が鋭く変形した。

 まるで、刃のようになったその腕でゴブリンの頭が貫かれる。


『レベルが2に上昇しました』

『スキルポイントを1獲得しました』


 うん、なんか凄くぶち壊しなゲーム的音声が聞こえた気がする。

 まさかVRゲームの中なんて事は無いだろうが、どうやらこの世界、何らかのゲーム要素を持っているらしい。


「なんか、レベルが2に上がったとか聞こえたんだけど」


 どうやらレベルアップしたのは俺だけでは無いらしい。

 ゴブリンを殴打していたからか、柊さんにも経験値が入ったようだ。

 まぁ、経験値とかの概念でレベルアップしているのかも分かった物では無いけれど。


 俺はこれでもオタクだという自負がある。

 アニメも漫画もゲームも、主流の物はやっているしネット小説とかもちょくちょく読む。

 この流れを俺の脳がスーパーコンピューター並みの速度で分析した結果、俺は叫んだ。


「カカカ!(ステータス!)」


「書いてくれなきゃ分かんないって」


 そんな事を言っていた柊さんを後目に、俺の視界に文章が表示されていた。



―――――

 種族『スケルトン』

 種族レベル『2/10』

 技能樹スキルツリー

 【スケルトン1/10】

 【異世界人0/10】

 保持スキルポイント『1』

 スキル【骨形変化】

―――――



 マジでなんか出たよ。

 俺はどうやら、やばめな世界に転生してしまったらしい。

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