大好きなあなたのために

YouGo!

第1話 再会

「ここは……どこだ?」


 気がつくと、マルクは見知らぬ場所にいた。

 今まで自分が何をしていたのか、どこにいたのか、まるで覚えていない。周りを見渡してみると、そこには美しい景色が広がっている。青い空、白い雲、輝く太陽、どこまでも続く浜辺と広い海、背後には見たこともない種類の植物の林もある。ここはマルクの暮らしている町から遠く離れた、海辺のように見えた。

「まったく、どうなってんだ……わあっ!」

一通り辺りを見たのち、マルクは自分の姿の異変に気がついた。

「俺は……何で服を着てないんだ?」

 上半身は裸。下半身は赤の下着のみ。およそ人前に出られないような姿をしている。しかし、よく調べてみると下着の素材は特殊な繊維で編まれており、中の構造も普通ではなかった。

「これはもしかして……」

マルクがそう呟いたとき。

「あっ! マルクも来てたんだ! おーい!」

 後ろから彼を呼ぶ声が聞こえた。振り返ってみると、そこには懐かしい姿があった。

 金の髪、緑の瞳、透き通るような白い肌、林檎りんごのように赤い頬、そして輝くような笑顔を持つ少女。間違いない、アリスだ。

 アリスはマルクの元に駆け寄り、隣に座った。

「よかった! 私一人かと思ったから。でも、マルクもいるなら安心だね!」

アリスだ。アリスがいる。マルクはそう思うと、胸の奥がめ付けられるような心地がした。

「マルク、何で泣いてるの?」

「えっ?」

マルクはその両目から、大粒の涙を流していた。しかし、アリスに言われるまで全く気づかなかった。

「あれっ? おかしいな……何でだろう?」

おかしい、アリスには毎日会っていて、たまに会うことが嫌になる時もあるほどなのに、俺はどうして……。

「あっ! 分かった! 私のこの格好を見て感動したんでしょ!」

そう言ってアリスは立ち上がり、くるりと回って見せた。


 彼女もマルクと同じく、とても露出ろしゅつの多い服装をしていた。胸と股のみを隠し、その他はき出しというその格好は、年頃の男子であるマルクにはとても刺激の強い衣装だ。

 アリスは、普段はひらひらとしたワンピースを着ているため、その体のラインが見えることは滅多にない。しかし、今のアリスは違う。すらりと伸びた手足に、健康的に引き締まったウエストを惜しげもなくさらけ出し。胸とヒップは可愛らしいピンクのフリルに覆われている。そのフリルは彼女の動きとともに軽やかに揺れ、いやでも視線をそちらに引きつける。


 それにしても、改めて見ると彼女は本当に美しい。何を着てもよく似合う。今まで見た服は、いつものワンピースと、彼女がオペラで見せた舞台用のドレスのみだった。本当は、もっと色々な服を着てほしかったな……。


 また、普段は気づかなかったが、彼女の胸は意外にも豊満であった。上向きにツンと張ったいい形だ。


「どう? この格好かわいいでしょ?」

「あぁ! そっそうだな!」

マルクは目をらしつつ、焦って答えた。あまり胸ばかりジロジロ見ていては、流石に視線に気づかれてしまいそうだからだ。

「それにしても、この服何なんだろ? いつもの服とは違う布でできてるよね? 何か色々と小さいし……」

「あぁ、これはきっと水着みずぎってやつだろう」

「ミズギ?」

「着たまま水の中に入ってもいい服さ。特殊な布を使っているから、濡れても重くなりにくいし、泳ぎやすいんだ。……本物は初めて見るけど」

「えっ⁉︎ じゃぁこのまま海に入ってもいいの⁉︎」

「んっ? まぁ、そうなるな」

「やったー! じゃあマルク、一緒に行こう!」

「おっ、おい!」

そう言うとアリスは、マルクの腕を引っ張って、海の中へと入っていった。



 海へ入ったアリスはとても元気に遊んでいた。水をかけたり、泳いだり、もぐったり、浜辺に砂の山を作ったりもした。

 そう言えば昔、海についての本を一緒に読んだ時、アリスは海に行きたいと言っていた。マルクたちが住んでいる町からじゃ海はとても遠く、山をいくつも越えなくてはならず、まだ子どものマルクたちに、そんなことをするかねはない。だから、マルク自身も海を見るのは初めてだった。実際の海は、本で読んだり話で聞くより、ずっと綺麗きれいで広かった。この景色をアリスと共に見られたことを、マルクはとても幸せに思った。

 やはり、彼女がいる景色は美しく見える。波のしぶき、輝く水滴、日が反射してきらめく彼女の体。れてつやめく太もも、水がしたたる髪。彼女が激しく動くたびに見え隠れする腋のくぼみ。揺れる豊かな白い乳房、時折その間の隙間を見せつけるように前屈みになり、水着の食い込みを直しては今まで見えなかった膨らみをちらりと見せつけては、こちらを刺激してくる。おそらくこれらの行為をほぼ自覚なく行なっているのだからタチが悪い。

 ……いや! 何を考えているんだ! 自分は景色の美しさを考えていたはずだ! マルクはアリスに見惚れていたことに気づき、我に返った。しかしその時。


「マルク? どうしたの?」

アリスが話しかけてきた。

「調子悪いの?」

美しい顔が近くにある。緑の瞳で見つめられ、その柔らかな手で顔に触れられる。彼女は体を密着させ、剥き出しの肌の温もりと柔らかさを、マルクの体に直接感じさせる。ああ……本当に……

「マルク!」


 マルクは倒れ、気を失った。

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