真一とミノリ そして歌姫
第1話 星野真一という少年
学校のテストではいつも満点、スポーツも万能、おまけに容姿端麗でもあった。まだ幼い頃ならば周りから信頼もされていたが、年齢が上がるにつれて、周りは彼を妬むようになり、次第に避けるようになった。そして中学に上がる頃にはもうすっかり真一は周りから孤立していた。
そんな状況であったから、真一には一人の友達もおらず、思春期の真っ只中だと言うのに好きな人もおらず、誰かと付き合ったことなどあるはずもなかった。
しかし、そんな彼にも運命の出会いがあった。
相手は特殊部隊
先に述べたように、真一はとても優秀で、そして美しい容姿の持ち主であった。
普通ならばその魅力だけで同年代の女性の心を簡単に射抜けそうなものである。しかし、彼はずっと孤独で、恋愛経験もなく、そして当然のように異性をデートに誘ったことなど一度もなかったのだ。真一がミノリへの恋心を自覚してから、はや数ヶ月が過ぎたが、彼は未だにミノリへアプローチらしいものを何もできていない。その様子を客観的に見れば、彼の恋が成就する可能性はかなり低いことは明らかなのだが、当の本人は毎日彼女に会えてその笑顔を間近で見られるだけでも幸せだ、と言った様子だったのだ。
しかし、真一の恋を一気に発展させるイベントは、唐突に発生した。
「真一!今度の日曜日の予定は空いてる?よかったら一緒に出かけない?」
いつものように訓練を終え、休憩室で休んでいた真一に、ミノリはこう言った。真一は、事態があまりに急過ぎたため理解できず、ポカンとした表情をしていた。しかし暫くたって状況を理解し、驚いて飛び退いてしまった。
「ミノリ…?出かけるって、僕と?2人で?…今度の日曜日に…!?」
未だに混乱が残る頭で絞り出した言葉がこれだった。本人は、実はこれでも必死に平静を装おうとしているのだ。しかし真一の頭はもう大混乱であった。これはデートなのか、2人だけなのか、どこに行くのか、何をするのか、それよりミノリが近い、やっぱりカワイイ、これは期待してもいいのか・・・などなど。
恋をしたばかりの少年の心は、少しの事だけでもここまで大きく揺れ動く。
そんなことなど分かるはずもないミノリは、何事もないように質問に答える。
「うん、そうだよ!私と真一の2人だけ」
おお!と、真一は心の中で歓声を上げた。しかし、その喜びも束の間、ミノリはこう付け足した。
「
「そっ、そうか…」
真一は明らかに落ち込んでいた。考えてみれば当然だ。雅輝と大智は、真一がSOLAに入る前からミノリと一緒に作戦をこなしていた。その2人を誘わずに、わざわざ自分を誘うはずがない。雅輝と大智をどういう順番で誘ったかは分からないが、少なくとも自分は、ミノリの中であの2人以下の存在だということである。
真一はミノリの言葉から推察できる絶望的な事実に酷くショックを受けた。
しかし、そこで落ち込んだままでいないのが星野真一という男である。散々沈んだ後、これ以上ないほどの希望が残っていることに気がついたのである。
そう、過程や状況はどうあれ、自分は次の日曜日にミノリと2人でデートできるのだ。真一は伏せていた顔を上げ、元気にこう言った。
「うん、分かった!それで、どこで何をするのかな?集合場所はどこで、何時に集まろうか?」
するとミノリは嬉しそうに笑った。
「うーん、それはね…」
ミノリは真一から少し離れ、その場でクルリと一回転した。そして片目をつぶったイタズラっぽい笑顔と共に、唇に人差し指を当てながらこう言った。
「何をするかは、ヒ・ミ・ツ。当日のお楽しみ!」
真一には、彼女の回転と共に広がるスカート、なびく髪、そして何よりその表情がとても魅力的に映った。ミノリは次に、少し困ったような笑顔と共に、こう続けた。
「でも、集合場所と時間は分からないと大変だよね?」
そして、ミノリは真一の目を見て、まるで作戦を告げるとにのような口調で、しかし笑顔は絶やさずに言う。
「集合場所は
「はい!」
ミノリの口調につられて、真一まで作戦行動時のような返事をしてしまった。
「よろしい!それじゃぁ、当日はよろしくね!」
「おう!」
2人はそのまま別れて、それぞれの家へ帰った。真一はもう日曜日が楽しみでしかたがなかった。何をするのかは分からないが、紛れもなくミノリとデートするのである。その日1日、少なくともその用事の間は、ずっとミノリの隣に自分が居られるのだ、と。そう考えると真一の心は、もう天にも昇るような気持ちであった。例えその用事が30分で終わろうとも、その30分の間にどれだけの幸福があるか分からない。真一は晴れやかな気分で帰宅した。
後に、ミノリから真一にメッセージが届いた。
『言い忘れてたけど、当日は結構遅くまで付き合ってもらうことになりそう。お弁当は、私が作って持ってくね!楽しみに待ってて!』
そのメッセージを読んで、真一が狂喜乱舞したのは言うまでもない。
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