002_乙/在り得ない知識?

『002_乙/在り得ない知識?

/2040/12/12

/DFW/平原/活力の草原

/ギルド『鬼斬』サブマスター 徳川秀吉中尉』


 申請を行い、四人を連れて『萌草』採取に適したフィールドに移動した。

「ここってあっちだとどこら辺になるの?」

 ピョンの疑問に私は、即答する。

「西関東の農業が盛んの地域だな」

 PCWからDFWに移動する際に必要なるのが『フォールポイント』と呼ばれる高さ三m、半径一mの円錐の装置なのだが、それは、個別識別され、基本RMSの支部からは、支部で認可されればDFWのどこにあるのも利用が可能であり、そこに距離の問題がない。

「これを使えば移動が楽になるね」

 雪丑、モーの言葉にチューが手を横に振る。

「残念ながらそれは、国際法で禁止されてる。特別な理由が無い限り元来たPCWの支部に戻らないと駄目だからね」

「そうしないと、航空会社が潰れちゃうしね」

 ピョンがそんな呑気を言っているが、立派な密出国になってしまう。

「雑談もここまでだ。採取用のフィールドで塵獣が殆どでないといっても皆無って訳じゃない。警戒をしながら採取を開始する事」

 セブンの指示にその娘達が素直に答える。

「「「はーい」」」

 新兵たちが散っていくのを見ながら私が言う。

「中尉になった今、また採取する新兵の護衛をする事になるなんて想像もしなかったな」

「尉官に上がるまでは、けっこうやっていた気がするな」

 セブンの苦笑混じりに言う。

「それには、お金が関係してくるんだ」

 チューがお金のマークを見せてくるとセブンが言う。

「そりょ階級が上がれば値段も上がるからな」

「それだけじゃないんだよ。初期は、階級が上がると引率可能人数も増えて居たんだけど、ちょっとした興味で統計で調べたら、階級に関係なしに三名以上の時と二名以下の時では、十倍近い差が出たんだよ。だから兵長以下が一名になる以外は、統一で二名になったんだよ」

 なかなか貴重な過去史だが一つ指摘しておかないといけない事があった。

「何で君は、採取を行わないんだね?」

 チューは、視線を逸らす。

「流石に上級大尉までやってたあちきが採取なんてねー?」

 曖昧な言葉で誤魔化そうとするがセブンが怒鳴る。

「関係ねえ! さっさと採取に向かえ!」

「はい!」

 チューが離れていった。

 暫くそんな感じで採取を監督しているとセブンが確認してくる。

「お前から見て奴等の採取は、どうだ?」

 俺は、モーを指さして言う。

「彼女に関しては、文句のつけようが無い。正に理想的な採取法だ。採取のやり方も私以上に綿密だ。チューは、知識的には、問題ないが手際にやや不慣れさを感じる。後の二人は、普通の新人より多少、知識があるって所で、途中途中で手が止まり、何か確認し合ってる節があるな」

「お前から見てもそうか……」

 セブンが何を考えているのか解った。

「例の記憶絡みの確証が一つ増えたといった所だな」

 渋々って感じで頷くセブン。

「俺も同意見だ」

 世紀の天才の招猫万五郎の記憶と技術かそれがどれだけの価値があるのか、想定すら難しい。

 間違いなく発覚すれば世界がひっくり返る騒動になるだろう。

 そんな中、セブンの視線が動く。

「『乙辰気空探』で塵獣を見つけた」

 視線の先に、私も『乙辰気空探』、気を放って周囲を探る技を放つと確かに塵獣が居た。

 相手は、『業獣(ゴウジュウ)』、ただ『B』、『ビースト』とも評される塵獣。

 こちらの生物を戦闘特化させた様な生き物で、研究によれば周囲の世界の過剰物理エネルギーから発生するらしい。

 戦争または、闘争による戦闘で発生したエネルギーが一番多く、一説には、核爆弾系統が使われると一度で数千匹が発生するとも言われている。

 今回は、比較的小規模な闘争だったのだろう、数匹の『角兎』だった。

 角が生えただけの兎と侮るなかれ、『萌草』を食す性質からDFWで勝手に増殖する。

 間違っても放置して良い代物じゃない。

 そして、『萌草』を餌にする事から新兵殺しという異名も持っている。

 上官が護衛していない新兵だけの場合に殺されるケースが多く報告されている。

 業獣は、物理攻撃が有効だが、護衛もつけられない新兵が安全圏で戦える銃火器等持てる訳もないからだ。

「『角兎』が出たぞ」

 それを聞いてチューが頷く。

「知ってる。あちき達で処理しておく? それとも他の新兵用に放置する?」

 一切の危機感を覚えていない事にセブンと視線で合わせて苦笑する。

「ここには、武力を持たない新兵もくる。処理しろ」

 セブンの言葉にピョンが手を上げる。

「あたしがパパっとやっちゃうね」

 そういって立ち上がると、指先に力を集め動かす。

 四法の一つ、『舞法』だな。

 主にダンスな様な大きな動きで魔法を発動させるこれは、他の四法よりも動作という縛りがある為、使い手が少ないとされるがいくつかの利点がある。

 『式法』の用な事前準備が不要であり、『詠法』に必須な詠唱が無いため、今の様に指だけの動きならば隠密性も高い。

「『甲子舞炎穿』」

 淡々と名前と共に指先から数個の炎が撃ちだされ、それらが全て、『角兎』に命中して絶命させていく。

「範囲、精度、威力どれも一級品だな」

 私の評価にセブンが半眼になる。

「だがな、あれじゃ売れないぞ。研究畑の奴の悪い癖だ。ギルドとしてやっていく上で資金は、いくらあっても足りないから次からは、確り売れる様に倒せ」

「……はーい」

 少し不満気にピョンが答えながら採取を再開する。

 時たま現れる『角兎』の狩りもしながら採取する事、暫くピョンが首を傾げた。

「何かあったのか?」

 セブンが尋ねるとチューが駆け寄ってくる。

「あきらかに採取しそうにない大人の人達がこっちにくる」

 指さされた方に『乙辰気空探』の上位『丙辰気空探』をすると確かに大人の気配をまとった連中が十人以上まとまってこっちにやってくる。

「Mの警邏組って可能性は、ないか?」

 セブンの言葉に私は、首を横に振る。

「Mの奴等なら気配を殺さないから『乙』の方で探査出来た筈だ」

 近づいてくる奴等は、こちらに気付かれないように接近してきていた。

 考えられる可能性は、そう多くない。

「そういえば、ここへの転移申請の時に職員に聞いたのだが、最近新兵が謎の失踪をする事が多いらしい」

 私の言葉にセブンが冷めた表情で言ってくる。

「謎の失踪か?」

「そうだ謎の失踪だ」

 私がそう肯定するとチューが一言。

「謎の失踪の大半が非合法の人身売買犠牲者だよね」

 セブンが苛立ちを籠めて言う。

「なあ、この手の事件は、つい最近もRMSの奴が大組織を潰してなかったか!」

「ああ、開発途上国の新兵を大量に売買していた多国間組織が潰されたな」

 私がそう説明するとチューが手を叩く。

「おお、あそこか。確か、ヨーロッパの旧貴族系と繋がりが強くてすぐ尻尾きりをして強かに未だに生き延びているみたいだよ」

「どうしてそういうのの根本解決に何処も動かん!」

 セブンの絶叫にチューが遠い目をする。

「上の連中は、横の繋がりが強い。まあ、それがあるからあちきは、上級大尉にとどまっていたんだけどね」

 苛立ちしか覚えない現実を感じる私達の所に問題の連中がやってくる。

 私とセブンの所に四人ずつ、計八人で牽制に入ってくる。

 新兵の確保を優先したのだろう。

 さてどうなることやら。

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