第9話

カーミラの部隊からの緊急連絡を聞いた俺は、司令官室に副官全員を集めた。

カーミラの部隊には、近隣の村を探索、そして結果を映像に撮って送るようにと指示していた。


「まずは、これを見てくれ。」


俺は副官全員に映像を見せる。そこに映っていたのは、アーガイア国のとある村。


魔族らしき子ども達がきゃっきゃっと走り回り、大人(男女ともに)は農作業、建築、露店での商売など。家では洗濯を干す姿。

近所の魔族に会えば挨拶をし、笑いながら(言葉はわからないが)おそらく世間話をしている。


さらに俺達を驚かせたのは、少数だがヒトも暮らしていることだった。それも、普通に。虐げられているわけでもなく、他の魔族と同じように。


映像が切り替わり、次はこの村の兵が映し出される。


「………。」


農作業を手伝っている者、建築を手伝っている者、子ども達の相手をしてあげている者。



平和な村の姿がそこにはあった。

魔族の村というと、もっとこう陰鬱なところを想像していた俺は衝撃を受けた。

少し見ただけだが、ウェル領の兵は民に威張っていたし、民はそんな兵に愛想笑いをしヘコヘコしていた。



「で、本題だが。カーミラの部隊からの報告によれば、今この村にノーザイア帝国の兵が迫っている。その数、およそ3000。あと、1時間もすれば到着する。」


「俺達には関係ないだろ?それに1時間じゃ、どうせ間に合わないな。」と、ニック。


「ガハハハ、相変わらず冷たいヤツじゃのう。じゃが、ワシが出張っても間に合わんのはおんなじだがな。」と、アレクセイ。


「司令官、間に合わないなら手を出さないのが得策だと思いますが。」とナターシャ。


俺はみんなの顔を見回して言った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そろそろ休憩にしよう。ガースさん、手伝ってくれてありがとうよ。せめて、飯食べてってくれ。」


ガースと呼ばれた壮年の男性は汗を拭ってから手を挙げて応える。


「おぉ、それはありがたい。いただくとしよう。」


「それにしても、村を守る兵が農作業なんてしてて大丈夫なのかい?ガースさん。」


「ハハ、きちんと見張りの兵はいますし、それ以外の兵は暇ですからな。暇を持て余すより住民の方に喜んでもらえ、さらに身体も鍛えられますから。いいことづくめですよ。」



わいわい食事をとっていると、カンカンカンカン…と非常を知らせる鐘が鳴った。続いて、「敵襲〜!!敵襲〜!!」と叫ぶ仲間の声。

慌てて、門のところへ走る。

1時間前の定時連絡では何も無かったはずだが…


「どうしたッ!!何があったッ…」

仲間の答えより先に眼前の光景に驚く。

門の前にはおびただしい数の敵兵とノーザイア帝国の旗に周りを囲まれていた。


「クソッ!これじゃ民間人を逃がす時間も無いぞ!!」


「隊長、どうしますか…この数は持ち堪えられません。もう…。」


ガースは叫ぶ!


「諦めるなッ!!民間人を安全なところに集めろッ!他の者はここで死守するッ!魔法士、迎撃準備!!」


ガースの指令と共に魔法士が呪文を唱え、発動させる。

炎の塊が敵を討つ。しかし、想定より威力が低く、10人討てたかどうか…。


「クソッ!魔法シールドかッ!!」


ガースは思わず悪態をついていた。


「魔法士、もう一度だ!!」


だが、その間に敵兵は門を破ろうとし、弓を放ってくる。数が多すぎる…


「うぁぁぁぁっ!!」

「矢が…矢が…俺の腹に!!」

「どうして…こんなことに……うぅぅ…」


ガースは指示を飛ばす!

「魔法士を守るんだ!!メッセージは飛ばした!本国から救援部隊が来るまで何とか持ち堪えるぞ!!」


どう見ても無理だ。ここの兵は約200。それに対して相手の兵はどう見ても2500は超えている。

この門が破られれば、若い女以外は殺されるだろう。捕まった女は……。


ガースはもう一度檄を飛ばす。


「兵達よ!!ここで命を捨てろッ!ここが突破されれば村は蹂躙され、若い女以外は殺されるッ!!お前たちと共に暮らした者たちが殺されるのだ!!俺たちが守るぞッ!!」


ガースの檄に呼応し、「オォォォォォ!!」兵の士気が上がる。



しかし、士気だけでは覆すことはできない。10分後、兵は半分にまで減っていた。門ももはや時間の問題だ。

せめて一矢報いてやらねば!と思い、単身で突撃しようとしたとき、ガースは信じられないものを見た。

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