第15話

魔王軍は総勢500

精鋭だが、動かせる兵はこれだけなのだとすまなそうに魔王はうなだれていた。


全く問題ない。

彼らは戦闘に参加しないのだから…




興味本位で魔王軍を見ていた俺はその中にヤツを見つけた。ガースである。


ちょいちょいと手招きしてガースを呼び出す。


他の者は「おい、やべぇんじゃねぇのか…」「なんで呼ばれてんだ、お前…」とヒソヒソ話している。


ガースを向こうの部屋へ入るように促す。

そして、俺自身も部屋の中へ。


バタンと扉が閉まると同時に

「テメー!娘に何教えてんだ!?頭イカれてんのか!!それに俺はロリコンじゃねぇ!!」とバカでかい俺の怒声が響き渡った。




その後、皆に今回の作戦を話す。

ソドン村の戦闘を知らない者がほとんどなので、作戦を聞いて戸惑っているようだ。

口々に「そんなんで大丈夫かよ…」と小声で呟く。


魔王自らが皆を代表するかのように質問する。


「この作戦で本当に落とせるだろうか?魔法の類いも使用しないようだが…」


「あぁ、全く問題ない。今回は実験も兼ねている。もし、実験が失敗したとしても圧倒的に勝てる戦力を用意した。」


続けて魔王の質問が入る。

「それで、我々の役目は…?」


「あぁ、まずは戦闘に関してだが、ハッキリ言って…………無い。

というのは、今回の実験がうまくいくと戦闘中に巻き込まれて死ぬ可能性が非常に高い。

よって、君たちには旗を掲げてもらいたい。」



どよめきが起こる。当然だ。領土を奪還するために来たのに、旗を掲げろと言われれば誰でも同じ反応になるだろう。


だが、魔王とガースだけは納得している。


「それで、開戦はいつにする?今からか?」


「いいや、まだだ。もうそろそろカーミラの部隊が戻るはずだが…」


ドンピシャのタイミングで、ナターシャが「カーミラの部隊が戻りました。こちらに来るよう指示しますか?」と報告に来る。


俺はもちろんYESと答えた。




5分と経たずにカーミラの部隊が到着した。

その背後には、みすぼらしい服を着た魔族の女達。ほぼ全てが弱っており、中には目の焦点があってないような者もいる。


それを見た魔王は

「おいっ!?この者たちをどうしたッ!!」と俺に詰め寄る。

他の魔族も飛びかからん勢いだ。



一触即発の雰囲気の中、俺は大声で叫ぶ。


「落ち着け!!こいつらはウェル領で奴隷にされていた者達。つまり、お前たちが先の戦いで敗れたためにこうなっている者達だッ!!」


俺は更に続ける。


「わかるか!?本来ならソドン村の女達も同じことになっている!」


魔王軍の全てが自分たちの不甲斐なさが招いた現実を今、受け止めている。誰も言葉を発することすらできない。魔王ですら…


「お前たちはずっと同じことを繰り返すのか!?ノーザイア帝国が攻めてくる度に領土を奪われ、男は虐殺され、女は性奴隷に!!これを繰り返すつもりならアーガイア国は滅びた方が良いッ!」


俺は大仰な演説を続ける。


「答えは否!!今回は我々ロストエデンが力を貸してやる!!ここから反撃しようじゃないかッ!」


オォォォォォォォォッッ!!!

500の雄叫びがこだまする。


俺は魔王に「この者達を早くアーガイア国に帰してやれ。治療が必要な者も多いしな。」


魔王は涙を浮かべ「すまない…恩に着る…」と言った。



それから俺はカーミラに「ヤツは?」と問う。

すると、カーミラの部隊が左右に分かれる。

その中から引きずられて出てきたのは、ウェル領主の娘ムーアだった。

綺麗なドレスは埃にまみれ、ところどころ破れてもいる。


そんなムーアに俺は上から話しかける。


「よぉ、久しぶりだなぁ。ムーア様?」


ムーアはこんな状況の中、下から俺を睨みつけ


「キサマッ!!早くこの縛りを外せッ!わたくしが誰かわかっているの!!」


俺はムーアを睨みつけ

「そんな騒がなくても知ってるよ。ウェル領主の娘だよな?お前にはメイの父親の恨みがあるからな。……楽に死ねると思うなよ。」


俺の顔を見てムーアはヒッ…と声を上げてたがすぐに


「キサマらなどすぐにウェル城の兵が来て全員殺されるわ!!」


俺はニヤリと笑い、

「そうか…じゃあ行こうか。ご自慢の兵と戦いに。誰かこいつを文字通り引きずってこい!」


「それから宣戦布告も忘れずにな。大義名分を掲げて領土奪還といこうじゃないか。」




その約3時間後、俺たちはウェル領へと向けて進軍を開始した。




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