002_壬/意味が無いが尊い覚悟!

『002_壬/意味が無いが尊い覚悟!

/2040/12/15

/DFW/平原/殺戮の平野

/ギルド『鬼斬』サブマスター 徳川秀吉中尉』


 『クリーンバッド』のギルドマスターが逃げていくのを見ながら俺が言う。

「今更だが、この前にもトラップを作って塵獣を殲滅をしたらどうだ?」

「安全策を取り過ぎれば、後ろの奴らが動かねえ。多少の危険は、覚悟でギリギリまで塵獣を引き付ける必要がある」

 セブンの態度にため息を吐きたくなる。

「ここが殺戮の平野と呼ばれているのは、伊達じゃない。塵獣は、人の意志に反応して発生する。首都に近いここでは、圧迫されて殺伐とした人々の意志がぶつかり合い、凶悪な塵獣が多い。塵獣の狩りを中心とするRMSのスカイSセクションのチームや大手ギルドが一週間も空けずに狩りをしているんだぞ」

「そのくらいじゃないと脅しにもならないだろ」

 そうあっさり言ってくるセブンに私も諦める。

「娘も出来たのだもう少し利口に生きる事も今後考えろ」

「善処させてもらう」

 セブンの心のこもっていない言葉を聞き流しながら離れる。

 セブンに言った通り、ここには、凶悪な塵獣が多い。

 本当にそんな塵獣が一斉にここに来たならばどうしようもない。

 だから、干支娘が総出動している。

 本気で厄介な連中は、既に殲滅を終了しているらしい。

 こちらに向かってくる大半は、『憤怒猪』、とにかく突進をしてくる猪の業獣。

 RMSの研究では、抑圧された都会の人間に意志に反応して発生した、何物にも囚われない突撃を繰り返す厄介な業獣だ。

 何が厄介といえば一切の戦略が通じない事。

 業獣とて一応には、恐怖や躊躇がある筈なのだが、こいつに限っては、そんな物は、存在しない。

 向かう先に針山があろうとも関係ない突き進む。

 だからこそ、色々なトラップを配置して分散、殲滅された中を残って突撃を続けている。

 そしてそんな事は、『クリーンバッド』の連中も知っている。

 この状況をみれば壁があろうがなかろうが突進を止めずに襲ってくると逃げに入る筈だ。

 正直、この時点でこの作戦は、成功といっても良い。

 『クリーンバッド』のギルドマスターは、色々言っていたが塵獣に襲われて被害が出たからっと他者を責める事は、出来ない。

 何故ならばここ、FWDにいるという事は、塵獣の殲滅する為なのだから。

 それでもセブンは、立ち塞がる。

 自分の背後に救うべき子供がいる事を知っているから。

「どうしてここに居る? ここは、危険だから安全圏からの殲滅継続を指示されてたはずだぞ」

 私の言葉にチューが肩を竦める。

「あれの出来の確認の為だよ。この作戦に間に合わせる為にたった二日で作ったんだよ。その初披露を見る資格くらいあると思うな」

「自信は、あるのか?」

 私の問い掛けにチューが首を傾げる。

「主で作ったダーは、大丈夫だっていってたけど、『獣法』は、まだまだ研究段階の代物だからね」

「セブンは、それに命を懸けるのか?」

 私の苛立ちに対してチューは、真剣な顔をみせる。

「もしも駄目な時は、あちきがお父さんの盾になるよ」

「本気で言っているのか?」

 私が睨むとチューが頷く。

「あちきは、あちきだけは、猫万を極めるのに事に全てを掛けている。もしもそれで失敗するならその責任は、あちきが背負うべきなんだよ」

 最初に招猫万五郎の転生の話を聞いた時から感じていた違和感の正体に気付いた。

 招猫万五郎は、ある種捨て身なのだ。

 高い地位も求めず、転生に失敗して全てを失う可能性も無視し、そしてチュー以外が自分の記憶すら消した。

 目的の為に全てを懸けている。

 まるで斬り為だけに研ぎ澄まされた細身の刃。

 失敗して死ぬ事を当然と考えている。

「残念だが、私がそれを絶対に阻止する」

 不満気な顔を見せてくるチュー。

「どうして、トクヒデさんにしたら、あちきよりお父さんの方が大切なんじゃないの?」

「だからだ、セブンが自分の為に血を分けた娘を犠牲にするなんて死んでも認めないからな」

 私の答えにチューが大きなため息を吐く。

「他人の拘りに妥協するなんてあちきになる前までは、考えた事も無かったよ」

「もっと妥協しろ。それがお前が招猫万五郎の転生でない武田雪子、チューだって証明だ」

 私がそう宣言する中、セブンの目前に百へ届く『憤怒猪』の群れが迫っていた。

『小田一二四の名の元に命ずる、突き進め『風爪』』

 セブンの手の中より、それが発動される。

 巨大過ぎる爪、突風をまとったそれを私は、見たことがある。

 フィリピンの天災を起こした災獣の爪だ。

 人の力では、どうしようもない百へ届く『憤怒猪』の群れ。

 それすらも真に人の力が及ばない天災、災獣の一部、『風爪』を使って生まれた『獣法』の圧倒的な風撃の前では、無力であった。

「成功だね」

 淡々とその様子を見るチューであったが、私は、見逃さない。

 その握られた手が安堵で緩まる様を。

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