七尾の猫の干支オニギリ

鈴神楽

001 セブン×三=十二支?

001 セブン×三=十二支? 甲/新兵少女の実力は?

『001_甲/新兵少女の実力は?

/2040/12/12

/DFW/平原/活力の草原

/ギルド『鬼斬』マスター 小田一二四(オダイフシ)大尉』


「戦力を判断する上でいくつかの要素が存在する」

 サブマスターのトクヒデが誰に話掛けるになく語り始めた。

「まずは、数だ。相手は、少なくとも十人は、下らない。それに対してこちらは、どうだ?」

 俺は、指折り数えてみる。

「マスターの俺にサブマスターのお前。それと今さっき尻尾をつけたばかりの新人をRMSが推奨する管理可能人数二人を二人ずつの四人の合計六名だ。後、敵だがあそこの岩場の裏に用意された移動手段にほぼ同数いるな」

「普通なら絶望的な状況だな?」

 トクヒデの言葉に俺は、肩を竦める。

「まあな、御守がなければまた話が違うんだがな」

「そうだな、私達だけならあの程度の奴らが何十人居ようがどうにか出来る。だが、新人、先進国が定める『猫尻尾(キャットテール)』を受け取って『RMS』のメンバーになれる最低年齢十歳になったばかりの二等兵の少女四人を護りながらとなれば話が異なる」

 トクヒデの言う通りだ。

 はっきりいって新人を見捨てるか、自分達を犠牲にして一人でも多く逃がす算段をしなければならない状況だろう。

 その筈なのだが。

 俺の隣に立つその新人の一人、武田(タケダ)雪子(セツネ)ことチューが言う。

「ガオが一人でやりたいっていってるよ」

 ポニーテールを揺れるのを見ながらその視線の先、ロングポニーテールのガオ、雪寅(セツヨラ)が警棒で武装した男たちの前にショートパンツから細い生足を晒して立っていた。

「それでしたらぼくは、採取の続きしてます」

 オーバーオールを着たセミロングの雪丑(セツウシ)、モーが当初の目的である草原に生えた萌草(モエクサ)の採取を再開する。

「さっきの話の続きだが、戦力と考えた場合、性別、年齢、経験値、武装も大きく左右される。一般社会では、男女公平が叫ばれるが、戦闘においては、どうしても筋力で劣る女性は、不利だ。年の差なんて関係ない訳も当然ない。どう頑張った処で、十歳と二十歳では、戦闘力が倍以上違ってくる。こうしてこの『DFW』に居る以上、やつらも正規じゃないとしても『猫尻尾』を付けている筈で、雪寅と違って初めてとい事は、ありえないだろう。そして極めつけは、武装だ。こちらを殺す気は、無いから刃物こそ出していないが折り畳み式だといっても警棒と素手でやり合うのは、私でも避けたいくらいだ」

 トクヒデは、その説明に俺が付き合う。

「まあ、相手としては、尻尾つけて舞い上がっているガキを軽く叩きのめし、人質にして俺達を安全に始末したいって所だろうな」

 俺を視線を巡らせると、俺とトクヒデの動きをけん制する様に四人ずつで囲んできている。

 採取を続けているモーの事は、俺達の始末を終えた後にどうにかするつもりなんだろう。

「お嬢ちゃん大人しくしてれば痛い思いをしないで済むぜ」

 対峙していた男の言葉にガオが真剣な顔で告げる。

「痛みを恐れてちゃ強くなれない。安全な方法だけじゃ上を目指せない。おれは、この危険を乗り切って『猫万(ネコヨロズ)』を極める!」

 それを聞いて男たちが爆笑する。

「まさか猫万を極めるってよ!」

「若いって良いね!」

 そんな爆笑する様に俺は、少しイラっとした。

「ここは、マスターとして確り見守っててください」

 チューの言葉に漏らしていた殺気を収めると俺の周りにいた男達が安堵の息を吐く中、ガオと対峙していた男が警棒を振り上げる。

「ここは、大人として現実って奴を教えてやるよ!」

 振り下ろされた警棒をガオが、左掌で受ける。

『乙卯体手波』

 ガオがそう言いながら警棒を受け流した。

 茫然とした表情を浮かべる男にガオが落胆の表情をみせる。

「猫尻尾をつけているんだ、警棒での技も知り得られるのにただ振るだけでは、武装した意味もないぞ!」

「偶々だ、こんなガキが乙なんて使える訳がねえ!」

 男は、ガオの指摘などまるで理解せずに技も何もなく警棒を連続してふってくる。

 それをガオは、同じ技で受け流す。

「おいおい、何を遊んでるんだよ!」

 周りに囃し立てられた男が気を逸らした瞬間、ガオが踏み出し、右掌をその腹に当てた。

『乙寅体掌浸』

 ゆっくりと男は、崩れ落ちる。

「あの年で『乙』をあそこまで使えるとは……」

 トクヒデが驚きの表情を浮かべる。

 猫万、一人の天才が生み出した万の名を関するに相応しいありとあらゆる技の集大成。

 『十干支頭八手七尾』、猫万の戦闘技術。

 『十干』は、甲乙から始まる技のランクを意味すると言われ、『支頭』技の始まりを干支で識別し、『八手』は、技の体系でありその後に武器や使用属性を付けられる。

 最後の『七尾』が技の結果ともいえる。

 ガオの使ったそれで説明するなら『乙卯体手波』。

 『乙』二段目、『卯』反射型、『体手』手を使った体術、『波』波とするとなり、少し高度な手を使って受けた攻撃を波の様に受け流し。

 『乙寅体掌浸』

 『寅』近接打ち込み、『体掌』掌を使った体術、『浸』相手の内部に作用となり、少し高度な掌を使った相手の内部に浸透する打撃となる。

 これが医療や製造法等の場合、『十干支頭八手六足』となる。

 ガオが極めると言っているのは、この八手の一つ体技であり、俺が知る限り、最高ランク、奥義と呼ばれる『癸』を一つでも使えた物は、今では、何千万何億人を超すと言われる猫万の使い手の中でも両手で数えられるだけな事を考えれば男達が爆笑したのも当然だ。

 だがガオは、本気だ。

 そうじゃなければ、態々こんな状況で素手で戦う訳がないのだから。

 ここに至り男達もガオがただのガキじゃない事を気付き、俺とトクヒデを囲んでいた奴が怒鳴る。

「早くしろ! いつまでももたないぞ!」

「もたねえってただ囲んでたってるだけだろ!」

 どなり返す男に囲んでいる男が冷や汗を垂らしながら叫んだ。

「だったら代われよ! 生きた心地がしねえんだよ!」

「伊達に猫尻尾をつけている訳では、ないみたいだな」

 トクヒデは、僅かに踏み込んだ。

 それだけて囲んでいた男が大きく下がる。

 状況が悪さを知った男達は、二人掛かりでガオを襲う。

「頭を使ったな。前後からそれも前から上からの振り下ろし、後ろから横なぎ、これなら普通なら避けられないな」

 トクヒデの判断を俺も頷く。

「俺でも一方は、受けざる得ないな」

 しかしガオは、違った。

 左の中指で前方上部からの警棒を、右の中指は、後方右側からの警棒に合わせた。

 『丙卯体双指波』

 ガオの指に流される様に二つの警棒がぶつあたる。

 自らの意志とは、違う激突で男達の体勢が崩れた。

 前方の男のほぼ真下に体を沈めたガオが在った。

 螺旋を描く様に体を回しながらその肩が体勢を崩した男に当たる。

『甲亥体肩烈』

 男の体が宙に浮かぶ。

「あの威力からして気技も入ってないか?」

 俺の疑問にトクヒデが苦笑する。

「男の体を浮かしているのは、先程の警棒同士のぶつかりの反作用だよ。雪寅は、それに方向性を与えただけだ」

 そんな技の解析をしている間もガオが動く。

 ふっとんだ男に視線をやった男の一人に足払いを放つ。

『甲戌体足斬』

 これ以上ない見事に足を刈られた男の腹にガオの肘落としが入る。

『甲丑体肘浸』

 一撃で男が白目を剥く。

「助けにいった方が良いと思うよ」

 俺の隣に居たチューが促すと俺達から逃げるように囲んでいた男達がガオに向かっていく。

 ガオもその男達に向かって駆けだした。

『丁午体肘穿』

 通り過ぎる瞬間を狙った肘撃ちに男達は、股間を押さえて倒れていく。

「あれは、潰れたな」

 ヒュンとしたやな感覚を覚えながら口にする俺だったが、それに気づいて動こうとした時、チューが制止してくる。

「もうピョンが確認してるよ」

「見ないと思ったらそんな事をしてたか」

 俺は、連れてきた最後の一人、ワンピースを着たツインテール、雪卯(セツウ)、ピョンが近くの木の上から手を振っていた。

 次の瞬間、銃声が鳴り響き、ガオの足元が抉られた。

 それを見て、後ろから警棒で薙ぎ払いを払った男が言う。

「散々暴れてくれたな! だが、ここまでだ。もう生かして捕まえる事に拘らないぜ! 死にたくなければ負けを認めろ! そうだな、素っ裸になって仰向けで寝転んで足を広げろ! 潰された奴等の代わりに二度と子供を作れない体にしてやるからよ!」

「流石にここまでだな」

 俺が反吐が出そうな言葉を口にした奴に歩み寄る。

「お前達もだ! ライフルで狙ってるんだ! お前達がどんだけ強いかしらないがお終いだ!」

 後退りながらそういう男に俺は、足を止めずに言う。

「撃ちたければ撃てば良いだろう」

「ふざけやがって! やってやれよ!」

 男に言葉に答えるように移動手段を隠している岩場の上に居た男のライフルが火を噴く。

 その銃弾は、空気の壁をぶち抜き俺の肩に命中。

「この距離をしっかり一発であてるとは、少しは、ましな腕をしているな」

 トクヒデがそう感心するなか、男達の顔が強張っていた。

「冗談だろう? どうして無事なんだよ! おかしいだろ!」

 俺は、男を見下す。

「こんくらい『甲丑気帯変』で受け止められなきゃ大尉になれるかよ」

「嘘だろ? 新人の親に雇われたへっぽこスケットじゃないのかよ?」

 男が信じられないって顔をするが最初に攻撃をしてきた男がせき込みながら立ち上がる。

「スケットは、無視すれば良い。とにかくあのガキを殺せ!」

 トクヒデがガオの盾になる為に移動しようとした時チューが首を横に振る。

「もうピョンが終わらせた」

 その言葉が終わるかどうかのタイミングで岩陰から爆発する音が聞こえてくるのであった。

「……全部終わったようだな」

 トクヒデが淡々と言う中、木から飛び降りたピョン、制圧を終了したガオ、採取した大量の萌草を抱えてくるモー、そして隣に居たチュー。

 二等兵として初仕事が怪我人一人出ずに終われるのだから喜ばしい事の筈なのだが、激しい脱力感に襲われる。

「なかなか優秀じゃないかお前の娘たちは」

 トクヒデの言葉に俺は、肩を落としながらこぼす。

「父親初日だけどな」

 俺は、今日誕生日の十歳のなった実の娘達を見ながらどうしてこうなったのかを振り返るのであった。

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