第65話
「ミッケラン伯爵、もうすぐバッジオでございます」
「ゲフッ…わかったわかった」
馬車の中で美女をはべらせて果物を食っていたミッケランは部下の報告に返事を返した。
その腹はでっぷりと太っており、顔は醜い脂肪で覆われている。
馬車に併走する部下であるノクスが続ける。
「どうしますか?朝まで待ちますか?」
「面倒じゃ…着き次第討伐を開始せよ。
わかっていると思うが、若く美しいメス以外は皆殺しじゃからの。
獣人のメス、今から楽しみじゃわいぐふふふふ………」
ミッケラン伯爵はこのためだけにバッジオ攻略を自ら志願したのだ。
密偵の報告によるとバッジオに残っているのは女・子供・老人・少数の男だ。
ゆえに5000の兵をもってすれば夜明けまでには全て終わるだろうというのが予測であった。
その時、急に馬車が歩みを止めた。
「何を止まっておるか、さっさと進まんか!」
さっさとバッジオ攻略を終わらせ、獣人のメスをペットとしていたぶりたいミッケランは苛立ちに任せて叫んだ。
「前方で何かトラブルがあったようです。私が見て参りますので少々お待ちを」
そう言い残しノクスは馬を走らせる。
「何があった!?なぜ歩みを止めたのだッ」
ノクスが先頭集団へと声をかける。
と、同時に異様な光景がノクスの目に飛び込んできた。
幅2m、高さ1mほどの巨大な岩の上に白い服を身につけた男が立っており、その周りを一定の距離を保ちながら剣を手にした兵達が取り囲んでいた。
だが、誰一人として斬りかかる者はいない。よく見ると微かに剣を持つ手が震えている。
岩のすぐ近くには剣を手にしたまま倒れた兵の姿があった。
唐突に白い服の男が大仰な身振りを交えて話し始めた。
「こんばんは、ノーザイア帝国兵のみなさん。
残念ながらバッジオは既に我々が制圧してしまいました」
ノクスは男を見上げながら叫んだ。
「お前は何者だ!我々ノーザイアの邪魔をしてタダで済むと思っているのか!?」
「これは失礼致しました。私としたことが名乗るのを忘れるなど…
私はロストエデン副官のジョーと申します。
ああ、覚えなくて結構ですよ。
それより、みなさんに心からの感謝を申し上げます」
感謝?何を言っているんだコイツは…それより倒れている者たちはコイツに殺られたのか??見たところ武器などは持っていないようだが…
それよりもロストエデンだと…例の要塞か、クソッ厄介な!
だが、確かヤツは今副官と言った。なら、ここでヤツを殺せば大金星だ…
そこまでノクスが考えたとき、ジョーを取り囲んでいた兵の一人が倒れている者を指差して叫んだ。
「感謝とは何だ!こいつらに一体何をしたんだ!!」
ジョーは全く動じずに
「彼らは私を斬ろうとしたのです。
だから、死んでもらっただけです。ですが、残念です…実験体が減ってしまって私は非常に悲しい。
ですから、実験に参加していただける皆さんには大変感謝しておりますよ」
先程とは別の兵がジョーに向かって怒りにまかせて叫んだ。
「実験だとッ!!ふざけるな!!」
ジョーはやれやれ…の身振りをして
「残念ですが、、、実験はもう既に始まっております。
そろそろですかねぇ…」
ジョーの言葉を待っていたかのように兵達がバタバタと倒れてゆく。
ノクスも身体の自由がきかずに地に倒れ伏した。
だが、倒れていない者もいた。彼らからすればなぜ仲間たちが倒れたのかさっぱり理解できない。
ジョーは笑いながら告げる。
「私の『特殊能力』は他の副官たちと違って殲滅するような能力ではなくてですねぇ。
半数にしか効果がないんですよ。
効果の無かった方たちも本来なら持って帰って実験したいところですが、いかんせん数が多いので…
断腸の思いですが処分させていただきます」
ジョーが右手を挙げた瞬間、全ての立っていた兵の額にスナイパー部隊の放った弾丸が撃ち込まれた。
ドサッと倒れる兵達
その場に立っているのはジョーだけとなった。
ノクスは倒れながらもジョーを睨み問いかけた。
「きさまッ…なにを…した…?」
ジョーはノクスに目をやり
「おや、まだ喋れるなんて優秀ですねぇ。
気づかなかったでしょう?辺り一体に毒ガスが充満していることに…
無色無味無臭の毒ガスです。
いつもなら致死性のガスを使用するのですが、今回は麻痺させるだけにしておきました」
「何の…ため…に…」
ジョーはやれやれの身振りの後目を見開き狂気の笑い声をあげ答えた
「ヒャーハッハッハ!実験ノためですヨ!!あなたバカですカ!?
おっと、取り乱してしまいました。
お詫びにもう一ついいことをお教えしましょう。
私のカワイイ子どもたちがあなた方の身体内に入り込んだのには気づきましたか…?」
ウソだッ!!あり得ない…身体の中に入り込んだだって!?
ノクスは今すぐにでも胃の中のものを全てぶちまけたい衝動にかられるが身体が麻痺していていうことをきかない。
コイツ何をする気だ……
ジョーは恍惚の表情を浮かべた。
「さて、仕上げと参りましょう。
ああ、本当に愉しみですよ…絶頂に達しそうです…」
ジョーがパチンと指を鳴らした瞬間、ノクスを含む麻痺していた兵たちの身体がビクンと跳ね上がった。
は、腹が、腹が痛い…何かが腹の中から突き上げ……
次の瞬間ノクスは見た。
自分の腹を突き破って出てきた漆黒の巨大な蜘蛛の姿を…
恐ろしい痛みに苦しむノクスを蜘蛛は見下ろす。そして、次の瞬間巨大な口を開けてノクスの頭をボリボリと咀嚼した。
ジョーは歓喜の涙を流し
「エ、エクセレェェェェン!!!
素晴らしい!!我が子たちよ!!!
すぐに戻り我が子たちを使って新しい実験をしなければ……
ヒャーハッハッハ!!!!」
しかし、ジョーはすぐにしなければならないことを思い出して歩き出した。
ジョーの目の前には馬車だったモノがあった。
というのは馬は先程の兵たちと同じく腹が大きく破け、近くにはその中から出てきたであろう蜘蛛が馬車の中のモノを喰うために覆い被さっていた。
ジョーはその蜘蛛に離れるよう指示を出した。すると、蜘蛛は大人しく離れてゆく…
そして、無造作に扉を開けた。
中の男はジョーを見た瞬間あられもない悲鳴をあげ懇願をはじめた。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ…た、たすけてくれ!
か、金か?ぜ、全部やる!すべてやる!
ほれ…ここにいる女も好きにして良い…
だから、ワシだけでも…!!」
ジョーはせっかくの愉悦を台無しにされ顔を歪めた。
「醜いですねぇ…本当なら潰したいのですがあなたにはまだ使い途があります」
ジョーが合図をすると、ジョー直属の部下が2人現れミッケランをうつ伏せに地面へと押し倒し押さえ付けた。
「さてと、少し痛いですが死ぬよりはマシでしょう?」
そう言ってジョーが取り出したのはメスだ。
そのままミッケランの後頭部にメスをいれた。
そして、露わになったミッケランの脳へ懐から取り出した小瓶の中の蟲をいれて縫合。
ミッケランを押さえ付けていたジョーの部下がパッと離れた。
「ギィぃぃヤァぁぁゃぁやぁ!!
あ、あた、頭の中で何かが…何かが動き回って……と、と、取って…ウギゃぁあゃぁア!」
しばらくのたうちまわっていたミッケランだったが急に静かになったかと思うと何事もなく立ち上がり、ジョーに跪いた。
「我が主、ご命令を…」
ジョーは満足気な笑みを浮かべミッケランだったモノへ何事かを呟いた。
「ハッ…お任せ下さい。すぐに」
その光景を震えながら見ていた美女たち
ジョーはその女たちに目を移し
「ああ、貴女達を忘れていましたねえ…
ご安心ください。貴女達もすぐに彼と同じになりますから…
ヒャーハッハッハ!!!!」
月明かりの中、ジョーの狂気の笑い声だけが響き渡った。
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