彼女はなるべく、死にたいらしい。
@Reninoue
唐突に
僕は夏になると、心の奥がむずむずしてくる。
夏の太陽に照らされて揺れるアスファルト、馬鹿みたいに必死に鳴く蝉、夜の甘い匂い。
そのどれもが、僕の心をむずむずさせた。
親が事故で死んだ、つい先週の出来事だ。
いつも笑顔を絶やさなかった母の遺体は下半身が跡形も無くなっていて、父の遺体も同様に下半身が無くなっていた。まるで、マネキン人形を見ている気分だった。
確かに両親が死んでショックだったが、それを見て僕は美しいと思った。千切れた腹から飛び出している臓器などをみて密かに勃起していた。母の綺麗な白い肌が赤く染まっていた。危うくそのまま射精してしまいそうだった。
警察の人達が心配そうに僕を見ていたのでどうにか悲しい振りをした。
人間の死体がここまで美しいものだとは知らなかった。
葬式は親戚の人達が手際よく行ってくれたが、僕は葬式には出席しなかった。
あまりに急な出来事で、気持ちの整理がつかなかったし、母の死体を思い出してはオナニーをしていたから、忙しかったのだ。
そうして、行く当てのない僕を引き取ってくれたのは九州の田舎に一人で暮らしていた母方のおばあちゃんだった。
今は九州に向かう飛行機の中だ、窓の外の景色は真っ暗で、僕の心の中には不安がいっぱいで、疲れているはずなのに眠気は一向に来ない。
隣席の女性のイヤホンから漏れ出てくる軽い流行りの歌が耳障りで、なんだか腹が立つ。しかし、注意する勇気も無いので、黙って座っていることしか出来なかった。
これから僕はどうなるのだろうか。
そんな考えてもどうにもならないことを、必死に考えているうちに飛行機は空港へと降りたった。
機内から出て、小さなリュックサックを受け取り、空港の駐車場へと足を進める。
おばあちゃんは携帯電話を持っていないので、事前に待ち合わせ場所として空港の駐車場に来て欲しいと伝えている。歩く途中で周りを見渡すと、僕が想像していたよりも何もない場所だということに気づく。恐らく空港の周りは草原が広がっているのだろう。
だだっ広い駐車場の真ん中に、手を振っているおばあちゃんの姿が見えた、おばあちゃんの隣には年季の入った軽トラが見える。
「おばあちゃん」
僕はいつの間にかおばあちゃんに向かって駆け出していた。
「おばあちゃん!」
そのままの勢いで、僕よりも小さなおばあちゃんの体に抱きついた。草と土の香りがかすかにした。この小さな体にもあの美しい臓器が収まっていると思うと少し興奮する。
「辛かったねぇ」
おばあちゃんは僕の背中をさすりながら、そう言った。
「ううん、大丈夫。少し落ち着いてきたから」
手を離して、おばあちゃんの顔を見る。おばあちゃんは泣きそうな、それでいて嬉しそうなよく分からない顔をしていた。前に会った時よりも皺が深くなっている。おばあちゃんも娘が死んで辛いのだろう、目の下にはくっきりと隈が出来ていた。きっと、泣けるだけ泣いたのだろう。
「長旅で、疲れただろう。ご飯作ってるから家に帰ろうか」
そう言って、軽トラのドアを開けて乗り込む。僕もおばあちゃんに続いて助手席に乗り込んだ。軽トラは時々変な音をたてる事があったけど、それでも確実に目的地へと走っている。
運転をするおばあちゃんを見たけど、周りが暗すぎてどんな表情をしているのかが全然分からなかった。僕は何か会話をしようと話題を探したが、特に見つからず。おばあちゃんに会って安心したのか、そのまま眠ってしまった。
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